―『貞観政要』巻四より:太宗の法制改革に関する理念
🧭 心得
法は、簡明であってこそ公平に運用され、秩序が保たれる。
貞観十年、太宗は「一つの罪に対し、複数の条文があると、法は統一を失い、解釈により罪にも免罪にもなってしまう」と警告した。
それはつまり、官僚による恣意的な運用を許す抜け道を残すことであり、法の威信と正義を損なうものである。
太宗の理想は、**「誰もが覚えられ、正しく適用できる法」**であった。複雑な法典は知識ある者だけのものとなり、結果として不正を助長する。
よって彼は、法令の簡約化、条文の整理統一、重複規定の排除を強く命じたのである。
🏛 出典と原文
貞觀十年、太宗、侍臣に謂いて曰く:
「国家の法令は、ただ簡潔であればそれでよい。一つの罪に対して、いくつもの条文を設けてはならない。
法の規定が多ければ、官人は覚えきれず、誤りや不正が生じる。
出罪を望む者は軽い条文を適用し、罪に陥れたい者は重い条文を引き出す。
法がその都度異なるようでは、政治の道理に反する。
よって、法文を詳しく調べ、一事に複数の規定が交錯するようなことがないようにせよ」。
🗣 現代語訳(要約)
法律は簡明でなければならない。複数の条文が同じ罪を異なる形で規定すれば、裁判の公平性を損なう。不正を防ぐには、重複する法を整理し、単一明快な条文体系に改めることが必要だと太宗は述べた。
📘 注釈と解説
- 互文(ごぶん):同一の内容を異なる条文にまたがって記載すること。判決の一貫性を失わせる元となる。
- 格式(かくしき):法令や規定文書。律(刑法)と令(行政法)に加えて、命令・通達なども含む。
- 官人(かんじん):官僚・公務員。ここでは法を運用する地方官や司法官のこと。
- 出罪(しゅつざい)・入罪(にゅうざい):罪を免れること、あるいは罪に問うこと。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
simplicity-in-law
(主スラッグ)- 補足案:
one-law-one-crime
/clarity-over-complexity
/no-twisted-justice
法の精神は公平さにあり、そのためにはわかりやすさと一貫性が不可欠であるという太宗の洞察は、現代にも通じるものです。
コメント