一、原文(抄出)
原の城にて外記事、光り渡り候物具を着致し候に付、勝茂公お気に入らず、
その後、日に立ち候物を御覧候ては、「外記が具足の様な」と御意毎度の由。
右の話に付、武具・衣装等目に立ち候様に仕るは手薄く見え強みなく、人の見すかし申すものとなり。
二、書き下し文(要所)
島原の乱にて、田崎外記という武士が金属の光沢が目立つ武具を身につけて戦場に出た。
それを見た勝茂公はたいへん不快に思われ、その後もキラキラした装備を見るたびに
「外記の具足のようだな」と皮肉をこめて語られたという。
武具や衣装をやたらと目立たせる者は、かえって実力が伴っていないように見え、
むしろ人に見すかされてしまうのだ。
三、逐語現代語訳
- 「光り渡り候物具」:ピカピカに輝く鎧や兜など。派手な装飾が目立つ武具。
- 「お気に入らず」:主君・勝茂公が快く思わなかった。むしろ不興を買った。
- 「人の見すかし申すもの」:中身がないと見抜かれ、かえって軽く見られるという意味。
四、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
具足(ぐそく) | 鎧兜などの武具一式。 |
外記(げき) | 武士の官名・通称。田崎外記は鍋島家臣。 |
外聞 | 世間の目・体裁・印象。 |
見すかし申す | 見抜かれて、真価が問われる・バレてしまうという意。 |
五、全体現代語訳(まとめ)
戦場で外見ばかりを飾った武具を身につけていた田崎外記の姿は、主君・勝茂公の目には軽薄に映った。
その後も、何か目立つものを見れば「外記の具足のようだ」と揶揄された。
武士が本当に重んじるべきは見た目ではなく実力・覚悟・行動であり、虚飾はかえって自らの「手薄さ」を露呈する。
この出来事は、「中身のない虚飾は侮られる」という教訓として伝えられている。
六、解釈と現代的意義
この章句は、**「体裁より本質」**という普遍的な価値観を端的に伝えています。
現代においても、派手な肩書きや外面の整備ばかりに気を取られ、実際の行動力や信頼性が伴わない人物は、すぐに見抜かれます。
とくにリーダー層や表に立つ立場であればあるほど、**「飾らない人柄」「言動の一致」「誠実な実力」**こそが信を得る道です。
七、ビジネスにおける応用(実践項目)
項目 | 解釈・応用 |
---|---|
外見と中身の整合性 | ブランド・肩書き・資料デザインなどに頼らず、内容・準備・本質を重視する。 |
リーダーの態度 | 見た目の華やかさよりも、言葉と行動で信頼を勝ち取る。 |
顧客対応 | うわべの丁寧さより、実際のレスポンスや誠実なサポートが評価される。 |
採用・昇進 | 派手な経歴ではなく、地道な実績・裏打ちされたスキルで判断する。 |
組織文化 | 「見せる文化」から「実る文化」へ。実質本位の組織運営を志向する。 |
八、心得まとめ
「目立つ鎧は、脆さを隠す仮面となる」
真に強い者は、飾らない。
誠実な人は、派手さで目立たず、行動と実績で信を得る。
外聞を求めて光れば、信を失い、誠を薄くする。
外記のように「見すかされる者」になるな。
飾る前に、磨け。光るより、効け。
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