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知らぬゆえの誠にこそ、真の信が宿る


一、原文(抄出)

相浦源左衛門儀、初めて御供罷登り、公儀不案内にて、二条御城へ持ち参り、お玄関前まで参り候。
棒を当て申すべくと仕り候も、「申上ぐべき仔細御座候」と膝を折り、御状取出し。
岡部丹波守殿「鍋島家来にて候はば、我等を見知り申し候や」との問いに、「曾て見知り申さず」
書状受け取りに対し、源左衛門「見知り申さざるお方に相渡し候儀、罷成らぎる」
丹波守殿、「源左衛門働き比類なき器量者」と褒賞申し候。


二、書き下し文(要所)

源左衛門は初めての上洛であり、公儀の作法にも不慣れであったが、返書を届けようと二条城の玄関に直接向かう。
番卒に取り囲まれるも、礼を失わず膝を折り、「申上げたい仔細があります」と懇願。
岡部丹波守に事情を告げられるも、彼を「存じ上げない」と言って書状の受け渡しを拒む。
命懸けの忠義と判断した誠実さが、やがて丹波守の感動を呼び、勝茂公からの昇進につながった。


三、逐語現代語訳

  • 「初めての御供で不案内にて…」
     源左衛門は初めての上洛随行で、幕府の儀礼も知らなかった。
  • 「棒を当て申すべく…」
     不審者として番卒たちに取り囲まれ、捕縛されかける。
  • 「書状を見知り申さざるお方に…」
     命を懸けてでも、知らない人に重要な書状を渡すことはできない。
  • 「器量者にて候」
     丹波守がその一連の言動を見て「信と胆力ある者」と評価した。

四、用語解説

用語解説
公儀(こうぎ)江戸幕府。格式と作法の権威を指す。
番卒警備兵。大名や幕府の施設を守る役目。
罷成らぎる(まかりならぎる)断固としてできない、受け入れられないという強い否定。
器量者器が大きく、将来を期待される人物。人徳と胆力を兼ね備える者。

五、全体現代語訳(まとめ)

源左衛門は、幕府の作法も知らぬまま、命じられた返書を直接二条城に届けようとした。
不審者扱いされる中でも、冷静に事情を説明し、誠実さと覚悟を示した。
身分ある者の名を借りず、見知りもしない相手には書状を渡さないという忠誠心は、ただの無作法ではなく、命を賭して果たす任務の重さを理解した者の行動だった。
この態度が評価され、源左衛門は出世の道を開いた。


六、解釈と現代的意義

この逸話は、「礼儀」や「格式」といった表層よりも、「誠」と「覚悟」に本質的な価値があることを教えています。

常朝は「慣れた者の手際のよさ」よりも、「不慣れでもまっすぐな魂の働き」に価値を見出しており、これは現代にも通じる強烈なメッセージです。

現代社会でも、「マニュアルどおりの正しさ」より、「その人が命がけで守ろうとした本分」が評価される場面はあります。
源左衛門の態度は、「初心者だからこそ出せる誠実さ」の象徴です。


七、ビジネスにおける応用(実践項目)

項目解釈・応用
新人の価値未経験者でも、誠実な姿勢・覚悟ある態度が評価される。学歴や慣習より、真心が組織を動かす。
危機対応トラブル時に「取り繕う」より、「正直に、責任を持って行動」することで信を得る。
情報管理書類や情報の取り扱いにおいて、「誰に渡すか」を熟慮する姿勢が信頼につながる。
縦社会での判断相手がどれほど地位のある人物でも、「見知り申さず」の覚悟は、組織倫理の柱となる。
評価の本質出世や評価は、日々の任務への本気度と、信義を貫いた行動によって築かれる。

八、心得まとめ

「知らぬなりに、己の本分を尽くせ」

源左衛門は、未経験ゆえに多くを知らなかった。
だが彼には、命を賭してでも「正しい相手に正しく渡す」という強い使命感があった。
この行動こそが、「本当の忠義」であり、組織が欲している「信頼できる人間」そのものである。
経験の有無ではなく、覚悟の有無が、人を動かし、評価され、やがて立身へとつながっていく。

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