― 仁を担って生きる者には、重く遠い道がふさわしい
曾子(そうし)は、**志をもって道を歩む者=士(し)**に必要な心構えを説いた。
使命は重く、道のりは果てしなく長い。
それでも「仁(じん)」――他者を思いやる徳――を己の務めとし、
それを生涯貫き通すのが、士のあるべき姿である。
この務めは、死ぬその日まで続く。
果てしなく思えるかもしれない。
だが、それを担う価値は、何にも代えがたい。
だからこそ、士には広い度量と強い意志(弘毅)が求められる。
道は遠くとも、己の志がある限り、進む意味は尽きない。
原文と読み下し
曾子(そうし)曰(い)わく、士(し)は以(もっ)て弘毅(こうき)ならざるべからず。任(にん)重(おも)くして道(みち)遠(とお)し。仁(じん)を以て己(おのれ)が任(にん)と為(な)す。亦(また)重からずや。死(し)して後(のち)已(や)む。亦た遠からずや。
注釈
- 士(し):学び、徳を修めて道を志す者。単なる兵や役人ではなく、人格と志を備えた修養者を指す。
- 弘毅(こうき):「弘」は度量の広さ、「毅」は意志の強さ。心が広く、くじけぬ気力を持つこと。
- 任重(にんおも)くして道遠(みちとお)し:背負う責任は重く、その歩む道は長い――という比喩的表現。
- 仁(じん):孔子学派の中心的徳目。他者への深い思いやり、道徳的な愛。
- 死して後已む(ししてのちやむ):死ぬまでその務めは終わらないことを意味する。
- 亦た遠からずや:「なんと遠いことではないか」という感嘆を含む修辞。
原文:
曾子曰、士不可以不弘毅、任重而道遠、仁以為己任、不亦重乎、死而後已、不亦遠乎。
書き下し文:
曾子(そうし)曰(いわ)く、士(し)は弘毅(こうき)ならざるべからず。任(にん)重(おも)くして道(みち)遠(とお)し。
仁(じん)を以(もっ)て己(おの)が任(にん)と為(な)す。亦(また)重からずや。死して後(のち)已(や)む。亦た遠からずや。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「士は弘毅ならざるべからず」
→ 志ある者(士)は、度量が広く意志が強くなければならない。 - 「任重くして道遠し」
→ 責任は重く、歩む道ははるかに遠い。 - 「仁を以て己が任と為す。亦た重からずや」
→ 思いやりと道徳(仁)を自分の使命とする。これほど重大な責任があろうか。 - 「死して後已む。亦た遠からずや」
→ 命尽きるまでその使命を果たし続ける。これほど遠い道があろうか。
用語解説:
- 士(し):理想を持って修養に努める人物。学びと実践を通じて社会に貢献しようとする人。
- 弘毅(こうき):度量が広く(弘)、意志が強くくじけない(毅)さま。
- 任(にん)重くして道遠し:使命の重さと、それに至る長く険しい道のりを表す。
- 仁(じん):他人への思いやり、道徳的愛、孔子思想における中心的徳目。
- 死して後已む:「死ぬまで尽力する」という、徹底した献身の姿勢。
全体の現代語訳(まとめ):
曾子はこう言った:
「志ある者は、広い度量と強い意志を持たねばならない。
自らの責務は重く、進むべき道は遠い。
思いやりと徳(仁)を生涯の使命とする──これ以上に重いものがあるだろうか。
命尽きるまでその志を貫く──これほど長い道があるだろうか。」
解釈と現代的意義:
この章句は、高い志を持つ人間に求められる心構えを、非常に明確に示しています。
「仁」を生涯の使命とする者には、重い責任と終わりなき修養が課される。そのためには、**柔軟かつ強靭な精神力(弘毅)**が不可欠です。
これは「リーダー」「教育者」「改革者」など、社会的使命を担う人すべてにとっての道徳的な誓いの言葉ともいえます。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「責任の重さに耐えるには、広さと強さが要る」
- 広い視野(弘)と、折れない信念(毅)がなければ、重い責任に押し潰される。
- 管理職・経営者・PMなど、プレッシャーのかかる役職には、内面的な強さが求められる。
2. 「“仁”とは、すべての判断の基準」
- 部下育成、顧客対応、事業判断…すべてにおいて**「相手のためになるか」**という観点が「仁」。
- 短期利益より、信頼・誠実さ・思いやりを重視する姿勢が、長期的成果を生む。
3. 「志を持ち、死ぬまで磨き続ける」
- 自己成長に「完成」はない。常に未完成であり、学び続け、志を忘れない者が“士”。
- 退職までではなく、「死ぬまで仁を尽くす」と思える仕事に出会えることが、職業人生の本懐。
ビジネス用心得タイトル:
「仁を担い、志に殉ず──広く強く、遠きを恐れぬ者が組織を導く」
この章句は、経営哲学・人材教育・リーダーシップ研修において、**「内面的な強さと覚悟」**を問い直す最高の教材です。
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