■引用原文(日本語訳)
聖バガヴァットは告げた。
「欲求、憎悪、苦楽、〔身体的部分の〕集合、意識、堅固(充足)。以上、『土地』とその変異が簡潔に説かれた。」
(『バガヴァッド・ギーター』第13章 第6節)
■逐語訳
欲望、嫌悪、喜びと苦しみ、身体の構成、意識、持続する力――これらすべてが「土地(身体・心)」に属するものであり、今述べたのはその変異(性質・作用)についての簡潔な説明である。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
欲求(カーマ) | 感覚的対象に対する執着。何かを「得たい」という衝動。 |
憎悪(ドヴェーシャ) | 望ましくないものを「避けたい」とする感情的拒絶。 |
苦楽(スカ・ドゥッカ) | 肉体的・精神的な快と不快。 |
身体的部分の集合(サングハータ) | 骨・筋肉・神経など、身体を構成する物理的要素の統合体。 |
意識(チェータナー) | 身体に宿る「感覚的意識」。魂(真我)とは異なる。 |
堅固・充足(ドゥリティ) | ある状態が維持され、現象として保たれる力。安定性・持続性の側面。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
クリシュナは、「欲望」「憎しみ」「喜び」「苦しみ」など、人間が「自分」と思いがちな感情や感覚、さらには身体の構造や意識までもが「土地(=物質的な領域)」に属することを明らかにしている。
これらは魂(アートマン)そのものではなく、“変異するもの”に過ぎないという区別が強調されている。
■解釈と現代的意義
この節は、私たちが日々感じている「欲しい」「つらい」「楽しい」といった感情や、身体の状態そのものまでもが、真の自分=観察者ではないことを明らかにしています。
これにより、私たちは「感じていること」に支配されず、それらを“起きている現象”として捉える自由を得ることができます。
■ビジネスにおける解釈と適用
視点 | 解釈と応用例 |
---|---|
感情マネジメント | 欲望(利益)や怒り(否定的感情)に飲まれそうになったとき、「これは私の本質ではない」と一歩引いて観察することで冷静さを保てる。 |
ストレス耐性 | 苦楽は「身体に生じる反応」に過ぎないと理解すれば、長期的な視点で行動を選択できる。 |
リーダーの安定性 | チームの問題が感情的に揺れる中でも、根源的な視点から状況を捉えることで、落ち着きと明晰さを保てる。 |
自己理解とセルフコントロール | 「これは欲なのか恐れなのか」「これは外的な変異か内的な判断か」と自問することが、判断力と洞察を深める。 |
■心得まとめ
「欲望も苦しみも、“自分”の一部ではない――それはただの現象である」
『バガヴァッド・ギーター』は、私たちが「自分だ」と思っている欲望・感情・肉体・意識さえも、変化し得る“場(土地)”であると説いています。
本当の「自分」とはそれを認識している存在=観察者(魂)であり、変化に巻き込まれずにそれを見る力を持っています。
この視点は、現代においてもストレスや感情の波に呑まれずに、穏やかで洞察深く生きるための力となります。
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