目次
■原文(日本語訳)
第2章 第45節
クリシュナは言った。
「ヴェーダは三要素よりなるもの(現象界)を対象とする。三要素よりなるものを離れよ、アルジュナ。
相対を離れ、常に純質に立脚し、獲得と保全を離れ、自己を制御せよ。」
■逐語訳
- トライグニャ・ヴィシャヤー・ヴェーダーハ(三グナを対象とするヴェーダ):サットヴァ(純質)、ラジャス(激質)、タマス(暗質)の三性に基づいた現象世界に関わる教え。
- ニシュトライグニョー・バヴァ・アルジュナ(三性を超えた者となれ、アルジュナよ):変化・動揺に満ちた三性を超越せよ。
- ドヴァンドヴァイ・ニルムクタ(相対から解放され):熱・寒、快・不快、得・失などの両極にとらわれないこと。
- ニティヤ・サットヴァ・スタハ(常に純質に立脚せよ):清浄で穏やかな心に根差すこと。
- ニルヨーガ・クシェーマ(獲得と保全を求める心を捨て):手に入れること・守ることへの執着から離れる。
- アートマヴァーン(自己を制御する者):自制し、内面の主体に目覚めている者。
■用語解説
- 三要素(トリグナ):
- サットヴァ(純質):純粋・調和・知性。
- ラジャス(激質):情熱・欲望・活動。
- タマス(暗質):惰性・無知・怠惰。
この三つが万物の性質を構成するとされる。
- ヴェーダの対象:祭式や行為の果報に関する教えが多く、現象界に属する部分も含む。
- ヨーガとクシェーマ:得ること(ヨーガ)と、それを守ること(クシェーマ)への執着。
- アートマヴァーン:自制心を持ち、自己(アートマン)を識る人。
■全体の現代語訳(まとめ)
クリシュナは、ヴェーダが説く儀式や報酬は、三要素(グナ)に縛られた現象世界のものであり、
それを超越すること――すなわち、対立や欲望に揺れない、純粋で静かな精神状態に立つことを、アルジュナに求めています。
獲得すること・失うことの心配を手放し、内なる自己を制御せよ、という高い精神的実践が示されています。
■解釈と現代的意義
この節は、**「表面的な成功や失敗、損得などの二元的価値観を超えた境地」**を目指すべきであると説いています。
現代に生きる私たちは、成果主義・数字・比較・評価といった外的な相対軸に常にさらされています。
しかしギーターは、それらに振り回される心を手放し、
**「静かに、内なる真理に立脚すること」**を、真の強さと呼んでいます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
意思決定と内的安定 | 利益や世評だけでなく、「自分たちは何のためにやっているのか」という価値観に立脚した判断を行う。 |
成果と執着のバランス | 成果を追いながらも、それに過度に執着せず、やるべきことを誠実に積み重ねる姿勢が持続的成長をもたらす。 |
自己制御(セルフマネジメント) | 怒り・焦り・虚栄・恐れといった感情に流されず、冷静さを保つスキルがリーダーシップの核となる。 |
本質志向の組織文化 | 褒賞や保身のためでなく、「誠実・調和・責任」に基づいた企業活動が、信頼と継続性を生む。 |
■心得まとめ
「変化する世界に巻き込まれるな。内なる静けさに立て」
快・不快、得・失、成功・失敗――
それらに心を奪われる限り、魂は縛られたままである。
ギーターは命じる:
「三性を超え、純質に立脚し、自己を制御せよ」
そこにこそ、動じぬ力が宿る。
次の第46節では、井戸と大海にたとえられる「全体性」と「超越」の視点が語られ、
知識と智慧の本質がさらに深く展開されます。
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