言葉は、いつ、誰に、どう伝えるかによって価値が決まる。
孔子は、人との関係における「話すべきか、話さざるべきか」の見極めの重要性を説いた。
信頼できる人に対して、言うべきことを言わなければ、その人を遠ざけることになる。
反対に、信頼できない相手に軽々しく話せば、失言となり、自らの信頼を損なうことになる。
本当の知者とは、人を見極めて話し、話してはならないときには沈黙を守る者である。
言葉の持つ力を尊重し、交わすべき相手と、距離を置くべき相手を識別する眼差し。そこに知恵がある。
原文とふりがな
「子(し)曰(い)わく、与(とも)に言(い)うべくして之(これ)と言(い)わざれば、人(ひと)を失(うしな)う。
与に言(い)うべからずして之(これ)と言(い)えば、言(げん)を失(うしな)う。
知者(ちしゃ)は人(ひと)を失(うしな)わず、亦(また)言(げん)を失(うしな)わず」
注釈
- 「与に言うべくして之と言わざれば、人を失う」:信頼して話すべき相手に黙っていると、関係を壊すことになる。
- 「与に言うべからずして之と言えば、言を失う」:話すにふさわしくない相手に話してしまうと、軽率な発言となり、自らの評価や結果に悪影響を及ぼす。
- 「知者」:状況判断と対人理解に優れた人物。感情に流されず、適切な人間関係と発言を選べる者。
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(見極めて語れ)know-when-to-speak
(語るべき時を知る)wise-words-wise-people
(言葉も人も賢く選べ)
この章句は、情報管理・信頼構築・人間関係の機微を重んじる現代社会でも極めて実用的です。
上司・部下・取引先との関係構築、チームビルディングの基礎にもなる視点と言えます。
1. 原文
子曰、可與言而不與之言、失人。不可與言而與之言、失言。知者不失人、亦不失言。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、与(とも)に言(い)うべくして之(これ)と言(い)わざれば、人(ひと)を失(うしな)う。与に言うべからずして之と言えば、言(げん)を失う。知者(ちしゃ)は人を失わず、亦(また)言を失わず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「可与に言いて之と言わざれば、人を失う」
→ 「語り合うべき相手なのに、それをしなければ、その人を失ってしまう」。 - 「不可与に言うに之と言えば、言を失う」
→ 「語り合うべきでない相手に、無理に語れば、自分の言葉を失ってしまう」。 - 「知者は人を失わず、亦た言を失わず」
→ 「賢い人は、人も言葉も、どちらも無駄にすることがない」。
4. 用語解説
- 可与言(ともにいえるべし):対話する価値がある、理解力や受容力を持つ人。
- 失人(しつじん):人間関係を損なうこと。信頼や絆を失うこと。
- 失言(しつげん):無駄な言葉、あるいは誤った発言。言葉の価値を失うこと。
- 知者(ちしゃ):知恵ある者。単なる知識人ではなく、状況判断と人間理解に長けた賢者。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「語り合うべき相手に話しかけなければ、その人を失ってしまう。
逆に、語り合うに値しない相手に言葉を尽くせば、自分の言葉の価値を失う。
知恵ある者は、人間関係も、言葉も、いずれも無駄にはしないのだ」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「対話の価値を見極める力」=人とタイミングを読む知恵を説いています。
- 「言うべき相手・言うべき時」に語らなければ、信頼を失う(機会損失)。
- 「言うべきでない相手・タイミング」で語れば、無理解や誤解を生む(言葉の価値の浪費)。
- 孔子の理想とする知者とは、人の見極めとタイミングの判断に長けた人間です。
- 知識よりも、「誰に・いつ・どう語るか」という対人知の重要性が浮かび上がります。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「発言力とは、何を言うかではなく“誰に・いつ言うか”」
どんなに良い提案も、受け入れる準備のない相手に話せば逆効果になる。“語るべき相手を見極める”ことが、発信力の本質。
◆ 「黙っていてはいけない時もある」
部下やチームメンバーにとって必要な助言・叱責を黙って見逃すことは、「その人を失う」ことに繋がる。沈黙は必ずしも美徳ではない。
◆ 「“言い過ぎ”より“見極め不足”が信頼を損なう」
信頼されるマネージャーは、相手の成熟度・状況・心情を見て話すタイミングを選ぶ。話す内容以上に“話し方と相手の見極め”が問われる。
◆ 「知者の知とは、人間を読む知」
孔子の知者は、単なるIQではなく「人を見抜き、関係を築く知恵」を持つ人。EQ(感情知能)重視の現代に通じる考え方です。
8. ビジネス用心得タイトル
「語る相手を誤るな──人も言葉も“見極める知”が守る」
この章句は、単なる発言の慎重さを説くにとどまらず、「人と機会の見極め」がどれほど重要かを教えてくれます。
人材マネジメント、営業・交渉、ファシリテーションなど、対話の質が成果を左右するビジネスシーン全般において極めて有効な教訓です。
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