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欲が淡ければ、人生はすでに満ちている

田舎の素朴な農夫は、鶏の肉や手づくりのにごり酒の話をすれば、うれしそうに語り、
自分の着ているどてらや粗末な衣服の話になると、さらに楽しげに話す。
だが、貴人たちのごちそうや高官の礼服の話を振られても、まったく関心を示さない。

それは、彼らの「天性」が損なわれておらず、欲も自然と淡くなっているからである。
そんな、物を求めすぎず、足るを知る心こそが、人生の最も幸せな境地だと『菜根譚』は教えてくれる。


原文とふりがな付き引用

田父野叟(でんぷやそう)は、語(かた)るに黄鶏(こうけい)白酒(はくしゅ)を以(も)ってすれば、則(すなわ)ち欣然(きんぜん)として喜(よろこ)び、問(と)うに鼎養(ていよう)を以てすれば、則ち知(し)らず。
語るに縕袍褐(うんぽうかつ)を以てすれば、則ち油然(ゆうぜん)として楽し(たの)しみ、問うに袞服(こんぷく)を以てすれば、則ち識(し)らず。其(そ)の天(てん)全(まった)し。故(ゆえ)に其の欲(よく)淡(たん)し。此(こ)れは是(こ)れ人生第一個(だいいちご)の境界(きょうがい)なり。


注釈

  • 田父野叟(でんぷやそう):田舎に住む年配の素朴な農民。自然な生き方の象徴。
  • 黄鶏(こうけい):おいしいとされる鶏の肉。羽の色が茶や赤みがかっている。
  • 白酒(はくしゅ):濁った手づくりの酒。素朴な酒を意味する。
  • 鼎養(ていよう):貴人たちの豪華な料理。
  • 縕袍褐(うんぽうかつ):質素な普段着。どてらや粗末な着物。
  • 油然(ゆうぜん):感情がふつふつと湧きあがるさま。歓喜。
  • 袞服(こんぷく):高位の人が着る格式高い礼服。
  • 天全し(てんまったし):生まれ持った純粋な心が損なわれていないこと。
  • 欲淡し(よくたんし):欲望がうすく、物事に執着しないこと。

1. 原文

田野叟、語以黃鷄白酒、則欣然喜;問以鼎養、則不知。
語以縕袍褐、則油然樂;問以衮服、則不識。其天全、故其欲淡。
此是人生第一個境界。


2. 書き下し文

田父(でんぷ)・野叟(やそう)、語(かた)るに黄鶏(こうけい)白酒(はくしゅ)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち欣然(きんぜん)として喜(よろこ)び、
問(と)うに鼎養(ていよう)を以てすれば、則ち知らず。
語るに縕袍(うんぽう)褐(かつ)を以てすれば、則ち油然(ゆうぜん)として楽しみ、
問うに衮服(こんぷく)を以てすれば、則ち識(し)らず。
其の天(てん)全(まった)し。故(ゆえ)に其の欲(よく)淡(たん)し。
此(こ)れ是(こ)れ人生第一個(だいいちご)の境界(きょうがい)なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 田舎の老人に、黄鶏(おいしい地鶏)と白酒(素朴な酒)の話をすれば、喜んで楽しそうに応じる。
  • だが、貴族の高級料理や献立について尋ねると、まったく知らない。
  • また、木綿の粗衣や麻布の着物について語れば、しみじみとした喜びを見せるが、
  • 豪華な官服について問えば、何のことやら分からない。
  • 彼の“天(=本性)”は完全に保たれており、だからこそ“欲”が淡いのだ。
  • これこそが、人としての第一の境地である。

4. 用語解説

  • 田父・野叟(でんぷ・やそう):田舎の老人。自然に近い生活をする素朴な人。
  • 黄鶏(こうけい):黄身の濃い地鶏。素朴で美味な庶民の料理。
  • 白酒(はくしゅ):白濁した酒、素朴な地酒。
  • 鼎養(ていよう):鼎(かなえ)=古代の高級な料理器具。ここでは王侯貴族の膳の意。
  • 縕袍褐(うんぽうかつ):縕=木綿の詰まった粗衣、褐=麻布の地味な服。
  • 衮服(こんぷく):天子・高官が着る絢爛豪華な儀式用の衣装。
  • 油然(ゆうぜん):自然に湧き上がるように、しみじみと喜ぶさま。
  • 天全(てんまったし):人間本来の自然性が失われていないこと。
  • 欲淡(よくたん):欲望が少ない、執着がないこと。
  • 人生第一個境界:人として到達すべき最初の理想的な生き方。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

田舎の老人に、素朴な食事や地酒の話をすれば心から喜び、高級な料理の話をしても全く知らない。
質素な服の話をすれば満ち足りた表情を浮かべ、豪華な官服について尋ねても何の関心もない。
このような人は、人間本来の自然な本性がそのまま保たれており、欲も執着も淡い。
これこそが、人としての第一の境地、すなわち理想のあり方である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「知足(足るを知る)と無欲の境地こそが、人間の原点である」という深い教えを含んでいます。

  • 現代人は“足ること”を忘れ、外の刺激ばかり追いかける
  • だが、本当に満たされた心は、豪華さや知識の量ではなく、“自然と共に生き、少欲で足りる精神”から生まれる
  • そしてその生き方は、喧騒の世界の中で忘れられつつあるが、実は最初に到達すべき第一の境地=人生の原点なのだ

これは老荘思想・仏教・儒教に共通する価値観であり、私たちの“生き方の再設計”に大きなヒントを与えてくれます。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 過剰な情報や刺激に疲れていないか?

「知っていること」や「経験の多さ」ではなく、「喜びの源はどこにあるか?」を問い直す必要がある。

✅ “豊かさ”の定義を見直せ

高級・希少・高額=幸せではない。
素朴な幸福を感じる感性が、長期的な安定と満足をもたらす。

✅ リーダーや経営層に必要なのは“欲の整理”

大きな判断には、煩悩のない心が求められる。欲が静まり、“全き天”を保てる者こそが、真の判断を下せる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「素朴に喜ぶ心が、“満ち足りた人間”への第一歩」


この章句は、価値観のリセットを促すマインドセット研修や、サステナブル・ライフスタイル導入の講座禅的ビジネス思考の導入にも最適です。


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