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飽きれば去り、冷えれば捨てる――それが人情だとしても、自分はそうであってはならない。

人は、自分が飢えているときには寄ってくるが、
満ち足りてしまえばたちまち離れていく

こちらが裕福であれば、近づいて媚びへつらうが、
一たび貧しくなれば、まるで価値のないもののように棄てていく

――これは、世に広く見られる「人情の通患(つうかん)=一般的な弱さ」であり、
同時に、哀しく浅ましい現実でもある。

しかし、君子=徳を備えた人であろうとするなら、
物事の本質を見抜く冷静な目(冷眼)をぬぐい清め(浄拭)
**一時の変化や感情に揺さぶられず、軽々しく動かない剛い気持ち(剛腸)**を持つべきである。


原文(ふりがな付き)

饑(う)うれば則(すなわ)ち附(つ)き、飽(あ)けば則ち颺(はな)り、燠(あたた)かなれば則ち趨(はし)り、寒(さむ)ければ則ち棄(す)つるは、人情(にんじょう)の通患(つうかん)なり。君子(くんし)は宜(よろ)しく当(まさ)に冷眼(れいがん)を浄拭(じょうしょく)すべし。慎(つつし)んで軽々(けいけい)しく剛腸(ごうちょう)を動(うご)かすこと勿(なか)れ。


注釈

  • 附き(つき)/颺り(はなり):飢えているときは寄ってきて、満たされれば散っていく。利害に応じて態度を変える人々。
  • 燠か(あたたか)なれば趨く(はしる):裕福であれば急いで近づく。へつらう姿勢。
  • 寒ければ棄つ(すつ):貧しい者、運の尽きた者を見捨てること。
  • 通患(つうかん):広く通じている病のような性質。人間の弱点としての“うつろいやすさ”。
  • 冷眼を浄拭す(れいがんをじょうしょくす):冷静な目でものごとの本質を見られるように、感情や曇りをぬぐい去ること。
  • 剛腸(ごうちょう)を動かす:強い意志や心の芯を、簡単に揺るがせること。

※この条文は、表面的な人間関係に一喜一憂せず、「見る目」と「構え」を持つことの重要性を説いています。
『菜根譚』前集169条とも深く関係し、「付き合う人が離れても騒がず、付きまとう人にも冷静であれ」という思想が通底しています。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • steady-amid-shifting-tides(移ろう波の中で静かに)
  • do-not-bend-to-circumstance(状況に流されるな)
  • clear-eyes-strong-heart(澄んだ眼、揺るがぬ心)

この条文は、「人情」に対する達観と自律のすすめです。

人の関心や好意は状況次第で変わり、
それはときに「飢えたときの群れ」と「満ちた後の散り際」のように激しい。
けれど、それに振り回されるのではなく、一歩引いた冷静な視点で人を見ること
そして、感情や立場が揺れ動くときでも、自分の心を軽く動かさず、どっしりと構えていくこと

それこそが、「君子」たる者の知恵であり品格なのです。

目次

1. 原文

饑則附、飽則颺、燠則趨、寒則棄,
人情之通患也。
君子宜當淨拭冷眼,愼勿輕動剛腸。


2. 書き下し文

饑(う)うれば則ち附(つ)き、飽(あ)けば則ち颺(はな)れ、
燠(あたた)かならば則ち趨(おもむ)き、寒(さむ)ければ則ち棄(す)つるは、
人情の通患(つうかん)なり。
君子は宜しく当に冷眼を浄拭(じょうしょく)すべし、慎んで軽々しく剛腸(ごうちょう)を動かすこと勿(なか)れ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 飢えていれば寄り付き、満ち足りれば離れ去り、
  • 暖かければ近づき、冷たければ見捨てる──それが人の常なる感情(通患)である。
  • 君子たる者は、冷静な目をきれいに拭って保ち、
  • 軽はずみに義憤や感情に駆られて行動してはならない。

4. 用語解説

  • 饑則附く(きなればすなわちつく):困窮時には助けを求めて近づく。
  • 飽則颺る(あかなればすなわちはなる):満たされるとすぐに去ってしまう。
  • 燠(あたたか)/寒(さむ)い:ここでは人の対応・環境の「温かさ/冷たさ」の比喩。
  • 趨(おもむ)く/棄(す)つる:なびく/見捨てる。
  • 通患(つうかん):広く共通して見られる欠点・病理的傾向。
  • 冷眼(れいがん):冷静な眼差し、感情に左右されない客観的な視点。
  • 浄拭(じょうしょく):清め拭うこと、偏見や曇りを取り除く。
  • 剛腸(ごうちょう):強くてまっすぐな意志、義憤・正義感。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

人というものは、困っているときにはすり寄り、満たされれば離れていき、
都合がよければ近づき、冷たくされれば平気で去る──これが一般的な人情の弱さである。
だから君子たる者は、冷静な眼で世の中を見つめ、
安易に義憤に駆られて感情的な行動をしてはならない。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「人の情の移ろいやすさ」と、
それにどう向き合うべきかを説いた
「君子の姿勢」**についての洞察です。

● 人は「都合」によって態度を変える

  • 飢えれば頼り、満ちれば去る──
     人は環境や利害関係によって態度を変えるもの。
     これは非難すべきことであると同時に、**理解すべき“人情の現実”**でもある。

● 君子に求められるのは「冷静な目」と「激情への自制」

  • 世の中の不義や裏切りを目の当たりにしても、
     すぐに怒りに任せて反応するのではなく、一歩引いた冷静さが大切。
    → 「見抜く力」と「耐える力」こそ、君子の徳であるという教え。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「態度を変える人」に振り回されないために

  • 利害関係で近づいたり離れたりする人間関係は職場にも多い。
    → それを**「人間の本性の一つ」と認識する冷静さ**が、マネジメントに不可欠。

● リーダーは「義憤」だけで動かない

  • 不正や裏切りに対して怒ることは自然だが、それに流されず、全体最適を考える判断が必要。
    → 感情の暴発は、周囲の信頼を損ねるリスクがある。

● 「冷眼」は非情ではなく、安定の知恵

  • 冷静でいることは、他人の変化に一喜一憂しない強さであり、
    → リーダーにとっては組織を安定させるための基礎的な力。

8. ビジネス用の心得タイトル

「冷静なまなざしが、人情の波を超える──“君子の忍”が組織を守る」


この章句は、「人情の現実」に対する深い洞察と、
その中でリーダーが取るべき姿勢(=冷眼と沈着)を明確に説いています。

表面の態度に翻弄されず、本質と継続的な信頼に目を向ける力が、
混乱の時代を生き抜く真の人格者に求められる資質です。

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