■引用原文(書き下し文付き)
原文:
詩云、桃之夭夭、其葉蓁蓁、之子于帰、宜其家人。
宜其家人、而后可以教国人。
詩云、宜兄宜弟、宜兄宜弟、而后可以教国人。
詩云、其儀不忒、正是四国。
其為父子兄弟足法、而后民法之也。
此謂治国在斉其家。
書き下し文:
詩に云う、「桃の夭夭たる、その葉蓁蓁たり。之の子、于に帰ぐ。その家人に宜し」と。
その家人に宜しくして、而る後に国人を教うべきなり。
詩に云う、「兄に宜しく、弟に宜し」と。兄に宜しく、弟に宜しくして、而る後に国人を教うべきなり。
詩に云う、「その儀、忒(たが)わず。これ、四国を正す」と。
その父子兄弟たること、法るに足りて、而る後に民これに法る。
此れを、国を治むるはその家を斉うるに在り、と謂うなり。
(『礼記』大学 第五章 第二節)
■逐語訳(一文ずつ)
- 『詩経』に「桃の木は若々しく、葉は繁り茂っている。この娘が嫁ぐが、嫁ぎ先の家族とも仲良くやるだろう」とある。
- 自分の家の人たちとうまくやってこそ、他人を教え導くことができる。
- 『詩経』に「兄と仲良く、弟と仲良く」とある。家族間の和があってこそ、国民に徳を教えられる。
- 『詩経』に「君子の礼法はたがいがなく、それによって四方の国々を正している」とある。
- 父として、子として、兄弟としてのふるまいが模範となってこそ、人々はそれにならう。
- だから、国を治めるにはまず家を和合させることが基本なのだ。
■用語解説
- 桃之夭夭:若々しい桃の木。嫁入りする娘の比喩。
- 宜其家人:家族と和合して調和しているさま。
- 宜兄宜弟:兄弟間の親愛と敬意。家庭内の徳の代表。
- 儀不忒(ぎあやまらず):「儀」は礼節・行動規範。「忒」は間違いの意味で、礼に狂いがないこと。
- 法るに足りる:模範とされるに足る。人々が見習うに値すること。
■全体の現代語訳(まとめ)
家庭内での関係が調和してこそ、外に対して徳をもって導くことができる。
嫁ぐ娘が家族とうまくいっていることは、良き家庭の徳を表しており、そこにこそ社会の教育の基本がある。
兄弟間の和やかさもまた、社会への徳の拡張である。
礼節正しく、模範的なふるまいをする人物がいてこそ、周囲もそれにならおうとする。
つまり、家庭における徳が、国家や社会全体の模範となり、治世の基盤となるのだ。
■解釈と現代的意義
この節では、徳が「内から外へ」「近くから遠くへ」広がる道筋を詩経の引用をもとに示しています。
孔子は、政治や教育の根源を「家族関係」──とりわけ家庭内の和と徳の実践に見ています。
親子・兄弟姉妹との関係においてすら、愛と敬がなければ、より遠い社会の人間関係に徳が行き届くはずがありません。
つまり、一番近い関係で徳が実践できなければ、遠い相手には響かないという実践主義的な視座が、ここにあるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
組織文化の構築 | 部署やチームという「身近な単位」の中で調和と敬意がなければ、全社的な倫理や理念は実体を伴わない。 |
リーダーの影響力 | 部下やチームメンバーとの関係において模範を示せない上司が、外向きの指導や統率力を発揮できるはずがない。 |
家庭と仕事の一貫性 | 「家庭での姿」と「職場での姿」が乖離しているリーダーは、信頼を築けない。徳は全人格的なものであり、分離は不可能。 |
信頼と模範性 | 社内での影響力は、地位や役職ではなく「身近な人間関係における模範性」に比例する。模倣される価値のある言動が求められる。 |
■心得まとめ(ビジネス指針)
「身近な人との関係にこそ、あなたの本質が映る」
家庭やチームで和を築けない人に、社会や組織の秩序は築けない。小さな単位の徳が、やがて大きな秩序となる。
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