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戦略条件を強化する

経営戦略において、事業構造を高収益型に導くことは最も重要な要素である。しかし、適切な条件や柔軟な戦略がなければ、成長の壁に直面し、経営は停滞してしまう。

本記事では、成功企業の実例を通して、変化する市場や顧客ニーズに対応する柔軟な経営姿勢の重要性を考察する。

特に、効率的な事業構造の構築、リソースの集中、信頼構築の工夫がどのように企業の成長と安定を実現するかに焦点を当てる。

目次

1. 高収益型の事業構造を目指す経営戦略

経営戦略とは、「事業構造を高収益型に導く」ことであると述べた。

しかし、事業構造自体の条件が適切でなかったり、重大な制約が存在したりすると、それが高収益への障害となってしまう。

こうした場合には、条件を変更するか、あるいはその条件を避ける必要がある。また、制約があるなら、それを取り除かなければならない。

さらに、客観的な情勢が変われば、その変化に合わせて戦略を調整する必要があるし、成長の過程で壁に直面することもある。

順調に発展してきた企業でも、年商が30億から50億円に達するあたりで壁にぶつかることが多い。この壁を突破すれば、あとは青天井の成長が見込める。

しかし、この成長には客観的な情勢の変化が大きな影響を及ぼす。

こうしたさまざまな状況の中で、成長と繁栄を実現していかなければならないのが社長の役割だ。

過去のやり方にとらわれず、新たな戦略を立て、それを推進していくというスクラップ・アンド・ビルドの基本姿勢こそが重要である。

そのような状況に直面したとき、どのように対応すればよいのか。具体的な実例を挙げながら考えてみよう。

S社は、婦人フォーマルウェア(礼服)の分野で業界トップの占有率を誇る企業であり、その社長は女性である。

2. 成長の壁とスクラップ・アンド・ビルドの姿勢

S社が業界ナンバー・ワンとなった秘訣は何だったのか。フォーマルウェアが和服から洋服へと移行した際、その変化が最初に現れたのは喪服であり、その色は黒が定番であった。

S社はこの流れに乗り、カラーバリエーションをすべて捨て、黒一色に絞るという大胆な決断を下したのである。この英断が功を奏し、S社は毎年売上が倍増するという急成長を遂げたのだった。

黒のフォーマルウェアの成長が一段落したタイミングで、S社は新たにカラーフォーマル市場に進出した。

機を見るに敏である。

同社にとってカラーフォーマルは新たな市場だったが、和服から洋服への転換が確実に進んでいる流れを捉え、この分野でも順調な成長を遂げた。

次に、S社は新たに小売業への進出を果たした。

3. 市場の変化に対応したS社の成功戦略

同社の成功の要因は、まず商品を黒のフォーマルウェアに絞り込んだ点にある。

事業の初期段階においては、絞り込みの原理に従って商品を徹底的に絞り、そこに全力を注ぐことが占有率を獲得する基本戦略である。これによって、競合に勝る資源を一点集中で投入することができるからだ。

こうして確固たる地位を築いた後、その強みを基盤に新たな商品を導入し、再び競合他社を上回る戦力を投入することで、さらなる優位性を確保することができる。

会社全体としては総合化を図りながらも、各商品に関しては特化と同様のアプローチを取っているのである。

この点を十分に心得て、常に競合より優位に立つことこそが、賢明で効果的な戦略である。

S社長が変化の方向とタイミングを外さなかったのは、市場の動向と顧客の好みの変遷を、優れた勘と注意深い観察力によって的確に把握していたからにほかならない。

4. 95%の原理と新事業の展開

S社は、人口10万余りの地方中心都市に拠点を置く食品包装資材の納入業者であり、社長の懸命な努力により、その地域での占有率は90%に達していた。

さらに売上を拡大したいものの、隣の都市までは50キロも離れており、別の経済圏に属しているため、進出にはまだ力不足であった。

しかし、このままでは事業が停滞し、上昇する人件費や経費を賄うことができない。完全に行き詰まりの状態に陥っていた。収益がじわじわと低下する中、S社長の苦悩は続いていた。

そんなある日、S社長はふと筆者のセミナーで聞いた「95%の原理」を思い出した。そして心の中で「アッ」と気づかされたのだった。さっそく分析データを見直してみると、今度はまさに本当に「アッ」と驚くことがあった。

それは、全得意先1300社のうち、売上の95%がわずか300社で占められていたからである。残りの1000社は、総売上のたった5%しか占めていなかったのだ。

この1000社を切り捨てれば、社員はおそらく半数で済む。その減らした人員を、新しい事業に充てることができるのだ。

切り捨てについては、社員に希望者がいれば独立させて事業を譲ることを考えた。幸いなことに、一人の希望者が現れたため、この社員にまず500社ほどを譲渡することとした。

独立する社員には、S社の商品を卸し、決済は集金後としたため、運転資金は必要ない形とした。S社長はこの社員を連れて譲渡する得意先に挨拶回りをし、責任は自分が取ることを約束した。得意先もこの計画に心よく同意してくれた。

この戦略は大成功を収めた。商売上の問題は一切なく、独立した社員の収入は在職時の3倍以上となり、本人も大いに喜んでいた。経費が大幅に削減されたことがその要因だった。

余剰となった人員の中から二名を選び、新事業の構想に基づくテスト販売を担当させた。この新事業とは、周囲の山で採れる山菜や野草を業務用として販売するもので、近隣の温泉旅館や周辺の割烹を当面のターゲットとした。

この新事業は意外なほど早く成功の兆しを見せた。若いセールスマンが社長の方針に従い定期訪問を忠実に続けた結果、顧客から「熱心で真面目だ」という評価を得るようになり、少しずつ注文が入るようになった。地味ではあるが、安定した売上の増加が見られたのである。

この事業では、食材の安定供給が大きな課題であったが、S社長は集荷を取りまとめる世話役を見つけ、この人物に一括して集荷を依頼した。これにより、供給面の問題も解決した。

売上が増加するにつれ、下処理の作業量も増えたため、専用の作業場を設けることにした。作業場は明るい色で塗装し、作業面には2000ルックス以上の照度を確保した。

パート従業員を雇い、白い頭巾と作業着、白長靴を着用させ、出入口には靴の消毒槽も設置した。さらに、ピンク色のタイルを張った二人用の化粧台も設置し、パート従業員たちは大喜びである。

パート従業員たちは出勤時にお化粧をしてきたり、休憩時間に化粧直しをするのを楽しみにしており、そのおかげで一日中機嫌よく働くようになった。こうした環境が整ったことで、辞める人もいなくなったという。

得意先の社長や学校の校長が様子を見に来ることがある。もちろん、衛生状態を確認するためであるが、訪れたお客様はその場の様子に驚く。作業場は整然として明るく、清潔で衛生状態も申し分ないからだ。

作業員たちはきちんと挨拶をし、お客様は安心し、感心して帰っていく。こうして「ここなら安心だ」と感じたお客様から下処理の依頼が次々と入るようになり、たちまち大忙しとなり、作業場も手狭になってしまった。

お客様に誠意を尽くし、特に明るく清潔な作業場を整えたことで、S社はお客様の大きな信頼を勝ち取ることができたのである。

一方で本社では、さらに500社を別の独立希望社員に譲渡したが、残った300社の得意先だけで売上高はほとんど変わらなかった。

5. 信頼構築と環境サービス事業の確立

余った人員を活用し、今度は環境サービス事業を立ち上げた。環境整備はS社の得意分野であり、短期間で軌道に乗る見通しが立った。

こうして、かつては夢にも思わなかった三本柱の事業体制が実現し、S社は安定と成長の両方を手に入れることができたのである。

6. S社グループの未来へのビジョン

S社長は、事業経営に対する自信を深めただけでなく、将来のS社グループの構想を描き始めた。

「お客様が困っていることは、いくらでもある。これを一つ一つ事業化し、お客様第一のサービスを提供していけば、事業の成功と発展は間違いない」

このような自信が、S社長の構想の土台となっている。S社長はこう語る。「数年前までは年商100億円なんて夢にも思わなかったけれど、今では100億円はもちろん、200億円、300億円だって可能だと見ています」と。

まとめ

企業が成長し続けるためには、単に売上を伸ばすだけでなく、時代に合わせて戦略条件を柔軟に見直し、事業構造を高収益型へとシフトさせることが重要である。

S社の例に見られるように、リソースの集中や市場の変化への対応が、持続的な成長と顧客からの信頼を生み出す。

さらに、経営者の的確な判断と実行力が、企業を新たな可能性へと導く。S社長の「お客様第一」の姿勢は、S社グループの未来を切り拓く力となり、さらなる成功の基盤を築いていく。

戦略条件を強化し、高収益型の事業構造を目指すには、以下のポイントを踏まえることが重要です。

1. 初期における特化と集中

  • 経営資源を特定の商品や市場に集中させ、高い占有率を獲得することが肝要です。特に市場の成長が見込める分野では、競争力の強化のために絞り込みが効果的です。
  • 実例にあるS社では、フォーマルウエアにおいて「黒」に特化したことが急成長の原動力となりました。この「絞りの原理」を経営初期に実行することで、集中投入が可能になり、高いシェアを築き上げることができました。

2. 成長と拡大におけるタイミングの見極め

  • 初期の特化が成功を収めた後、次の成長ステップとしての多角化(総合化)に進出することで、新たな需要に応え、持続的な成長が可能になります。S社の場合、黒のフォーマルウエアで成功した後、カラーフォーマルへと事業を拡大し、さらには小売事業にも参入しています。
  • 新たな事業の導入は、変化する顧客ニーズや市場動向に基づいて行うことで、機を逃さず成長を続けることが可能です。

3. 市場と顧客の変化を見据えた決断

  • 経営者は常に市場の動向と顧客の好みの変化に目を向け、それに合わせて戦略を柔軟に調整する必要があります。S社の例では、市場と顧客の変化を細心に観察し、それに応じて適切なタイミングで次の展開に進んでいます。
  • 例えば、成長が一段落した際にカラーフォーマルへの展開を決断したことが、さらなる発展に寄与しました。

4. スクラップ・アンド・ビルドの精神

  • 戦略の進化には、過去の成功に固執せず、必要に応じて新たな取り組みを積極的に採用することが求められます。変化する情勢に合わせた柔軟な対応を心がけ、時には過去の戦略を見直して捨て去る「スクラップ・アンド・ビルド」の姿勢が肝要です。
  • 経営者は、事業環境や成長段階の変化に応じて常に最適な経営判断を下すことが、成長と高収益を持続させる鍵です。

5. 戦略条件の強化

  • 戦略条件の強化とは、事業を拡大する際に高収益の妨げとなる条件や制約を取り除くことです。たとえば、競合との違いを明確に打ち出したり、収益性が低い部分を見直して収益源を安定させたりすることです。
  • また、新たな事業展開を図るときには、既存の事業で得た知見や資源を活かしつつ、その強みを次の事業に活用することが戦略条件を強化するために有効です。

まとめ

S社のような成功例に学ぶべき点は、特化と集中を起点とし、市場や顧客の動向に応じてタイムリーな拡大と総合化を進めること、そして、時流や成長ステージに合わせて柔軟に戦略を刷新することです。高収益を実現するためには、常に事業環境を観察し、適切な戦略条件を整えることが欠かせません。

S社の事例は、行き詰まりを新たな発展の土台に変えるための戦略的な発想と、その実行力を示しています。以下は、S社がどのように行き詰まりを突破し、新たな成長の基盤を築いたかのポイントです。

1. 顧客の再編成と選択的な譲渡

  • S社長は売上の大部分を担っていない顧客の一部を、独立を希望する社員に譲渡することで、経営資源をより効果的に集中させました。これにより、限られたリソースで事業の効率を高め、同時に社員の独立支援にもつなげています。
  • こうした顧客の整理により、S社は半数の人員で同じ売上を維持しつつ、新規事業のためのリソースを確保しました。

2. 新事業への挑戦と継続的な改善

  • 山菜や野草など地域の自然資源を活用し、温泉旅館や割烹料理店向けに業務用の食材として提供する事業に進出しました。この新規事業では、地元産品を取り扱うことで、地域の特性を活かしたサービスを提供し、顧客からの評価も向上しました。
  • また、衛生管理が徹底された作業場を作り、清潔で明るい職場環境を整えることで、お客様と従業員の信頼と満足度を高めています。

3. 環境サービス事業の拡大

  • S社長は、人材を再配置して新たに環境サービス事業にも着手しました。これにより、収益の柱を複数持つことで、事業の安定とさらなる成長を確保しました。
  • 三本の異なる事業を持つことで、経済変動や特定事業の収益低下などのリスクを分散させ、長期的な安定を実現しています。

4. 顧客の問題解決を事業化するという発想

  • S社長は「お客様が困っていることを解決することが事業の成功につながる」という基本方針を掲げ、事業機会を顧客のニーズから見つけ出すことに集中しました。この姿勢が、成長へのさらなるステップへとつながっています。

5. 長期的なビジョンとグループ構想

  • S社は、これまで行き詰まっていた状況から、短期間で複数の事業を持つ会社へと進化しました。S社長は、さらに将来的にはグループ化によって事業の多角化と拡大を図る構想を抱いており、そのための具体的な取り組みを着実に進めています。

まとめ

S社の成功の鍵は、行き詰まりを打破するための柔軟な発想と、顧客のニーズに応える事業開発力にあります。行き詰まりを土台として顧客ニーズを深く理解し、地域特性を活かした戦略と、徹底した衛生管理や従業員満足の向上といったきめ細かな施策が、事業の安定と成長につながりました。

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