――無駄死にせず、時に応じて身を処すのが真の賢者
孔子は、政治の状況に応じた言動の在り方についてこう語った。
「国に道(みち)=正義や秩序があるならば、
恐れずに言うべきことを言い、行うべきことを行え。
しかし、国に道がないならば、
行うべきことは行うとしても、言葉は控えめに慎まなければならない。」
つまり、混乱した時代や腐敗した政(まつりごと)の中で、無防備に正論を叫んでも、かえって害されるだけで意味をなさない。
自分の信念を失わず、行動においてはぶれずとも、
表立って語ることは控え、時と場合を見極めることが必要だ――と孔子は説いている。
これは、ただ沈黙を勧めているのではない。
**「言うべき時を見極めて言え、闇雲に命を投げ出すのは仁ではない」**という賢明な行動規範である。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、
邦(くに)に道(みち)有(あ)らば、言(げん)を危(あや)うくして行(おこな)いを危くす。
邦に道無(な)ければ、行いを危くして、言(こと)は孫(ひそ)む。」
注釈:
- 邦に道有らば … 国家に道義や秩序があるとき(=まともな政治が行われているとき)。
- 言を危くする … 正論でも恐れずに発言する。
- 行いを危くする … 正しい行いを貫くことにリスクがあってもやる。
- 邦に道無ければ … 国政が乱れており、正しいことが通らないとき。
- 孫(ひそ)む … 控えめにする、言動を慎む。軽率に言って害を招かないようにする知恵。
1. 原文
子曰、邦有道、言危而行危也。邦無道、行危而言孫也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、邦(くに)に道(みち)有(あ)らば、言(げん)を危(あや)うくして、行(おこな)いを危うくす。邦に道無(な)ければ、行いを危うくして、言(げん)は孫(したが)う。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「邦に道有らば、言を危くして行いを危くす」
→ 国に正しい道(=政治的な秩序や道徳)があるときは、
言葉にも行いにも厳しく慎重でなければならない。
「邦に道無ければ、行いを危くして、言は孫る」
→ 一方、国に道がなく、混乱しているときには、
行動はなお慎重にしつつも、言葉は控えめにして相手に従うようにするべきである。
4. 用語解説
- 邦(くに):国家・社会。
- 道(みち):政治的な正道。秩序や道義、正義を指す。
- 危(あやう)くす:ここでは「慎重にする・厳しく律する」の意味。
- 孫(したが)う:へりくだる、柔らかくする、控えめにする。
- 言を危くす/行を危くす:言動ともに注意深く、自らを律すること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「世の中に正義と秩序が保たれているときは、
自分の言葉にも行いにも厳しく慎重であるべきだ。
しかし、社会に正義がなく混乱しているときには、
自分の行動には変わらず慎重であるべきだが、
言葉は控えめにして、相手の状況に柔軟に合わせたほうがよい。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「時と場に応じた言動の姿勢」**について孔子が述べた言葉です。
- 正義がある社会では、言動に一貫性を持ち、自らを律する責任がある。
- 一方、不正義が支配する混乱の社会では、下手な発言が自他に害を及ぼす可能性もあるため、言葉は慎み、行動に軸足を置くべき。
つまり、「真に価値ある行動」とは、その時代や状況の中でどう身を処すかを見極めたうえで、慎み深く実践することであると孔子は説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「正しい体制では、発言と行動の両方に責任を持て」
- 組織が健全で、公正なルールが運用されているならば、
社員も上司も、発言と行動の両面で高い倫理性と一貫性が求められる。
✅「混乱の中では“発言より行動”を重視すべし」
- 社内が混乱していたり、リーダー不在で方針が曖昧なときには、
無責任な発言が混乱を助長するリスクがある。 - そういうときには、行動で誠意を示し、言葉は慎重に選ぶのが最善のリーダーシップ。
✅「状況判断に応じて“語るべきとき/語らぬべきとき”を見極めよ」
- あえて語らず、黙して行動することが信頼につながる場合もある。
- 逆に、健全な環境では、沈黙や迎合は「責任逃れ」と見なされる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「語るべき時、黙すべき時──言葉と行動のバランスが信頼を築く」
この章句は、言葉と行動の使い分けは、“道のある組織”か“乱れた組織”かによって異なることを示し、
現代における「組織風土に合わせたリーダーシップ」や「リスク管理」「倫理的な沈黙」の意義を深く問いかけています。
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