誰かが自分をだましていると分かっても、
それを言葉にして相手を責めたりはしない。
誰かが自分を侮っていると感じても、
怒りや不快を顔に出すことはしない。
これらは非常に難しいことだが、
できるようになれば、言葉では言い尽くせないほどの深い含意がそこに宿り、
そして何事にも動じない**計り知れない「力」=受用(じゅよう)**が身につく。
怒らず、騒がず、悟って動じず。
そうした人の背後には、静かで重厚な威厳が自然と漂う。
原文(ふりがな付き)
人(ひと)の詐(あざむ)りを覚(さと)るも、言(げん)に形(あら)わさず。人の侮(あなど)りを受(う)くるも、色(いろ)に動(うご)かさず。此(こ)の中(なか)に無窮(むきゅう)の意味(いみ)有(あ)り、亦(また)無窮の受用(じゅよう)有り。
注釈
- 詐りを覚る(あざむりをさとる):相手の欺瞞に気づくこと。
- 言に形さず:それを口に出して非難したり反撃したりしないこと。沈黙の中に強さがある。
- 侮りを受くる(あなどりをうくる):馬鹿にされたり見下されたりすること。
- 色に動かさず:感情を表情に出さず、動じた様子を見せないこと。
- 無窮の意味:言い尽くせないほど深い含意・思想・人間の厚み。
- 無窮の受用:あらゆる場面で役立つ、尽きることのない力・価値。
※これは「忍」の最高形態ともいえる教えであり、『老子』の「知る者は言わず、言う者は知らず」(第五十六章)にも通じます。真にできる人とは、語るよりも沈黙の中に洞察と決断を秘めているのです。
パーマリンク(英語スラッグ)
strength-in-silence
(沈黙に宿る力)beyond-anger-beyond-ego
(怒りも自尊も超えて)immeasurable-power-of-restraint
(抑制に宿る計り知れない力)
この条文は、感情に流されず、沈黙と受容の中で強さを養うという、非常に高い人間力を求めています。
それは「我慢」ではなく、「覚ってなお黙す」という成熟の境地です。
現代社会では「すぐに言う」「すぐに反応する」ことが評価されがちですが、
本当に信頼され、影響を持つ人とは、内に力を秘めた静かな人物であるということを忘れてはならない――そんな教えが、この一条には凝縮されています。
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