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■引用原文(『中庸』第十一章)
誠者、天之道也。誠之者、人之道也。
誠者、不勉而中、不思而得、従容中道、聖人也。
誠之者、択善而固執之者也。
■逐語訳
- 誠とは、天(宇宙の根本原理)の道である。
- それを誠にしようと努力することが、人間の道である。
- 「誠」が体現された人は、努力しなくとも正しく的中し、思慮を巡らせずとも達成し、自然体のままで正道にかなう。これが聖人である。
- 「誠」を目指す人とは、善を選び抜き、それを固く守り抜く人である。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
誠(せい) | 嘘偽りのない真実の心。自然の理に従った存在のあり方。 |
天之道 | 天(宇宙原理・道徳の根源)の自ずから然る働き。努力を超えた「自然体の完全」。 |
人之道 | 人間が誠の境地に至ろうと努力する道。倫理の実践。 |
不勉而中(中=あたる) | 努力しなくても自然に正しく生きること。 |
従容中道 | 無理なくのびやかに正道を歩むこと。ゆったりと自然体で道に中ること。 |
択善而固執之 | 善を選び取り、それを固く守り抜く行為。意志と継続が必要。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
「誠」とは、人間の心を超えた宇宙の根本的な真理であり、それに則ることが「天の道」である。
そして、人間としてなすべきは、この「誠」を自分の身に実現しようと努力すること、つまり「人の道」である。
理想的には、「誠」の人は努力しなくとも自然に正しい行動ができる。それが「聖人」であり、彼は思慮せずとも道を踏み外さない完全な存在である。
一方、私たち一般の人間にとっては、「誠」を目指して善を選び取り、それをしっかりと守り続けることが実践の道である。
■解釈と現代的意義
この章は「誠の境地」を、理想(聖人)と現実(一般人)の両側から描き出しています。
- 聖人(不勉而中):思慮や努力を超えた、自然体で正しく在る者
- 誠之者(択善而固執):善を見極め、それを一貫して実行する努力者
これは、現代でいえば以下のような教訓となります:
- 成功している人ほど自然体に見えるが、その背後には長年の誠実な努力がある。
- 一貫性のある行動や人格は、善の選択とそれを守る意志から生まれる。
つまり、凡人にとっては、「善を選び、継続して守る」という小さな実践の積み重ねこそが「誠」に近づく唯一の道なのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
リーダー像 | 優れたリーダーは自然体でも信頼される「誠の人」。その姿は長年の実践の結晶である。 |
選択と継続 | 善(=正しい判断、理念)を選び、それをブレずに貫くことが、長期的な信頼と成果を生む。 |
自己ブランディング | 誠実に、かつブレずに「選んだ価値」を体現することで、他者からの評価が安定する。 |
採用・育成 | 「才能」より「誠実な継続力」を見極め、地道に善を守る人を育てる方針が組織を強くする。 |
■心得まとめ
「誠実は、聖人の姿であり、凡人の修行である」
思慮せずして正しく行動できる人――それは理想の「誠」の人。
しかし、私たちが歩む道は、「善を選び、それを固く守る」地道な実践しかない。
その一歩一歩が、誠の道であり、最終的には自然体でも正しく生きられる人格に至る。
「真の誠実さとは、善の一貫した選択である。」
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