動くことばかりを好む者は、雲間を走る稲妻や風前の灯火のように、いつか消えてしまう危うさがある。
反対に、静けさを求めすぎる者は、冷えた灰や枯れ木のように、生気を失ってしまう。
理想は、静かな「止まった雲」「流れぬ水」のような境地に身を置きつつ、
その内には鳶が空を舞い、魚が水中で躍るような躍動感を秘めていること。
それが、真に道を修めた人の気質である。静けさと生気の調和が、成熟した生の証なのだ。
「動(どう)を好(この)む者(もの)は、雲電風燈(うんでんふうとう)、
寂(じゃく)を嗜(たしな)む者は、死灰槁木(しかいこうぼく)なり。
須(すべか)らく定雲止水(ていうんしすい)の中に、
鳶(とび)飛(と)び魚(うお)躍(おど)るの気象(きしょう)有(あ)るべくして、
纔(わず)かに是(これ)れ有道(うどう)の心体(しんたい)なり。」
注釈:
- 雲電風燈(うんでんふうとう)…稲光や風前の灯火。活発だが不安定で儚い様子。
- 死灰槁木(しかいこうぼく)…冷えた灰や枯れ木。静的すぎて命の気配がない状態。
- 定雲止水(ていうんしすい)…動かない雲、澄んだ静水。心の静けさや安定した境地。
- 鳶飛び魚躍る(とびとびうおおどる)…空を飛ぶ鳶や、水中で跳ねる魚のように、内面に躍動感と生命力を持っていること。
- 気象(きしょう)…その人の気質・精神のあり方。
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