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真心を貫けば、人の心は自然と動く

信念をもって尽くすことが、最大の教えとなる

孟子の教えを受け、太子(後の文公)はついに決意した。
「これは、すべて自分がやり尽くすかどうかにかかっている」と。
そして三年の喪を行うことを定め、葬儀の五ヵ月前からは粗末な仮小屋にこもり、政務も差し控え、戒告も出さなかった。

初めこそ反対していた家臣や一族も、その姿を見て心を動かされ、理解を示すようになる。
葬儀当日、文公のやつれきった面持ちと、悲しみに満ちた哭泣の姿を見た弔問者たちは、その誠意と礼に深く感動した。

形式や制度ではない。心を尽くす姿が、人の心を動かす。
「君子の徳は風なり」の言葉通り、文公のまごころは、家臣や人民の中に自然となびく風を起こした。

真の変革は、強制によらず、まず己を律し、徳をもって臨むところから始まる。
信念を貫く姿勢こそが、最高の教化となる。


引用(ふりがな付き)

世子(せいし)曰(い)く、然(しか)り。是(これ)誠(まこと)に我(われ)に在(あ)り。

葬(そう)するに至(いた)るに及(およ)び、四方(しほう)来(きた)りて之(これ)を観(み)る。顔色(がんしょく)の戚(いた)める、哭泣(こっきゅう)の哀(かな)しめる、弔(とむら)する者(もの)大(おお)いに悦(よろこ)ぶ。


簡単な注釈

  • 是れ誠に我に在り:「すべては自分次第」という強い自覚。孔子の「仁を為すは己に由る」と響き合う表現。
  • 廬に居る:葬儀前に仮小屋に籠もり、政から離れて哀しみに専念する儒家の理想的な喪の過ごし方。
  • 哭泣の哀:単なる儀式ではなく、深く心からの嘆き。そこに人々は真実を感じ取った。
  • 弔者大悦:見物に来た者たちが「悦ぶ」とは、外面的な喜びではなく、心からの感動と敬服を表す。

1. 原文

然友反命。世子曰、「然。是在我也。五月居廬,未有命戒,百官族人可謂曰知也。至葬,四方來觀之。顏色之戚,哭泣之哀,弔者大悅。」


2. 書き下し文

然友、命を反(かえ)す。
世子曰(いわ)く、
「然(しか)り。是(こ)れ誠に我に在(あ)り。
五月、廬(ろ)に居り、未だ命戒(めいかい)有らず。百官・族人、可とし謂(い)いて曰(い)う、知れり、と。
葬(ほうむ)るに至るに及び、四方より来たりて之を観る。
顔色の戚(いた)み、哭泣の哀しみ、弔(とむら)う者、大いに悦(よろこ)ぶ。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「然友反命」
     → 然友が孟子の言葉を持ち帰って報告した。
  • 「世子曰、『然。是在我也』」
     → 世子は言った。「その通りだ。すべては私自身にかかっているのだ。」
  • 「五月居廬,未有命戒」
     → 喪中の五か月の間、粗末な小屋(廬)に住み、命令や戒めごとを発することなく過ごした。
  • 「百官族人可謂曰知也」
     → 百官や一族の者たちは、「この態度を見れば、彼が(悲しみを)理解しているといえる」と言った。
  • 「至葬,四方來觀之」
     → 葬儀の際には、各地から人々が見物にやってきた。
  • 「顏色之戚,哭泣之哀」
     → 世子の表情には深い悲しみがにじみ、涙には真に哀しみが込められていた。
  • 「弔者大悅」
     → それを見た弔問客たちは皆、非常に満足した(感動した)。

4. 用語解説

  • 居廬(きょろ):喪中、宮殿を離れて粗末な仮小屋で暮らすこと。哀悼の象徴。
  • 命戒(めいかい):命令を出すことや政務に関する言動。喪中は慎む。
  • 可謂曰知也:見た人が「これをもって彼は本当に理解している(=本心から悲しんでいる)」と言えるという意味。
  • 四方來觀之:遠方から人々が様子を見にやってくること。
  • 顏色之戚、哭泣之哀:表情・態度・涙に“真の悲しみ”が込められている状態。
  • 弔者大悅:弔問に来た人々が感動し、納得すること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

然友が再び孟子の言葉を持ち帰ると、世子はこう言った。
「その通りだ。すべては私自身にかかっている。私は五か月もの間、仮小屋に住み、政務にも口を出さず、心から喪に服した。

それを見た百官や一族は、私の心中を“よく理解している”と感じてくれた。
葬儀の時には、遠方からも人々がやってきて私の様子を見た。

彼らは、私の表情や涙に本物の悲しみを感じ取り、心から納得し、感動してくれた。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、形式ではなく“真心”によって人の心は動かされるという孟子的価値観の集大成です。

  • 真のリーダーシップは、内面から始まる
     喪中の世子は、誰よりも深く悲しみ、誰よりも慎みをもって行動しました。
     その“静かな誠実”が、周囲の信頼と評価を呼び寄せたのです。
  • 姿勢・態度・感情の一致が、人を動かす
     言葉ではなく、“顔の色・涙の質”が人々に感動を与える──これは、リーダーの“在り方”の重要性を説いています。
  • 改革者が真摯であれば、人は自然と納得する
     たとえ慣例を破る選択であっても、それが本心からのものであれば、周囲はついてくる。

7. ビジネスにおける解釈と適用

「真摯な行動が、最強の説得力となる」

  • 経営者が本気で危機を受け止め、身を慎んでいる姿は、社員の心に響く。
  • 外に向けて“飾る”より、内に向けて“誠実であること”が重要。

「行動の“空気”が人を巻き込む」

  • メール・報告書・会議ではなく、「態度・所作・間(ま)」がメッセージとなる。
  • 企業文化は“空気”で伝播する。空気を作るのはトップの在り方。

「逆風の中でも、誠実に向き合えば支援者は現れる」

  • 常識やルールを破るときこそ、真正面から真剣に向き合い、率直に生きること。
  • その“姿”こそが、周囲に安心感と信頼を与える。

8. ビジネス用心得タイトル

「誠は声なくして人を動かす──本気の在り方が信頼を呼ぶ」


以上で『孟子』「定公薨」章の全文整理が完了しました。
この章は、“伝統の重圧の中でどう誠実に振る舞うか”というリーダーシップの本質を描いており、現代ビジネスにも強い示唆を与えます。

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