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人を用いるには、まずその人を見る目を養え

孔子の弟子・子游(しゆう)が、魯の武城(ぶじょう)の長官に就任したとき、孔子はこう尋ねた。

「よい部下は得られたか?」

子游は即座に答えた。

澹台滅明(たんだいめつめい)という人物がおります。
彼は常に大道を通って歩き、近道(抜け道)を使うようなことは決してしません。
また、公務以外で私の部屋に来たこともなく、私的な関係を結ぼうともしません。
公明正大で、信頼できる人物です」

これは、人物評価の本質を孔子が弟子に問うた、非常に示唆に富む場面です。
単に仕事ができるかどうかではなく、その人の姿勢や日常の行動からにじみ出る誠実さと品格こそが、用いるべき人材の条件であるということを、子游は理解し、実行していました。

人を見抜くとは、言葉ではなく、その人の“ふるまい”を見ること。
たとえ目立たなくても、道を外さず、私利私欲に流されない人物こそ、本当に頼るべき人なのです。


ふりがな付き原文

子游(しゆう)、武城(ぶじょう)の宰(さい)と為(な)る。
子(し)曰(いわ)く、女(なんじ)、人(ひと)を得(え)たるか。
曰(いわ)く、澹台滅明(たんだいめつめい)なる者有(あ)り。
行(ゆ)くに径(こみち)に由(よ)らず。
公事(こうじ)に非(あら)ざれば、未(いま)だ嘗(かつ)て偃(えん)の室(しつ)に至(いた)らざるなり。


注釈

  • 子游(しゆう):本名は言偃(げんえん)。孔子の高弟の一人。教育や地方行政に力を発揮した。
  • 澹台滅明(たんだいめつめい):字は子羽(しう)。孔子の晩年の弟子。慎み深く、品格ある人物として知られる。
  • 行くに径に由らず:近道(便宜主義)を避け、正しい道を選ぶ姿勢の象徴。
  • 公事に非ざれば〜:公務以外で上司のもとに行かないという態度から、公私の区別を厳しく守る人物像が浮かび上がる。

1. 原文

子謂子夏曰、女爲君子儒、無爲小人儒。


2. 書き下し文

子(し)、子夏(しか)に謂(い)いて曰(いわ)く、
女(なんじ)、君子(くんし)の儒(じゅ)と為(な)れ。小人(しょうじん)の儒と為る無(な)かれ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 子、子夏に謂いて曰く、
     → 孔子は弟子の子夏に言った。
  • 女、君子の儒と為れ。
     → 「お前は、高潔な人物である“君子”としての儒者を目指しなさい。」
  • 小人の儒と為る無かれ。
     → 「目先の利益にとらわれる“小人”のような儒者にはなるな。」

4. 用語解説

  • 子夏(しか):孔子の高弟。本名は卜商(ぼくしょう)。学問好きで、教育者としても活躍。
  • 儒(じゅ):儒者、儒学を学ぶ者。ここでは知識人・教養人・指導的人材の意味を含む。
  • 君子の儒:人格的にも高潔で、学問を人間性や社会貢献に生かす理想的な知識人。
  • 小人の儒:知識を私利私欲のために用い、地位や名声に執着する形ばかりの儒者。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子は、弟子の子夏にこう言った。

「お前は、徳と人格を備えた“君子”としての儒者になりなさい。
決して、自分の利益のために学問を使うような“小人”の儒者になってはならない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「知識の使い方」と「学びの目的」**を問う孔子の核心的な教えです。

  • 知識そのものは価値中立的だが、“それをどう使うか”で人間の質が分かれる。
  • 真に目指すべきは、知を通じて自己を高め、他者や社会に貢献する“君子の儒”
  • 一方、“小人の儒”は、学問を肩書や利益の手段としか見ない浅薄な知識人を指す。

7. ビジネスにおける解釈と適用

● 「スキルより姿勢──知を徳で使える人が信頼される」

  • 学歴・資格・知識があっても、人のために使わなければ、それは“小人の知”にすぎない。
  • “できる人”より“誠実に知を使う人”が組織にとって真の財産。

● 「専門性を“権威”にせず、“貢献”に変える姿勢を持て」

  • 知識や技術をひけらかすのではなく、謙虚に役立てる態度が“君子の儒”の真髄。

● 「指導者・教育者・コンサルタントに必須の心得」

  • 伝える人・導く人こそ、知を人格とともに運ぶ者であれ。
  • 教える側の“あり方”こそが、学ぶ側にもっとも大きな影響を与える。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「知を誇るな、徳に添えよ──君子の学び、信頼の学び」


この章句は、「知識人としての倫理」「学びを何に使うか」という根源的な問いを与えてくれる金言です。

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