――だからこそ、とらわれず、しなやかに生きる
どんな成功も、いずれは敗れる。
この真実をあらかじめ知っていれば、
“絶対に成功しなければ”という強すぎる執着も、自然とやわらぐ。
また、生あるものは必ず死ぬ。
この真理を知っていれば、
「健康を保たなければ」「死を避けなければ」といった焦りや不安からも、少し自由になれる。
「無常(むじょう)」――この世界は常に変化し続ける。
だから、手に入れたものに固執せず、失うこともまた自然な流れとして受け止める心。
それが、執着や恐れから私たちを解放し、人生をしなやかに、安らかにしてくれる。
引用(ふりがな付き)
成(せい)の必(かなら)ず敗(やぶ)るるを知(し)れば、則(すなわ)ち成(せい)を求(もと)むるの心(こころ)は、必ずしも太(はなは)だ堅(かた)からず。
生(せい)の必ず死(し)するを知(し)れば、則ち生(せい)を保(たも)つの道(みち)は、必ずしも過(す)ぎて労(ろう)せず。
注釈
- 成の必ず敗るる:どんな成功もやがては衰えや失敗を招く。万物は変化することを前提とした道家思想的な発想。
- 太だ堅からず:執着しすぎない。必要以上に固執しない。
- 生の必ず死する:命あるものに死は避けられないという自然の摂理。
- 過ぎて労せず:生を保とうとする努力も、やり過ぎて心身をすり減らすようなことはしないという姿勢。
関連思想と補足
- 『老子』には「禍福は表裏一体」「驕れば咎を招く」といった教えが繰り返し出てきます。
これは、成功や栄光も過ぎれば転じて禍となる、という警句です。 - また、仏教の根本思想「諸行無常」も同様に、あらゆるものは移ろいゆく存在であると説きます。
だからこそ、今を大切に、そして変化を当然のこととして受け止める心が育まれます。 - 健康や成功といった“保ちたくなるもの”ほど、その背後には“失うことへの恐れ”が潜んでいます。
本項はその恐れを和らげるための、深い人生観の調律でもあります。
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