企業は支えがなければ不渡り手形を出すこともなく、倒産も起こりえない。ところが、この単純な事実が現実では驚くほど理解されていない。
いったい何が原因なのだろうか。一つには、高度成長期に培われた支えに対する感覚の麻痺が挙げられる。もう一つは、多くの取引業者が過当競争の産物として、安易に支えを受け取る状況だ。決済条件を強く主張すれば取引自体が成立しなくなる、という競争の歪みが背景にある。
支手の回転率が受手の回転率(ここで言う受手とは、手持、割引、そして廻しの合計を指す)を下回る会社は決して珍しくない。経営が順調な局面では大きな問題とならないかもしれないが、これが潜在的に大きなリスクを孕んでいる点は見過ごせない。
なぜなら、会社が窮地に陥った際、支手の決済がどれほど大きな負担になっているかを、赤字企業を訪れるたびに痛感するからだ。困難な状況にある企業に対しては、銀行は簡単に資金を融資しようとはしない。
銀行というのは、雨が降っている時には「傘はない」と突き放し、晴れている時には「傘をお貸ししましょう」と言うような性質を持っているものだ。
この習性を逆手に取り、会社が順調なうちに借り入れを行い、支手を減らしておくべきだ。しかし、順調な時期には資金繰りに困ることがないため、経理担当者に「任せっきり」という怠慢に陥りやすいのが実情だ。
経理担当者が、社長から指示されることもなく「会社の将来の安全のために、今のうちに支手を減らさなければならない」と判断して行動することはほとんどない。それどころか、資金に余裕が出てくると、支手を減らすことなく単名の返済に充ててしまうケースが多いのが現実だ。
だからこそ、社長自身が支手削減の方針を明確に打ち出し、その実現に執念を燃やす必要がある。特に、業績が好調で資金繰りに余裕がある時こそ、その絶好のチャンスなのだ。
社長自らが銀行と交渉し、「支手をなくして会社の安全を確保するために資金を貸してほしい」といった覚悟のある言葉を口にすべきだ。
銀行によっては、「なぜ支手を減らすのですか?利息のかからない資金調達をやめて、利息のかかる借金をするなんておかしい」という、全く的外れな反論をしてくることもある。
支手は決して利息のかからない資金調達方法ではない。実際には、購入価格の中に金利がしっかり織り込まれているのだ。こんな基本的な事実を理解できない社長では、話にならない。
支手の問題は金利だけにとどまらない。会社の信用を損ない、ひいては会社そのものを危険にさらしているのだ。「サイトが150日」という条件で新規取引を受け入れる会社などまず存在しない。一方、現金支払いとなれば、どの会社も喜んで取引に応じる。この明白な事実を理解できないのは、本当に不思議でならない。
支手は最も手軽な資金調達手段だ。手形用紙に金額を書き込むだけで済み、誰かに頭を下げる必要もなければ、特別な手間もかからない。だが、この「やさしさ」には必ず「危険」という代償が伴うものだ。
その危険は、信用の低下や倒産といった表面的な問題にとどまらない。社長自身の経営姿勢が甘くなり、無意識のうちに怠慢が積み重なっていく。その結果、会社の業績そのものがじわじわと悪化していくのだ。
これがさらに進むと、融手を発行することに何の罪悪感も持たず平然としている、完全に堕落しきった社長になってしまう。実際に、こうした社長に何人か出会ったことがあるが、こうなるともう救いようがない。
企業において支手(支払手形)の管理は、財務の健全性に直結します。支手回転率が受手(受取手形)回転率よりも悪い状態は特に危険で、企業が経営不振に陥った際に大きな負担となります。支手回転率の改善は、企業の長期的な安定と信頼性を確保するために重要な経営課題です。
支手回転率改善の重要性
- 支手削減の必要性
支手(支払手形)は簡単な資金調達方法に見えますが、これは表面的な利便性であり、実際には企業の信用低下や財務リスクを高めます。また、支手の繰り返し発行は経営の怠慢に繋がりやすく、安易な支手依存が企業の経営姿勢を甘くしてしまう危険性も含んでいます。 - 資金余裕の時に支手削減を進める
業績が好調で資金繰りが安定している時期こそ、支手の削減に着手する好機です。社長が銀行に直接交渉し、「企業の安全性を高めるために支手を減らしたい」と支手削減の意図を明確に伝えることで、銀行からの支援も期待できます。 - 支手は金利負担の隠れた要因
支手は一見、利息が発生しないように見えますが、実際には購入価格の中に支手を利用した分の金利が含まれている場合が多いです。この事実を理解し、支手を通じた資金調達の見かけ上の利点に惑わされないことが重要です。
支手回転率向上のための方針
- 支手退治の方針を明確にする
支手削減は企業の安全対策であり、業績が好調なうちに行うべき課題であると経営層が理解し、実行に移すことが大切です。支手削減の方針を社内で共有し、これを持続的に追求することで企業全体の経営姿勢が引き締まります。 - 取引条件の見直し
例えば「サイトが百五十日」など、長期支払い条件を提示してくる新規取引を避け、現金取引を求めることで、支手依存を減らす努力も必要です。現金支払いを歓迎する企業との取引にシフトすることで、支手依存体質からの脱却が可能になります。
企業の健全な成長と持続性を守るためには、支手回転率の管理を徹底し、安易な支手発行を控えることが、経営の安全と信用を支える基本です。
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