現代のビジネス環境は常に変化し続け、企業はその変化に適応し、成長し続ける必要があります。そのために不可欠なのが、短期経営計画です。短期経営計画は、企業が将来の成功を確保し、長期的な目標に向かって進むための道しるべです。
この計画は通常、6か月または1年の期間を対象とし、具体的な数字と戦略を組み合わせて、将来の成果を見据えます。売上目標、利益目標、予算、人員計画、賃金目標など、さまざまな要素が組み込まれ、企業が何を達成し、どのように進化するかを明確に示します。
短期経営計画は、企業のリーダーシップとチーム全体に方向性を提供します。これは、目標達成に向けた具体的な行動計画を立てることから始まり、組織全体で連携し、戦術を調整していくプロセスです。それによって、組織の一員が同じ目標に向かって協力し、努力することができます。
短期経営計画の魅力は、柔軟性と適応力です。市場の変化や予測外の出来事に対応し、戦略を調整できるように、計画は定期的に見直されます。これにより、企業は変化に対応し、競争力を維持し続けることができます。
経営者として、短期経営計画を策定する際には、過去の実績にとらわれず、未来の成功に向けて創造的な戦略を展開する必要があります。数字だけでなく、戦術と戦略を結びつけ、目標を達成するプロセスに集中することが成功の秘訣です。
短期経営計画は、組織のビジョンを実現するための重要な道標であり、経営者の指導力と決断力が試される場でもあります。計画の策定から実行までの一貫性とコミットメントが、企業の成功に不可欠な要素となります。
短期経営計画の対象期間
1年単位
短期経営計画は、長期経営計画から導き出された六カ月(一期)または一年の計画である。
六カ月でも悪いというわけではないが、筆者は一期六カ月の会社は二期分、つまり一年単位の経営計画がよいと思う。(*3)
その理由は、経済活動は一年を一サイクルとしており、各種の資料も一年を単位としているので、それらとの関連で、一年のほうが何かと便利である。
もう一つの理由は季節的変動である。そのために、閑散期と繁忙期では業績に大きな違いがある。だから、その期だけを考えていては情況判断を誤るおそれがある。
閑散期と繁忙期を併せて考えなければならないことを知っていても、現実によい数字やかんばしくない数字を見せつけられると、それにつりこまれるおそれがあるのが人間なのだ。
この意味で、有価証券報告書を見るときに、「前期比」という数字に惑わされないようにしなければならない。短期経営計画は、長期経営計画からみたら、中間目標である。
しかし、長期経営計画がなければ、短期経営計画がたてられないというものではない。
筆者は、経営計画をたてたことのない会社に対しては、まず短期経営計画をたてることを、おすすめしている。これでまず一年、目標による経営をやってみる。
そのうえで、三年なり五年なりの長期計画に進むというほうが実際的である。
経営計画は、会計年度と一致させたほうがよい。六カ月一期の会社なら二期分という手もある。むろん、六カ月単位の計画でもかまわないのである。
社内周知
経営計画は、計画年度の一~二カ月前には決定されて、少なくとも計画年度の始まる前には、来期計画として、社内に周知徹底させる必要がある。
経営計画は、それが長期であっても短期であっても、会議で検討され、決定されるのが普通である。出席者は、トップ層だけで十分である。どんなに譲歩しても、部内の最高責任者までである。
それ以下のものが出席する必要はない。
会議は、あらかじめ経理部内または企画部内の担当者によって、作成された原案に基づいて審議をするというやり方が、一般に行われている。
このやり方は、間違っているわけではないけれども、少なくとも賢明な方法ではない。掘り下げた検討は、まずのぞめないからである。
他人がおぜん立てしたことは、なかなかピンとこないものである。自分では何もしていないからである。
しかも、それが担当者によって検討され、それなりの根拠をもった数字であることを説明されると、「なるほどそうか」ということになってしまう、という実例に筆者はいくつもぶつかっているのだ。
人は、自分で苦しんでつくりあげた数字でなければ、本当に自分のものにすることはできないものなのである。
会社の方向をきめる重大事が、「ああ、そうか」ですまされてはたいへんである。あらかじめ原案をつくって、会議にかけるという考え方は、間違った能率の思想である。
つまり、こうすれば会議が円滑に進行し、時間が節約されるというのだ。これでは本末顚倒もはなはだしい。会議で大切なのは、時間を節約することではなくて、その目的を達することなのである。
時間を節約するために、目的の達成が犠牲にされるのでは、まったくのお笑いである。まして、ことは経営計画に関することである。
「時間を節約する」という考え方自体が、まったくの間違いなのである。必要とあれば何回どころか、何十回でも会議を開いて、十分計画を練るべきである。
この会議の目的を達するには、十分に数字を検討し、その数字をつくりあげる方策を、じっくりと考えてみることである。
この会議できまったことが、会社の将来の運命をきめてしまうのである。
企業の将来の運命は、「どのような能率的な運営をするか」できまるのではなくて、「どのような決定をするか」できまるのである。
「決定」こそ、経営にとって根本であることを忘れてはならないのだ。
管理者はトップの意思決定を部下に伝える
それにもかかわらず、伝統的な経営学と称するもろもろの手法や理論は、この根本問題にほとんどふれていない。
管理者として、「部下とその仕事を管理する」ことは教えても、「トップの意志決定」に関することについては何もふれていないのだ。
このような教育を受けると、幹部は部下のほうばかり向いてしまい、経営者は外を向くことを忘れ、経営担当者は上司のほうを向くことを忘れてしまう。
まことに困ったことである。
そもそも、もろもろのマネジメントの理論には、「意志決定は常に誤りなく行われている」という大前提がある。その大前提の上に立って、実施についての能率を論じているのである。
しょせん、それらは管理学ではあっても、経営学ではないのだ。むろん広い意味では、管理も経営の一部である。
しかし筆者は、意志決定に関する学問を経営学、実施に関する学問を管理学とよびたい。同じ経営体の中でも、意志決定と実施は、質的にはまったく別のものだからである。
質的には、まったく違う管理学を経営学と称して、鳴り物入りで宣伝するものだから、多くの経営者は、それを信じて内部管理の問題に目を向けてしまうという間違いをおかしてしまったのである。
それが経営の近代化であるかのごとき錯覚を与え、経営者本来の役目である意志決定から、程度の差こそあれ、関心をそらしてしまうという罪悪をおかしているのである。
十分に数字を検討し、その数字をつくり出す方策をねるには、他人のおぜん立てではなく、自らおぜん立てしなければならない。この労を惜しんではならないのである。
会議には、意志決定に必要な資料、たとえば貸借対照表、損益計算書、財務分析表、試算表、売上統計、賃金資料、経費明細書などをそろえ、ソロバン、計算尺、卓上計算機も用意する。
忘れてならないのは黒板である。この黒板に、会議の要点と数字を書いてゆくのである。
この数字は、用意した資料からひろい出したり、計算したりしたものであり、それを見ながら討議し、決定してゆくのだ。
会議の席上で計算するなんて、時間のムダのようでいて、実はそうではない。だれかが計算している間にも、出席者は漫然と待っているようなことはほとんどない。
他の者は考えたり討議を進めたりしているものだ。
……これは筆者の経験がいわせることなのである。……こうすることによって、一つ一つの数字の意味や根拠が理解されてゆくのである。
これこそ時間の有効な使用法である、と筆者は信じている。
短期経営計画の作成例
短期経営計画で決定する目標の一例をあげてみよう。
まず現事業の目標として、
- 年間総合目標
- 一損益目標の総額と月別の目標
- 二人員計画
- 三設備計画
- 四資金運用計画
- 事業別・商品別・部門別の売上げと付加価値目標
- 輸出金額と付加価値目標
- 変動費率の内訳目標
- 賃金目標総額・残業枠・できれば賞与枠
- 経費目標統制可能費の費目別目標統制不能費の費目別目標
- 直間比率と未来事業人員の目標
- 労働生産性の目標販売生産性、製造生産性
- 合理化目標納期確保の目標
- 生産期間短縮の目標
- 設備近代化の目標
- 品質向上の目標
- 安全に関する目標
- 定着率・出勤率向上の目標
- プロジェクト計画とその目標
などがあげられる。
そして、それぞれの目標を達成するための戦術、方針・方策などが決定される。
以上の諸目標について、期限と日程・実施責任者が決定される。もちろん、あらためて明示しなくてもよいものは明示しなくともよい。
定期チェックのタイムスパン
つぎに、定期的に行うチェックについて、それぞれのタイム・スパンを決定する。
たとえば総合成果、部門成果については一カ月に一回、合理化の成果は三カ月に一回、プロジェクト計画は個々のケースについて決定する、という具合にする。
最後に、部門責任者、プロジェクト・マネジャーに、部門計画・プロジェクト計画の提出先と期限をきめる。
そして、それは客観情勢の展望、社長の決意を冒頭にした「短期経営計画書」にまとめられるのである。
この経営計画の数字をまとめることは、容易なことではない。あちら立てればこちらが立たずの苦しみの末の「でっちあげ数字」なのである。
過去の実績をそのまま伸ばし、それに可能な改善をした「実現可能な」というようなあまっちょろいものでは、けっしてない。一回やってみればよくわかる。
でっちあげ数字といっても、それがたんなるでっちあげや数字の尻を合わせたものでは、なんにもならない。それを実現させるための具体策に裏づけされたものでなければならないのである。
そのために必死の知恵をしぼるのである。改善なんて生やさしいものではないのだ。〝泣いて馬謖を斬る〟こともしなければならず、ときには蛮勇もふるわなければならないのである。
その苦しい決定をしなければならないのが経営者であり、不可能を可能なものに変えてゆくためには、部下の批判など気にしていたら、とてもできるものではないのだ。
とはいっても、実情を考慮した妥協があるのも事実である。
しかし、どれだけの妥協をするか、しないかが、その目標の優劣をきめる。どうすれば妥協を少なくすることができるかを考え抜かなければならない。妥協が少なければ少ないだけ、その目標は優秀なのであり、その優劣をきめるのがトップなのである。
たとえ妥協した場合でも、それはどれだけの妥協がなされたか、真の目標に対して、どれだけ不足しているかがわかっているから、油断がないのである。
現状をもとにした、実現可能な目標には、自己満足はあっても、きびしい事態の認識など生まれるはずがない。ここに危険がひそんでいるのである。
この危険は、だれでもない、自分自身の手でつくり出した危険なのである。すぐれた目標は「生き残る条件」をもとにし、凡傭な目標は過去の実績をもとにしてたてられる。
すぐれた目標は会社の存続と発展を約束し、凡傭な目標は会社を破綻に導くのだ。
未来事業については、それが短期的なもの、たとえば機種の増加とか改良といったものは、むしろ現事業に含めたほうがよい。
長期的な未来事業については、むしろ別途に、対象・目標、方針、予算・責任者・チェックなどについて計画書を作成するほうが、その重要度を強調し、認識させるための有効な手段であろう。
そして、この中の予算のみは、抜き出して経営計画に未来事業費として計上するようにすればよいのである。
まとめ
短期経営計画は、経営者が将来の目標や戦略を策定し、経済状況の変化に対応するための重要な道具です。この計画は、長期経営計画から派生したもので、通常、6か月(1期間)または1年間の範囲を対象にします。
筆者は、1期間(1年間)の経営計画を推奨しています。経済活動は1年をサイクルとしており、多くの経済データも1年単位で提供されるため、1年単位の計画が便利であると考えられています。
また、季節的な変動も考慮しなければならないため、閑散期と繁忙期の両方をカバーできる1年単位の計画が有用です。
短期経営計画の目標は、現在の事業を中心に、売上目標、人員計画、設備計画、資金運用計画、経費目標、賃金目標、プロジェクト計画など、様々な側面にわたります。
これらの目標は、経営計画の中で具体的な数字として示され、その達成方法や戦術も決定されます。
経営計画を立てる際、会議を開催し、関係者が協力して計画を検討し、最終的な決定を行うのが一般的です。この際、会議には計画に必要な資料や道具、数字の説明、議論が行われ、最終的な計画がまとめられます。
経営計画の数字を決定する過程は容易ではなく、ただ単に過去の実績を伸ばすのではなく、具体的な改善策と裏付けを持った数字が必要です。
妥協や折衝も避けられませんが、目標を優秀にするためには、自己満足や甘い決定ではなく、厳しい現実を直視し、努力が必要です。
経営計画は企業の将来を左右する重要なドキュメントであり、経営者はその数字を慎重に検討し、最適な方策を見つけ出す必要があります。短期経営計画は、経営の効果的な意志決定の基盤であり、企業の成功に不可欠なものです。
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