—誤った権威を支える者は、暴君と同罪である
魏徴は、隋の煬帝のもとで起きた大量の冤罪事件を語った。
盗賊発生の報を受けた煬帝は、於士澄に命じて容疑者を無差別に拷問させ、わずかの疑いで二千人以上を斬首。
その中の多くは、冤罪であることが後に判明したにもかかわらず、誰も諫言せず、命令に従って処刑された。
太宗はこの話に憤りを覚え、「誤りを正せぬ臣は、暴君と同じほど罪深い」と言い、
「私はそなたたちの助けで、牢獄が空になる国を作れた。だからこそ、最後まで誠実な政を保ってほしい」と誓った。
原文(ふりがな付き引用)
「但(た)だ疑似(ぎじ)あらば、苦(くる)しみを加(くわ)えて拷掠(ごうりゃく)し、
枉(ま)げて賊(ぞく)を承(う)くる者(もの)二千余人(にせんよにん)、並(なら)びに同日(どうじつ)に斬決(ざんけつ)す。
…
有司(ゆうし)、煬帝(ようだい)すでに斬決(ざんけつ)を令(れい)したるを以(もっ)て、執奏(しっそう)せず、並(なら)びにこれを殺(ころ)す」
注釈
- 疑似(ぎじ):明確な証拠はないが、疑われる様子。
- 拷掠(ごうりゃく):拷問して自白を引き出す行為。
- 枉承(おうしょう):事実でない罪を無理やり認めさせること。
- 執奏(しっそう):上奏して君主に報告すること。
- 囹圄(れいご):牢獄。太宗が「牢獄が空になった」と述べた象徴的表現。
教訓の核心
- 権力における最大の暴力は、誤った命令が正されないことである。
- 沈黙と服従がもたらす犠牲は、時に戦よりも多くの命を奪う。
- 法を曲げる命令に対してこそ、諫言の真価が問われる。
- 正義は、声を上げる者によって守られる。
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