K社は、約1,000名の従業員を抱える中堅企業で、2つの事業部を持つ。そのうち1つは安定的に業績を伸ばしているが、もう1つの事業部は過去3年間連続で赤字を計上しており、その額は年々増加している。黒字事業部が存在しなければ、倒産も現実的な危機であっただろう。
赤字の主因となっているのは、家庭金物を扱う事業部だ。4年前までは順調だった事業が、3年前を境に急速に悪化し、以降は下降線をたどる一方である。これほど急激な業績悪化の背後には、重大な要因が潜んでいるに違いない。
調査を進めた結果、問題の起点は4年前、営業部長の提案によって導入された「総代理店制」にあることが判明した。総代理店制が施行されるや否や、業績の悪化が始まったのだ。
総代理店制の導入とその失敗
K社長が総代理店制を導入した目的は、営業費用の削減だった。それまで20社以上の問屋と取引していたが、この多さが営業コストの増大を招いていると考えたのだ。そこで、取引先を一社に集約すれば、販売費用を大幅に削減できるとの目論見で総代理店制を採用した。
しかし、この施策はK社にとって致命的な結果をもたらした。総代理店の社長は老獪な交渉術の持ち主であり、K社の経営陣は瞬く間に主導権を奪われた。導入後まもなく、総代理店は値下げを要求してきた。「取引先が一社になったことで、K社の販売コストは削減されたはず。その分、我々の負担は増えるのだから、値引きが必要だ」との理屈だった。K社はこの要求を拒むことができず、受け入れるしかなかった。
これにより、営業費削減の目的で導入されたはずの施策が、かえって収益を圧迫する結果を招いてしまった。総代理店への依存が強まる中、K社の営業陣や経営陣は総代理店の顔色を窺うようになり、総代理店に頭を下げて懇願する場面すら珍しくなかった。営業部長や専務、社長までもが「どうかよろしくお願いします」と訪問を繰り返す状況は、企業の主体性を大きく損なった。
総代理店による圧力と損失の連鎖
総代理店はその立場を利用し、次々と無理難題を押し付けてきた。カタログ制作費の負担や展示会の協賛金、特売商品の値引きなど、追加のコストが次々と発生した。さらに、頻繁な再見積り要求もあり、これがさらにK社の利益を圧迫した。
典型的な例として、複数の商品を同時に見積もり、あたかも平等に検討しているように見せかける手法がある。例えば、A商品を80円、B商品を150円で提示すると、「B商品を170円で売っても問題ない。その代わり、A商品は70円にしてほしい」と持ちかけられる。K社はこの提案を受け入れた結果、利益率の高いB商品ではなく、利益の薄いA商品ばかりが注文される事態に陥った。
さらに、高値で売りたいB商品を勧めると、「価格が高すぎて売れない。150円に値下げすれば検討する」と返され、またしても条件を引き下げざるを得なくなる。こうした取引が4年もの間繰り返されたにもかかわらず、K社はその罠に気付かなかった。
理不尽な価格設定と企業の無関心
ある日、私はスーパーの店頭でA商品が320円で販売されているのを見つけた。K社が総代理店に80円で卸した商品が、最終的に4倍もの価格で販売されている事実に驚愕した。スーパーへの納入価格が掛率60%と仮定すると、総代理店の取り分は112円に達する。一方、K社の利益率はわずか25%という不健全な状況だった。
さらに驚いたのは、この状況をK社の経営陣が全く把握していなかったことだ。社長も専務も営業部長も、商品の市場価格や流通の実態に無関心だったのである。この無関心さが、さらなる問題を招いた。
総代理店制が抱える根本的なリスク
K社が陥った状況は、総代理店制の危うさを如実に示している。総代理店に依存するビジネスモデルは、一見効率的に思えるが、総代理店の利益が優先されるため、メーカーにとって極めて不利な条件がつきまとう。さらに、価格交渉や市場対応の主導権を奪われれば、メーカーは自らの意思で状況を打開する力を失ってしまう。
K社の失敗は、経営陣が市場の現実を正しく理解せず、短期的なコスト削減を優先した結果生じたものだ。企業の持続的な成長には、流通や市場の実態を正確に把握し、戦略的な意思決定を行うことが不可欠だ。
この文章は、総代理店制のリスクを中心に再構成したものです。さらに修正点や追加内容があればお知らせください!
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