何も問題が起こらず、日々が平穏であるとき、人の心はつい緩み、ぼんやりと曇りがちになる。
こういうときこそ、心を落ち着かせつつも、目はすっきりと澄ませて、物事の本質を見失わないようにしたい。
一方で、突発的な出来事や問題が起きると、心は浮き足立ち、あわてて奔り出しがちになる。
そんなときこそ、目を澄ませ、意識を明確にしながらも、心は深く静かに鎮めておきたい。
つまり、「平穏なときには明晰さを」「混乱のときには静けさを」――
このバランスこそが、変化の中で自分を見失わないための知恵である。
原文(ふりがな付き)
「事無(ことな)きの時(とき)は、心(こころ)昏冥(こんめい)になり易(やす)し。
宜(よろ)しく寂寂(じゃくじゃく)にして、照(て)らすに惺惺(せいせい)を以(も)てすべし。
事有(ことあ)るの時(とき)は、心(こころ)奔逸(ほんいつ)し易(やす)し。
宜しく惺惺(せいせい)にして、主(しゅ)とするに寂寂(じゃくじゃく)を以てすべし。」
注釈
- 昏冥(こんめい):心がぼんやりとし、鈍くなっている状態。
- 寂寂(じゃくじゃく):静かで落ち着いた心の状態。騒がず澄んだ内面。
- 惺惺(せいせい):意識が明晰で、目や心がはっきりと澄んでいること。
- 奔逸(ほんいつ):心があわてて動きすぎること。焦りや感情の暴走。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
stillness-and-clarity
(静けさと明晰さ)stay-clear-in-calm-and-chaos
(平静にも混乱にも澄んであれ)balance-of-mind
(心の均衡)
この条は、人生の「凪」と「嵐」――つまり、平穏なときと困難なとき、それぞれにおいて心の在り方を切り替えるという、極めて実践的な精神の鍛錬法です。
禅やマインドフルネスにも通じるこの知恵は、現代の不確実な時代を生き抜くためにも非常に有効です。
1. 原文
無事時、心易昏冥。宜寂寂而照以惺惺。
有事時、心易奔逸。宜惺惺而主以寂寂。
2. 書き下し文
事無(ことな)きの時は、心(こころ)昏冥(こんめい)になり易(やす)し。宜(よろ)しく寂寂(じゃくじゃく)にして、照(て)らすに惺惺(せいせい)を以(もっ)てすべし。
事有(ことあ)るの時は、心奔逸(ほんいつ)し易し。宜しく惺惺にして、主(しゅ)とするに寂寂を以てすべし。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「無事のときは、心がぼんやりと曇りがちになる」
→ 何も問題がないときほど、心は油断し、鈍くなる傾向がある。 - 「だから、外見は静かにしていても、内側では常に覚醒した意識で自分を照らすべきである」
→ 静かな時にこそ、冷静で鋭い意識を持ち続けるべき。 - 「有事のときは、心が奔放に動いて落ち着かなくなりやすい」
→ トラブルや動きの多い時には、心が慌ただしく動揺しやすい。 - 「だから、意識は鋭敏に保ちながらも、心の主軸には静けさを据えるべきである」
→ 忙しい時でも、中心には静かで落ち着いた心を持っておくことが必要だ。
4. 用語解説
- 昏冥(こんめい):心がぼんやりし、明晰さを失っている状態。無感覚・油断。
- 寂寂(じゃくじゃく):外見上は静かで落ち着いている状態。沈黙・冷静。
- 惺惺(せいせい):明晰で目覚めた意識。鋭い注意力・覚醒した心。
- 奔逸(ほんいつ):心が勢いよく暴走し、コントロールを失うこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
平穏無事なときほど、心はかえって油断し、ぼんやりと曇りやすい。
だからこそ、表面は静かであっても、内側には明晰な意識を保ち、自分を照らすべきである。
一方、トラブルや多忙のさなかには、心が落ち着きを失って奔放になりがちである。
だからこそ、意識を鋭く保ちつつも、その根底には静かな沈着さを据えて行動すべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「心のバランスと反作用の制御」**を説いています。
- 静かなときは「明晰な意識」を。動くときは「静けさの軸」を。
- 状況に対して“反作用的な補完”を心にもたらすことが、心を安定させる鍵である。
現代風に言えば、**「無意識に流されない自律的な心の運用法」**ともいえる教訓です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「暇なときほど気を抜くな。静かさの中に覚醒を保て」
- プロジェクトの谷間や順調なときほど、思考停止やミスが起こりやすい。
- 見かけは静かでも、内面では“状況観察のアンテナ”を高く張っておくことが重要。
●「忙しいときこそ、心の中心に“静”を置け」
- 緊急対応や混乱時に慌てて動くのではなく、“静かな中軸”を保って判断することで、全体を俯瞰できる。
- 短期反応ではなく、全体設計に根ざした行動を選ぶための心構え。
●「“惺惺”と“寂寂”の切り替えが、優れた意思決定を生む」
- 状況に応じて意識のモードを切り替えられるリーダーは、環境に左右されずに人と組織を導ける。
8. ビジネス用の心得タイトル
「静かなるときは目覚めよ、乱れるときは静けさを守れ──“心の均衡”が判断力を支える」
この章句は、**「状況に応じた心の調律」**を通して、平常心を超えた“自在心”の境地を説いています。
静のときに鈍くならず、動のときに騒がず。
この二つを使い分けられる者こそが、真に“流されない自分”を保ち、信頼と成果を築けるのです。
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