—— 君子は道理においてはゆるがず、しかし頑固ではない
孔子は、君子の態度のバランスについて、次のように語りました。
「君子は“貞”(てい)――つまり正しい道理には固く、一歩も譲らない姿勢を持っている。
だが、“諒”(りょう)――すなわち偏屈で頑な、融通の利かない人間ではない」。
これは、何でも自己主張することや頑固であることが美徳なのではなく、
本当に譲れない“正義・道理”の部分には芯を持ちつつ、
それ以外の場面では柔軟で思慮深い態度をとるのが君子だという孔子の哲学です。
つまり、「正しさ」を守ることと、「頑なさ」を混同してはならない。
譲ってはいけないのは道理であり、それ以外は調和を尊ぶのが真の徳。
原文とふりがな
「子(し)曰(い)わく、君子(くんし)は貞(てい)にして諒(りょう)ならず」
注釈
- 「貞(てい)」:正義・道理において揺るがぬ芯をもつこと。人格の堅固さ。
- 「諒(りょう)」:一見誠実そうに見えるが、実は頑固で他人の意見を受け入れない態度。頑なな性質。
- この章句は、「正しさ」と「柔軟さ」を両立させることが、真の人格者の条件であることを示しています。
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(真理に立ち、頑固にならず)unyielding-in-principle-flexible-in-form
(原則に固く、態度は柔軟)righteous-not-rigid
(正しくあっても頑固ではない)
この心得は、現代においてもリーダーシップ・倫理的判断・人間関係の調整において重要な指針です。
「ここは譲れない」という道理をもちつつも、他者と円滑に付き合うことができる人物こそが、信頼される君子なのです。
1. 原文
子曰、君子貞而不諒。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)は貞(てい)にして、諒(りょう)ならず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「君子は貞にして」
→ 君子(人格の高い人)は、自らの信念・節操を堅く守る。 - 「諒ならず」
→ しかし、単に誠実すぎるような(狭い意味での)正直さには固執しない。
4. 用語解説
- 君子(くんし):高い徳を持ち、社会的模範となる人物。
- 貞(てい):節操・正義・道に忠実で揺るがないこと。道義に照らした一貫性。
- 諒(りょう):率直・正直・ありのままを隠さない性質。だがこの文脈では、「場をわきまえない率直さ」「狭義な正直さ」の意で用いられている。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「君子は節操を持って、道理に忠実であるべきだが、
何でもかんでも思ったことを正直に言ってしまうような、場の空気を読まない“諒”な人間ではない」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「誠実さ」と「配慮ある知恵」のバランスを説いたものです。
- 「貞」は、信念・道義への忠実さ。
君子にとって欠かせない特性であり、人格の根幹です。 - 一方の「諒」は、「正直すぎて損をする」・「何でも口にしてしまう無配慮さ」の意も含まれます。
孔子は、“正直=美徳”を絶対視することの危険性を戒めています。 - 君子は信念を持ちつつも、他者への配慮や場に応じた慎みを併せ持つべきであるという思想が、この一文に凝縮されています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「信念ある人間は、時に沈黙する勇気も持て」
意見を持つことは大切。だが、それをどう伝えるか、伝えるべきかを見極める知性と配慮もまた重要。
◆ 「“正直さ”が信頼を壊すこともある」
事実でも、不用意な発言や空気を読まない“率直さ”は、チームや信頼関係を壊すことがある。
真の誠実さとは、「黙るべき時に黙る」ことも含まれる。
◆ 「誠実 × 戦略的配慮 = 信頼されるリーダー」
- 正義感や真面目さだけでは、組織は導けない。
- 君子とは、誠実な信念を持ちながら、人間関係や状況を見極めて行動するリーダーである。
8. ビジネス用心得タイトル
「誠実であれ、だが無配慮であるな──“節操ある沈黙”が信頼をつくる」
この章句は、「誠実であること」と「配慮を欠かないこと」の両立の重要性を説いています。
リーダーシップ・人間関係・プレゼンや交渉など、あらゆるビジネスシーンにおいて、
“言うべきこと”と“言わぬべきこと”を見極める力=成熟した人格の証です。
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