■引用原文(日本語訳)
聖バガヴァットは告げた。
「プラクリティは、結果と原因を作り出す働きにおける因であると言われる。
プルシャは、苦楽を享受することにおける因であると言われる。」
(『バガヴァッド・ギーター』第13章 第20節)
■逐語訳
プラクリティ(根本原質)は、行為とその結果(原因と結果)の生起を引き起こす「働きの原因(因)」であるとされる。
一方でプルシャ(個我・真我)は、喜びや苦しみを経験・享受する側の「受け手としての原因」であるとされる。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
プラクリティ(Prakṛti) | 宇宙の根源的エネルギー。物質、心、感覚、行動、自然の動きすべての原動力。 |
プルシャ(Puruṣa) | 変化せず、ただ見守る意識の存在。魂(アートマン)、観照者。 |
原因(カラナ) | 物事が生まれるきっかけ・理由。ここでは「出来事を引き起こすもの」と「それを経験するもの」を分けて定義。 |
結果と原因(カールヤ・カラナ) | 行動とその結果。たとえば、怒りという感情(原因)による争い(結果)など。 |
享受する(ボークトリトヴァ) | 喜び・悲しみ・快・不快を「味わう」こと。感情的体験の主体。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
クリシュナはここで、宇宙の中での「行為の仕組み」と「経験の仕組み」を明確に分けている。
物事が起きる・流れる・変わる――それはすべてプラクリティ(自然の法則)の働きであり、
その結果を“良い”“悪い”と感じ、経験している主体がプルシャ(意識/魂)である。
つまり、世界はプラクリティによって動き、プルシャによって体験されている。
■解釈と現代的意義
この節は、「現象の因(動く世界)」と「意識の因(それをどう受け止めるか)」を分けて理解する重要性を説いています。
多くの人は、「苦しいのは世界や他人のせい」と考えがちですが、
『ギーター』は、苦楽は“それをどう感じるか”という意識の作用(プルシャ)にあると教えています。
この理解は、主体的で自由な生き方への第一歩です。
■ビジネスにおける解釈と適用
視点 | 解釈と応用例 |
---|---|
出来事と受け止め方の分離 | トラブルや変化はプラクリティ(自然な流れ)であり、「それをどう受け止めるか」が自分次第(プルシャ)。 |
ストレス管理 | 状況そのものではなく、それをどう意味づけするかが苦楽の正体である。 |
リーダーシップ | 「変化を起こす仕組み」と「人の感じ方・反応」を別に考えれば、組織マネジメントがより精緻に行える。 |
自律的思考 | 周囲や結果に振り回されず、「どう感じ、どう意味づけるか」を自分で選ぶ主体性が身につく。 |
■心得まとめ
「変化は世界の法則。苦楽は、心の選択。」
『バガヴァッド・ギーター』は、私たちが体験するすべての現象はプラクリティによって起こるが、
それを“どう感じるか”“どう意味づけるか”は、観照者であるプルシャ=私たち自身に委ねられていると教えています。
この理解を深めることで、外に原因を求める反応的な生き方から、
内なる自由を土台とした創造的・成熟した生き方へと転じることができるのです。
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