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私利より公益、自己より祖先と民

― 聖王・禹に学ぶ、徹底した無私の統治

孔子は、伝説の聖王・**禹(う)**の統治姿勢を、
「間然(かんぜん)する無し」――非の打ちどころがないと最大限に称賛しました。

禹はこういう人でした:

  • 自分の食事は質素にしながらも、先祖や神への供物には心を尽くす
  • 着るものは粗末でも、礼服は美しく整えて、祭祀を重んじる
  • 自宅は簡素にして、公共の用水路(溝洫)整備に全力を注ぐ

つまり、自分のためには贅を尽くさず、民や神への務めには力を惜しまない
この無私と節度こそが、禹をして理想の統治者たらしめた徳の極みである。

孔子は、そうした姿勢を「まったく非難すべきところがない」と繰り返し称えています。

目次

原文

子曰、禹吾無間然矣。菲飲食、而致孝乎鬼神。惡衣服、而致美乎黻冕。卑宮室、而盡力乎溝洫。禹吾無間然矣。

書き下し文

子(し)曰(いわ)く、禹(う)は吾(われ)間然(かんぜん)する無し。
飲食(いんしょく)を菲(うす)くして、孝(こう)を鬼神(きしん)に致(いた)し、
衣服(いふく)を悪(あ)しくして、美(び)を黻冕(ふつべん)に致し、
宮室(きゅうしつ)を卑(ひく)くして、力を溝洫(こうきょく)に尽(つ)くす。
禹は吾、間然する無し。

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「禹は吾間然する無し」
     → 禹について、私は少しの非難もするところがない。
  • 「飲食を菲くして、孝を鬼神に致し」
     → 自らの食事は質素でありながら、祖先や神への供物には誠を尽くした。
  • 「衣服を悪しくして、美を黻冕に致し」
     → 自らの衣服は粗末でも、礼服(国家儀礼に用いる衣装)には美を尽くした。
  • 「宮室を卑くして、力を溝洫に尽くす」
     → 自宅は質素に保ち、その分の力を公共事業(治水や水路整備)に注いだ。
  • 「禹は吾、間然する無し」
     → 禹に関しては本当に批判すべき点がない。

用語解説

  • 禹(う):夏王朝の創始者。治水の功績で名高く、孔子も深く尊敬した聖王。
  • 間然(かんぜん):非難、指摘、欠点をあげること。
  • 菲(うすい):質素な、貧しいという意味。
  • 鬼神(きしん):祖先霊および神々。
  • 黻冕(ふつべん):朝服や礼服。国家儀礼に用いられる荘重な装い。
  • 溝洫(こうきょく):農業灌漑用の水路。古代中国において極めて重要なインフラ整備事業。

全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう言った:

「禹には一切の非難すべき点がない。
自分の食事は質素でありながら、先祖や神には敬意を尽くして供物を捧げ、
自分の服装は簡素でも、国家儀礼の場では美しい礼服で臨み、
住まいは粗末でも、公共の治水事業に全力を注いだ。
禹には、私は何の不満も持たない。」

解釈と現代的意義

この章句は、**「自己を慎み、公益に尽くす統治者の理想」**を孔子が称えたものです。

禹の姿勢は次のように特徴づけられます:

  • 私的生活は質素
  • 公的儀礼は厳格
  • 国家・社会のために全力
  • 真の孝と信仰の実践

つまり、「私欲を抑え、公共・倫理・信仰を優先する」人物像であり、これは孔子の理想とする**“至誠のリーダー”**そのものです。

ビジネスにおける解釈と適用

1. 「自己を控え、他者と組織に尽くすリーダー」

  • リーダーが贅沢をせず、社員・社会に投資する姿勢は、信頼と尊敬を呼ぶ。
  • 役員報酬や経費利用における公私のけじめは、組織文化の中核となる。

2. 「質素でも“本当に大切なもの”には最高を尽くす」

  • 個人の生活や職場環境は合理化しつつ、理念や顧客体験、儀式・信頼の象徴には徹底して投資する。
  • 例えば:社内会議は質素でも、ブランド発信や顧客接点では美意識を貫く。

3. 「公益のために力を尽くす」

  • 禹が“溝洫”に尽くしたように、インフラや見えにくい基盤への投資・整備が、長期的な成果につながる。
  • 特に、組織の“治水”=内部の構造改革や働きやすい環境整備などへの注力が必要。

まとめ

「慎みを己に、誠を公に──禹に学ぶ“徳と務め”のマネジメント」

この章句は、自己犠牲・慎独・公共精神・リーダーの私心なき奉仕を象徴する名言です。

トップマネジメントの倫理研修、経営哲学の策定、組織文化変革プロジェクトなどに非常に適しています。

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