人からの恩恵や利得を受けるときは、慎みを持ち、
他人より先に出るような態度は慎むべきである。
しかし、徳を積み、善い行いをする場面では、
人より後れをとってはならない。
享受するものには分相応の節度を守り、
自分を鍛え成長させることについては、むしろ限界を引き下げてはならない。
控えめさと向上心、この両輪が人格を高めていく。
「寵利(ちょうり)は人前(ひとまえ)に居(お)ること毋(なか)れ。
德業(とくぎょう)は人後(ひとうし)に落(お)つること毋かれ。
受享(じゅきょう)は分外(ぶんがい)に踰(こ)ゆること毋かれ。
修為(しゅうい)は分中(ぶんちゅう)に減(げん)ずること毋かれ。」
注釈:
- 寵利(ちょうり)…名誉・報酬・利益など、人から与えられる恩恵や得。
- 人前に居る(ひとまえにおる)…他人より先に出て自己主張すること。出しゃばること。
- 德業(とくぎょう)…徳を積むこと、善行・奉仕・学びの努力。
- 人後に落つる(ひとうしにおつる)…人より遅れをとること。努力を怠るさま。
- 受享(じゅきょう)…物や恩恵を享受すること。利益を受ける。
- 分外(ぶんがい)…身の程を超えること。過剰な欲望。
- 修為(しゅうい)…自分を修めること。修行・自己向上。
- 分中に減ず(ぶんちゅうにげんず)…本来すべき努力を減らすこと。自分を甘やかすこと。
1. 原文:
寵利毋居人前、德業毋落人後。
受享毋踰分外、修爲毋減分中。
2. 書き下し文:
寵利(ちょうり)は人前に居(お)ること毋(な)かれ。
徳業(とくぎょう)は人後に落(お)つること毋かれ。
受享(じゅきょう)は分外に踰(こ)ゆること毋かれ。
修為(しゅうい)は分中に減(げん)ずること毋かれ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「寵利は人前に居ること毋かれ」
→ 恩恵や利益は、人より前に出て独占しないようにせよ。 - 「徳業は人後に落つること毋かれ」
→ 道徳的な行いや努力においては、人に後れを取ってはならない。 - 「受享は分外に踰ゆること毋かれ」
→ 自分の分を超えてまで贅沢を求めてはならない。 - 「修為は分中に減ずること毋かれ」
→ 自分に課せられた務め(修養・努力)を怠ってはならない。
4. 用語解説:
- 寵利(ちょうり):他者から与えられる恩恵・利益・特権。
- 人前に居る:他人より先に出てそれを独占すること。
- 徳業(とくぎょう):道徳的行為と積み重ねた努力や功績。
- 人後に落つる:他人より遅れて取り組む、後れを取ること。
- 受享(じゅきょう):享受すること、与えられたものを受け取って楽しむこと。
- 分外(ぶんがい):自分の分(立場・資格)を超えること。
- 修為(しゅうい):自己修養、人格の向上や日常の実践的努力。
- 分中(ぶんちゅう):自分の本分・責務の中。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
利益や特権は、他人を押しのけてまで先に受けようとしてはいけない。
しかし、道徳的な行いや努力においては、他人に後れを取ってはならない。
また、享受することにおいては自分の分を超えないようにし、
修養や自己鍛錬においては、分の中で怠けてはいけない。
6. 解釈と現代的意義:
この章句は、**「バランスある生き方の4原則」**を簡潔に提示しています:
- 利益は控えめに受け取る
- 努力や徳は他人に遅れを取らないようにする
- 享受は身の丈に応じて
- 修養は怠らずしっかり行う
つまり、「表では謙虚に、内ではたゆまず努力を」「享受は節度を守り、修行はしっかりと」という、人生における処世のバランス感覚を重視した教訓です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「功績や報酬を他人より先に求めない」
チームでの成果を自分だけの手柄とせず、功は皆で分かち合う謙虚さが信頼につながる。 - 「倫理と努力では“先に出る”べし」
誠実な行動や、地道な努力においては、誰よりも積極的に。
背中で語るリーダーシップが重要。 - 「役職・収入に応じた生活を守る」
自己の立場をわきまえ、無理な贅沢や過剰な享受は避けるべき。
それが組織全体に節度と安心感を与える。 - 「本分の中での自己研鑽を怠らない」
与えられた職務や役割の中で、日々の努力を惜しまないことが信頼と成果を生む。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「謙虚に受け、誠実に尽くせ──節度と努力が信頼を築く」
この章句は、現代においても「控えめで誠実な行動」と「日々の研鑽」の両立こそが、人生の安定と他者からの敬意を生むことを示しています。
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