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困っても取り乱すな。必ず道は開ける

どれほど追い詰められても、心の持ちようひとつで道は開ける。
孔子は、自らが兵法に通じていないことを正直に述べ、戦を重んじる君主に見切りをつけて国を去った。
その後、陳の国で一行が食糧を絶たれるという極限状態に置かれても、孔子は動じなかった。

弟子の子路が「徳のある人でも困窮するのですか」と問うと、孔子は答えた。
「君子でも困ることはある。だが、小人は困ると取り乱す。君子は乱れない」と。

真の徳とは、追い詰められたときの態度にこそ現れる。
困窮の中で冷静さと信念を保つ者に、道はひらける。


原文とふりがな

「子路(しろ)、慍(いきどお)り見(あらわ)して曰(い)わく、君子(くんし)も亦(また)窮(きゅう)する有(こと)あるか。子(し)曰(い)わく、君子(くんし)は固(もと)より窮(きゅう)す。小人(しょうじん)は窮(きゅう)すれば斯(ここ)に濫(みだ)る」

困っても心を乱さず、道をまっすぐに歩む者こそが、真の君子である。


注釈

  • 「君子」:人格と教養を兼ね備えた理想的人間。徳の体現者。
  • 「固より窮す」:もともと困難に遭うことはある、という意味。君子とて苦境に立つことは避けられない。
  • 「小人は窮すれば斯に濫る」:「濫る(みだる)」は取り乱すこと。小人(徳のない人)は困難に直面すると自制を失い、道を外れる。
  • 「慍り見えて」:心に不満を抱き、怒りを顔に出すこと。子路は孔子の徳と現実の困窮に矛盾を感じた。

1. 原文

衞靈問陳於孔子。孔子對曰、俎豆之事、則嘗聞之矣。軍旅之事、未之學也。明日遂行、在陳絶糧。從者病、莫能興。子路慍見曰、君子亦有窮乎。子曰、君子固窮、小人窮斯濫矣。


2. 書き下し文

衛(えい)の霊公(れいこう)、陳(ちん)のことを孔子に問う。孔子、対えて曰(いわ)く、「俎豆(そとう)の事は、則(すなわ)ち嘗(かつ)て之(これ)を聞けり。軍旅(ぐんりょ)の事は未(いま)だ之を学ばざるなり」と。明日(あす)遂に行(ゆ)く。陳に在(あ)りて糧(かて)を絶つ。従者(じゅうしゃ)病み、能(よ)く興(た)つこと莫(な)し。子路(しろ)慍(いか)り見(まみ)えて曰く、「君子も亦(また)窮(きゅう)すること有るか」と。子曰く、「君子は固(もと)より窮す。小人は窮すれば斯(すなわ)ち濫(みだ)る」。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 「衛の霊公、陳を孔子に問う」
     → 衛の霊公が孔子に、隣国「陳」について質問した。
  • 「孔子、対えて曰く、『俎豆の事は則ち嘗て之を聞けり。軍旅の事は未だ之を学ばざるなり』」
     → 孔子は答えた。「祭祀の礼(俎豆)については聞き及んでいますが、軍事については学んだことがありません」。
  • 「明日遂に行る」
     → 翌日、孔子一行は旅に出た。
  • 「陳に在りて糧を絶つ」
     → 陳の地において食糧が尽きた。
  • 「従者病み、能く興つこと莫し」
     → 一行の弟子たちは病み、立ち上がることすらできない状態になった。
  • 「子路、慍り見えて曰く、『君子も亦た窮する有るか』」
     → 子路が憤慨して孔子に詰め寄った。「君子(立派な人物)でも、こんなに困窮することがあるのですか?」
  • 「子曰く、『君子は固より窮す。小人は窮すれば斯に濫る』」
     → 孔子は答えた。「君子はもともと困難に耐える者である。小人(つまらぬ者)は、困窮するとたちまち道を外れるのだ」。

4. 用語解説

  • 衛の霊公:春秋時代、衛国の君主。孔子を客人として迎えたことがある。
  • 陳(ちん):衛の隣国。孔子が旅の途中で滞在した地。
  • 俎豆(そとう):祭祀の道具。俎は供物を載せる台、豆は食器。転じて、祭祀や礼儀作法を指す。
  • 軍旅(ぐんりょ):軍事・兵法のこと。
  • 慍る(いかる):怒る・憤る。
  • 君子:徳のある立派な人物。
  • 小人:徳のない浅はかな人物。
  • 濫る(みだる):秩序を失い、道を踏み外す。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

衛の霊公が孔子に隣国「陳」について軍事的なことを尋ねたところ、孔子は「祭祀の礼については知識がありますが、軍事については学んでいません」と答えた。

その翌日、孔子と弟子たちは旅を続け、陳の地に至ったが、食料が尽き、弟子たちは病に倒れ、誰も立ち上がれないほどの困窮に陥った。

子路は怒って孔子に「君子でもこんなふうに窮乏するものですか?」と尋ねた。

それに対し孔子は、「君子は元々、困窮に耐えるものだ。小人は困ればたちまち道を外す」と答えた。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「逆境における人間の姿勢」を主題としています。

  • 孔子は、形式的な知識よりも礼節と倫理に基づいた生き方を重視していました。
  • 食糧難に陥った困窮状態の中で、子路は現実に怒り、不満を訴えます。しかし、孔子はむしろこの苦境の中でも「節を曲げない」ことこそが君子の本質だと説きます。
  • 「小人は窮すれば斯に濫る」とは、困難に遭ったときに人の本性が現れることを鋭く指摘した言葉です。

7. ビジネスにおける解釈と適用

◆ 「本当の姿勢は、逆境の中でこそ問われる」

企業やプロジェクトが順風満帆なときには、誰でも「立派に」見える。しかし、資金難・顧客離れ・チーム崩壊といった危機に直面したときこそ、リーダーやメンバーの本性が表れる。

◆ 「知識の限界を認めることが、誠実な姿勢」

孔子が軍事を知らないことを正直に答えたように、「知らないことを知らないと言える」姿勢は、信頼を築く上で不可欠である。

◆ 「困難に耐える力=徳を貫く胆力」

困難な局面でパニックにならず、誠実さ・冷静さ・チームへの思いやりを持ち続ける人間が、組織において真に信頼される。

◆ 「動揺し、他責にする者=組織の危機因子」

子路のようにリーダーを責めたり怒りに走る人間は、問題解決ではなく混乱の原因となりやすい。


8. ビジネス用心得タイトル

「窮して濫るな、困難こそ人の価値が問われる」


この章句は、「逆境の中での姿勢が真の人格を映し出す」という孔子の一貫した倫理観を示しています。
経営者・リーダー層の研修や、危機対応マインドの醸成にも極めて有効な内容です。


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