――職分を超えて出しゃばらず、今の任を尽くす
孔子の高弟であり、礼と節度を重んじた**曾子(そうし)**がこう述べています。
「君子(くんし)は、思(おも)うこと、其(そ)の位(くらい)より出(い)でず。」
これは、「君子たる者は、自分の任を越えて物事を考えたり干渉したりしない」という教えです。
つまり――
- 自分が今置かれている役割・責任・地位の範囲を弁えたうえで考え、行動する。
- それを超えて勝手な口出しや先走りをすることは、かえって秩序を乱し、信を失う。
この態度は、組織や社会で生きる上での基本的な節度であり、
「君子=理想的人格者」としての自己抑制の美徳を示しています。
原文とふりがな付き引用:
「曾子(そうし)曰(いわ)く、
君子(くんし)は、思(おも)うこと、其(そ)の位(くらい)より出(い)でず。」
注釈:
- 君子(くんし) … 人徳と品格を備えた理想的人物。節度と自己規律を持って生きる人。
- 思うこと、其の位より出でず … 自分の立場・責任範囲を越えて、軽々しく意見を言ったり判断したりしない。
ここでの「位」は、単なる役職だけでなく、その人にふさわしい位置や役割も指す。
教訓:
この章句は、自分の責任を果たすことに集中し、
それを越えて先走った判断や言動を慎むことが、君子の道であるということを教えてくれます。
- 立場を超えた言動は、善意であっても不調和を生む。
- 本分を尽くし、任を待つ。これが「分を守る」知恵である。
現代の組織や人間関係でも、**「自分の守備範囲をわきまえること」**は信頼と協調を生む基礎となります。
1. 原文
曾子曰、君子思不出其位。
2. 書き下し文
曾子(そうし)曰(いわ)く、君子(くんし)は思(おも)うこと、其(そ)の位(くらい)より出(い)でず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「曾子曰く、君子は思うこと、其の位より出でず」
→ 曾子は言った:「真の人格者(君子)は、自分の職位や役割を越えてまで、余計なことを考えたり企てたりしない。」
4. 用語解説
- 曾子(そうし):孔子の高弟。慎み深く、内省を重んじた儒者で、『大学』の著者とされる。
- 君子(くんし):高い道徳性を備えた立派な人物。理想の人格者。
- 思(おも)う:計画する、企てる、思考する。
- 其の位(くらい)より出でず:自分の立場や職責を超えない。分をわきまえて考える。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
曾子はこう言った:
「君子とは、自分の職責や立場をわきまえ、その枠を超えて余計なことを考えたり口出ししたりしない人物である。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「分を守る知性と慎み」の重要性を説いています。
- 自分の立場・役割・責任の範囲内で考え、行動するのが君子。
- 本来の職務を差し置いて他人の職責を越えて物申したり、越権行為をするのは軽率で未熟な小人のふるまい。
- 曾子は、「知っていること」と「してよいこと(立場が許すこと)」を明確に分ける倫理観を強調しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「役割と職責を自覚して思考・発言することが、組織の健全性を守る」
- 部下がリーダーシップに口を出しすぎたり、別部署の業務に深入りすると、不信感や混乱が生じる。
- 組織では、“役割を超えた干渉”より、“役割の中での最大貢献”が信頼される。
✅「“言う資格”のないことを軽々しく語らない慎み」
- 昇進や経営方針に対して、当事者でもないのに私見を語る風潮は、軽率さと見なされるリスクがある。
- 「意見を持つこと」と「意見を発する立場」を区別できる人が、信頼を得る“思慮ある人物”。
✅「まずは自分の責務を徹底してから、視野を広げる」
- 「自分の役割をまっとうした上で全体貢献を考える」ことが、**本物の“越権ではない提言”**となる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「言う前に問え、“それは私の役割か?”──分を守る思慮が信頼を生む」
この章句は、現代のフラットな組織構造の中でも重要性を増す
「分をわきまえた発言と行動」の倫理を示しています。
自分の範囲で考え、言うべきことを言い、出すぎない慎みこそが、
結果として組織と自身をともに高める知恵であると曾子は説いているのです。
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