MENU

老いと小ささを受け入れ、自然の中で精一杯に生きる

年を重ねれば、髪は抜け落ち、歯もまばらになる。
この肉体は、まるで幻のように、やがてしぼみ、消えていく。

これは、人間の力では抗えない「自然の摂理」。
だからこそ、無理に抗うのではなく、自然の流れに任せて生きる。

そして――
鳥がさえずり、花が咲く。
その風景を見れば、自分のような小さな存在であっても、
大きな自然の「真如(しんにょ)」――変わらぬ真理――の中に生きているのだ
と気づかされる。

だから私は、この幻のような一生であっても、
自然に抱かれながら、心静かに、しかし誠実に、精一杯生きていこう
と思う。


引用(ふりがな付き)

髪(かみ)落(お)ち歯(は)疎(まば)らにして、
幻形(げんけい)の彫謝(ちょうしゃ)に任(まか)せ、
鳥(とり)吟(さえず)じ花(はな)咲(さ)いて、
自性(じしょう)の真如(しんにょ)を識(し)る。


注釈

  • 幻形(げんけい):幻のように一時的な人間の肉体。仏教の「無常」観にも通じる。
  • 彫謝(ちょうしゃ):しぼみ、衰え、やがて消えていくこと。「彫」は「凋(しぼむ)」、「謝」は「消える」。
  • 自性(じしょう):すべてのものに本来的に備わる性質。仏教における本質的存在。
  • 真如(しんにょ):常に変わらぬ究極の真理。現象の奥にある「真の在り方」。
  • 識る(しる):理屈ではなく、心で体感的に理解すること。

関連思想と補足

  • 『老子』の**「道法自然」「帰根(きこん)=復命」**という思想と強く響き合う。
    • 「人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る」(第25章)
    • 「万物は並び作り、吾れ以て其の復るを観る」(第16章)
  • また、仏教的には「無常」「空」「自性清浄心」などといった、儚さを受け入れつつも、真実の命に目覚める態度とつながる。
  • 現代でも「老い」や「死」をネガティブに避ける風潮があるなか、
     自然と共に老い、自然のままに朽ちることの尊さを改めて思い出させてくれる言葉。

原文

髮落齒疎、任幻形之彫謝、
鳥吟花發、識自性之眞如。


書き下し文

髪(かみ)落ち歯(は)疎(まば)らにして、幻形(げんけい)の彫謝(ちょうしゃ)に任(まか)せ、
鳥(とり)吟(うた)い花(はな)発(ひら)いて、自性(じせい)の真如(しんにょ)を識(し)る。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「髪落ち歯疎にして、幻形の彫謝に任せ」
→ 髪が抜け落ち、歯がまばらになるように、老いにより容貌が衰えていくことを、すべて幻の形の消滅として自然に受け入れる。

「鳥吟じ花咲いて、自性の真如を識る」
→ 鳥がさえずり、花が咲く自然の営みの中に、自らの本質的な存在(=自性)と宇宙の真理(=真如)を悟る。


用語解説

  • 髮落齒疎(はつらくしそ):老化の象徴。髪が抜け、歯が抜け落ちること。
  • 幻形(げんけい):幻のような肉体。物質的身体は本質ではないという意味。
  • 彫謝(ちょうしゃ):彫り込みが薄れ、色あせていくこと。転じて「容色が衰える」「老いによる消耗」。
  • 鳥吟(ちょうぎん):鳥のさえずり。自然の声、命の響き。
  • 花發(かはつ):花が開くこと。生命の自然な躍動。
  • 自性(じせい):自己の本来の性質、仏性。悟りの源。
  • 真如(しんにょ):真実そのもの、絶対的な実在。仏教用語で「本当の在りよう」「不変の真理」。

全体の現代語訳(まとめ)

髪が抜け、歯がまばらになっても、老いによる肉体の衰えを幻のようなものとして受け入れ、
鳥のさえずりや花の咲く姿を見て、自分自身の本質と宇宙の真理とを悟ることができる。


解釈と現代的意義

この章句は、「老いを悲しまず、自然に委ねよ。そして、自然の中にこそ本質の自己がある」という悟りの境地を語っています。

  • 第一文は、「老い」や「肉体の変化」を否定や恐れではなく、“幻形の彫謝”=自然の一過程として捉える心の自由さ。
  • 第二文は、自然(鳥や花)のありのままの営みに触れることで、“自分の本質(自性)”と“宇宙の真理(真如)”が見えてくるという哲学的示唆。

これは、老荘思想・禅・仏教すべてに通じる、「無常の中の永遠を見出す精神」といえます。


ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「変化する自分を否定せず、自然に受け入れる」

キャリアや肉体、気力の変化を“衰え”として嘆くのではなく、「一つの段階としてその変化を受容する」姿勢が、成熟したビジネスパーソンを育てます。
成長・成熟・老化すらも、「人生の構成要素のひとつ」として捉える視座が重要です。

2. 「外見やパフォーマンスより、“本質的存在価値”に目を向ける」

鳥のさえずりや花の開花のように、飾らずとも存在そのものに価値があるという考え方は、組織における高齢者・ベテラン人材の尊重にもつながります。
外的な能力やスピードよりも、「在り方」「知恵」「経験」を評価する文化が求められます。

3. 「自然とのつながりが、“本来の自分”を教えてくれる」

激務や都市の喧騒から離れ、鳥の声や花の香りを感じることで、自己の本質に気づく時間が生まれます。
自然との接点を持つことが、“自性の真如”を思い出すきっかけになるのです。


ビジネス用の心得タイトル

「老いを憂えず、本質を観よ──自然が教える真の自己」


この章句は、「無常(肉体の変化)の中にこそ、不変(真如)を悟る道がある」という静かな叡智を伝えています。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次