MENU

個人的な問いであっても、道に背くことにははっきりと異を唱える

斉の臣・沈同が孟子に対し、「これは私的な質問です」と前置きをしつつ、こう尋ねた。
「燕は討つべきでしょうか?」

孟子はためらうことなく答える――「討ってよい」
ただしそれは単なる好戦的な判断ではなく、礼と道義に照らした上での、明確な理由に基づいた正論だった。

孟子は説明する。
燕の国王・子噲は、天子の命もなく勝手に国を他人(子之)に譲った。これ自体が重大な非礼であり、国というものが個人の私物のように譲り渡されることは、あってはならない

さらに孟子は、たとえ話を用いて説明する。
「もしあなたの下に仕えている者がいて、あなたが気に入ったからといって、王に報告もせずに私的に禄(俸給)や爵位を与え、その者も王命なしにそれを受け取ったとしたら――それは許されることですか?」

そう問うた上で、「子噲が子之に国を譲ったというのは、まさにこれと同じことではないか」と喝破する。

孟子はここで、「道理と制度に反することは、たとえ個人的なこととして問われても見逃してはならない」という立場を取っている。
個人の打算や政治的な立場を超えて、「公(おおやけ)の道」に照らした答えを出す――それが君子であり、孟子の矜持である。


原文(ふりがな付き引用)

沈同(しんどう)、其(そ)の私(し)を以(もっ)て問(と)うて曰(い)わく、燕(えん)は伐(う)つべきか。

孟子(もうし)曰(い)わく、可(か)なり。

子噲(しかい)は人(ひと)に燕(えん)を与(あた)うることを得(え)ず。
子之(しし)は燕(えん)を子噲(しかい)に受(う)くることを得(え)ず。

此(こ)こに仕(つか)うる者(もの)有(あ)り。而(しか)して子(し)之(これ)を悦(よろこ)び、
王(おう)に告(つ)げずして、私(ひそ)かに之(こ)れに吾子(ごし)の禄爵(ろくしゃく)を与(あた)えん。

夫(そ)れ士(し)や、亦(また)王命(おうめい)無(な)くして、私(ひそ)かに之(これ)を子(し)に受(う)くれば、則(すなわ)ち可(か)ならんか。
何(なに)を以(もっ)て是(こ)れに異(こと)ならんや。


注釈(簡潔な語句解説)

  • 私を以て問う:表向きには「個人的な質問」としているが、背景には王の意向がある可能性が高い。
  • 子噲(しかい):燕の王で、子之に国を譲ったとされる。
  • 子之(しし):燕の宰相。子噲から国を譲り受けた人物。
  • 禄爵:給料や身分(俸禄と爵位)。政治的地位の象徴。
  • 王命無くして私かに受く:君主の正式な命令なく、個人的に利益を得ること。制度に背く行為。

パーマリンク候補(英語スラッグ)

  • speak-truth-to-power(権力に正論を)
  • no-privilege-in-governance(統治に私権は許されず)
  • duty-to-justice-over-privacy(私的な事よりも正義を)

この章は、孟子の政治的正義感と道徳的一貫性を示す強いメッセージです。たとえ質問が個人的な形式でなされても、理に反することは理に反すると明言する。そこに、孟子のぶれない思想と、君子としての姿勢が表れています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次