孔子は弟子たちに、「詩(詩経)」を学べと強く勧めた。
詩はただの文学ではなく、人間性を養い、社会や人々との関係を豊かにする学問であると説く。
詩を学ぶことにより――
- 興(こう):心が奮い立ち、感情が育まれる
- 観(かん):人々の生活や風俗を観察し、洞察力が深まる
- 羣(ぐん):人と親しみ、調和をもって生きる力が身につく
- 怨(えん):心のわだかまりを詩に託し、憎しみを昇華できる
詩を通じて感性が磨かれれば、近くは親孝行に、遠くは主君への忠誠に活きてくる。
また、詩を読む中で自然界――鳥獣や草木――への関心も高まり、幅広い知識と教養が身につく。
子(し)曰(のたま)わく、小子(しょうし)、何(なん)ぞ夫(か)の詩(し)を学(まな)ぶこと莫(な)きや。
詩は以(も)って興(こう)すべく、以って観(かん)るべく、以って羣(ぐん)すべく、以って怨(えん)むべし。
之(これ)を邇(ちか)くしては父に事(つか)え、之を遠(とお)くしては君に事え、多(おお)く鳥獣草木(ちょうじゅうそうもく)の名を識(し)る。
現代語訳:
孔子は言った。「お前たちはどうして詩を学ばないのか。詩は心を奮い立たせ、人情や社会を観察し、人と仲良くなり、恨みも昇華してくれる。親に仕えるにも、君主に仕えるにも役立ち、さらに多くの鳥や獣、草木の名前を知ることで、教養も深まるのだ」と。
注釈:
- 詩(し):『詩経』のこと。古代中国の詩集で、道徳・社会・自然を表現する文学教材。
- 興(こう):詩により感情や意志が高まること。
- 観(かん):詩に込められた社会や風俗を観察・理解すること。
- 羣(ぐん):集団や社会と調和して暮らす力。社交性。
- 怨(えん):不満や憎しみを直接的にぶつけるのではなく、詩として表現し昇華する。
- 邇(ちか)く・遠(とお)く):身近な人(親)と遠い立場の人(君主)への接し方としての活用。
原文:
子曰、小子、何莫學夫詩。詩可以興、可以觀、可以羣、可以怨。邇之事父、遠之事君、多識於鳥獸草木之名。
書き下し文:
子(し)曰(い)わく、小子(しょうし)、何(なん)ぞ夫(か)の詩(し)を学(まな)ぶこと無(な)きや。
詩は以(もっ)て興(おこ)すべく、以て観(み)るべく、以て羣(ぐん)すべく、以て怨(うら)むべし。
之(これ)を邇(ちか)くしては父(ちち)に事(つか)え、之を遠(とお)くしては君(きみ)に事え、
鳥獣草木(ちょうじゅうそうもく)の名(な)を多(おお)く識(し)る。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 孔子は言った。「若者たちよ、どうして『詩』を学ばないのか?」
- 「詩は、人の感情を奮い立たせることができ、観察力を養い、仲間との関係を築き、時には不満をやんわりと表現することもできる。」
- 「近いところでは親に仕える礼儀を学べ、遠いところでは君主に仕える心得が得られる。」
- 「また、詩には鳥・獣・草・木の名前が多く含まれており、自然についての知識も得られる。」
用語解説:
- 小子(しょうし):若者たち、弟子たちへの呼びかけ。
- 詩(し):『詩経』。古代中国の詩集で、儒教における重要な教養書。
- 興(おこす):感情を呼び起こす、感動・着想のきっかけになる。
- 観(みる):人物や社会を観察し、人間性を理解する。
- 羣(ぐん):仲間と調和する、社交性を養う。
- 怨(うらみ):直接的ではなく、婉曲的に不満や批判を表現する。
- 事父・事君(じふ・じくん):父や君主に仕えること=孝と忠。
- 鳥獣草木の名:自然界の生き物や植物に関する語彙と知識。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「若者たちよ、なぜ『詩』を学ぼうとしないのか?
詩は人の心を奮い立たせ、観察力を養い、人とのつながりを深め、時に不満を和らげて表現する手段ともなる。
身近なところでは親に仕える礼儀が学べ、遠くの世界では君主に仕える心得も身につく。
さらに、自然界の鳥・獣・草・木の知識も得られるのだ。」
解釈と現代的意義:
この章句は、詩(文学)の教育的価値と多面性を称えた孔子の教育理念を表しています。
- 感性と理性の両方を育てる学びとしての「詩」:
- 感動する心(興)
- 洞察する力(観)
- 社会性と協調性(羣)
- 不満を抑制する表現力(怨)
- また、『詩経』に含まれる内容が人間関係・政治倫理・自然知識のすべてに通じる教材であることも強調されています。
ビジネスにおける解釈と適用:
「人間力を育てる“感性の教養”」
- 詩や文学はビジネスに直接役立たないと軽視されがちだが、感性・共感力・表現力は、リーダーやチームビルダーに不可欠。
- “感じ取る力”が、部下や顧客の本音を察し、信頼関係を築く鍵となる。
「観察力と語彙力が人を導く」
- 人間観察、社会の読み解き、適切な表現…詩に触れることで、ビジネス上の洞察力と伝達力が磨かれる。
- 曖昧な不満を直接ぶつけるのではなく、“怨”のように配慮した表現が、対立を防ぎ、対話を生む。
「自然と文化の知識が視野を広げる」
- “鳥獣草木”の知識に象徴されるように、専門以外の知識を持つことは、アイデア創出や会話の豊かさに繋がる。
- 教養は信頼を生み、上司・部下・取引先との関係を円滑にする「無形の資産」。
ビジネス用心得タイトル:
「詩は心を養い、人を導く──“感性と教養”が信頼と調和を生む」
この章句は、実用性だけに偏らず、人間としての深みや広がりを持つことの大切さを語っています。
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