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小国が生き残る道は、民とともに仁を守ること

― 勢力に屈するな、まず民の心を得よ

某国の文公が孟子に尋ねた。
「我が国は小国であり、強大な斉と楚に挟まれている。どちらに仕えるべきか?」

これは古今東西の小国が直面するジレンマ――「独立か、従属か」という問題である。
孟子は即座に、「それは私の考えが及ぶ範囲ではありません」と答える。
つまり、これは為政者自らが決断すべき重い選択であり、他人に依存すべきではないというメッセージだ。

それでもなお、どうしても意見を求められるならば――と孟子は一つの道を示す。

「城の堀を深く掘り、城壁を高く築き、民とともに城を守り、たとえ死ぬことになっても民が逃げ出さないようにする。
そのような国であれば、独立して存在し続けることができる」と。

これは単なる軍備強化ではなく、普段から仁政を行って民心を得ておくことが前提にある。
民が国に信を置き、指導者と生死を共にする覚悟を持つような政治――
それが、小国が独立を保つための唯一の現実的な道なのだと孟子は説いている。


引用(ふりがな付き)

「文公(ぶんこう)問(と)うて曰(い)わく、
我(われ)は小国(しょうこく)なり。斉(せい)・楚(そ)に閒(かん)す。
斉(せい)に事(つか)えんか、楚(そ)に事(つか)えんか。
孟子(もうし)対(こた)えて曰(い)わく、是(こ)の謀(はかりごと)は吾(われ)が能(よ)く及(およ)ぶ所(ところ)に非(あら)ざるなり。
已(や)む無(な)くんば則(すなわ)ち一(ひと)つ有(あ)り。
斯(こ)の池(いけ)を鑿(ほ)り、斯(こ)の城(しろ)を築(きず)き、
民(たみ)と与(とも)に之(これ)を守(まも)り、
死(し)を効(つく)すも民(たみ)去(さ)らざれば、則(すなわ)ち是(こ)れ為(な)すべきなり」


注釈

  • 謀(はかりごと)…政策や進退の判断。国家の戦略的選択。
  • 吾が能く及ぶ所に非ざる…孟子の真意は、「これは他人に委ねる問題ではなく、君主自らが腹を決めるべき問題である」という含意。
  • 斯の池・斯の城…防衛力を整えるというだけでなく、「共同体としての覚悟」を築く比喩。
  • 民と与に守る…民との一体感が、真の防衛力になる。
  • 死を効しても民去らざる…仁政を施して民心を得れば、民は国家と運命を共にする覚悟を持つようになる。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • small-but-strong-with-virtue(仁あれば小国も強し)
  • people-are-the-fortress(民こそが城壁)
  • independence-through-righteous-rule(仁政こそ独立の道)

この章は、現代にも通ずる「国家の主権と民意」の本質に迫った内容です。

1. 原文

文公問曰、
「某小國也、閒於齊・楚、事齊乎、事楚乎」
孟子對曰、
「是謀非吾之能及也、無已則一焉、鑿斯池也、築斯城也、與民守之、效死而民弗去、則是可爲也。」


2. 書き下し文

文公、問いて曰く、
「某、小国なり。斉・楚の間にある。斉に事えんか、楚に事えんか。」
孟子、対えて曰く、
「是の謀は、吾が能く及ぶ所に非ざるなり。已むを得ざれば、則ち一(いつ)にする有り。斯の池を鑿ち、斯の城を築き、民と与に之を守り、死を効しても民去らざるときは、則ち是れ為すべきなり。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 文公が孟子に問いました:
    「我が国は小国であり、強国である斉と楚に挟まれています。どちらに仕えるべきでしょうか?」
  • 孟子は答えました:
    「そのような戦略は、私の分野ではありません。
    どうしても仕える先を選ばねばならないというのならば、方法は一つあります。

この土地に堀(池)を掘り、城を築き、
民とともに国を守り抜き、命を賭けても民が去ろうとしない国であれば──
それは、守るに足る国家であると言えるでしょう。」


4. 用語解説

用語解説
事(つか)う従属する。仕える。ここでは「属国になる」意。
斯の池・斯の城「この池」「この城」。防衛の象徴。自国の独立を守るための備え。
鑿(さく)掘ること。
效死(こうし)命を捧げる、死をもって尽くす。
民弗去(みたみさらず)民がその国を見捨てて去ることがない。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

文公が孟子にこう尋ねました:

「我が国は小国であり、強大な斉と楚に挟まれております。どちらに従うのがよいでしょうか?」

孟子は答えました:

「そのような外交戦略は、私の専門ではありません。しかし、もし避けられぬ選択を迫られるなら、方法は一つです。

この地に堀を掘り、城を築いて、民と一緒にこの国を守り、命を賭しても民が離れないような国を作ることです。

そういう国ならば、国家として守る価値があるのです。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は単なる外交・戦略論ではなく、**「国家とは何か」**を本質から問いかける名文です。

  • 民の忠誠は「制度」や「軍事力」でなく、「共に生きる姿勢」に宿る
    孟子は「民が命を懸けても離れたくない国」であれば、小国でも存立できると説きます。
    これは「民との信頼関係」こそ国家の根幹であるという儒家の民本思想の表れです。
  • 形だけの国防では意味がない
    単に堀を掘り、城を築いても、民心が離れていれば滅びは必至。孟子が言うのは「共に国を守る精神」が国防の根本という哲学です。
  • 強国への従属より、自主独立を選ぶ勇気
    小国であっても民とともに立ち、心を一つにすることが、他国に隷属するよりも尊いという孟子の強い政治的メッセージがあります。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅ 「社員が去らない会社づくりこそ、最強の競争戦略」

人材が辞めず、困難な時期でも一丸となって支え合える組織は、真に強い企業である。
社員が「ここで働き続けたい」と思える文化・信頼・関係構築が鍵。

✅ 「リーダーは“共に守る覚悟”を示せ」

トップダウンで命令するだけでは、いざという時に誰もついてこない。
リーダーが率先して前線に立ち、「共に戦う姿勢」を見せることで、信頼は築かれる。

✅ 「守るべき“城”を社員と共有せよ」

ビジョンや理念を社員と共有し、それを守り抜く意思を一緒に持てる企業だけが、外的圧力にも耐えうる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「去らぬ民がいる限り、城は守れる──共に立つ覚悟が組織を支える」


この章句は、ただの外交・戦略指南ではなく、**「民の心が宿る国こそ本物の国家である」**という孟子の民本思想の核心を語っています。
現代の企業経営や組織論にもそのまま通用する力強いメッセージです。

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