■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、すべての苦しみから脱れる。
――『ダンマパダ』第25節(二五)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:人生をどう生きるか、心をどう使うか、それを決めるのは他人ではなく自己であるという仏教の根幹思想。
- 他人がどうして主であろうか?:他人の支配・評価・制限・期待に振り回される生き方を否定し、自立と自覚を促す。
- 賢者(パンディタ):日々の行動・心の状態・価値判断を正し、自らを観察しながら生きる実践者。
- 身をよくととのえる:倫理・心・言葉・行動を統一し、内的にも外的にも清らかに保たれている状態。
- すべての苦しみから脱れる(sabba-dukkhā pamuccati):仏教における究極の目的。無明・執着・輪廻・煩悩といった根源的苦悩を完全に離れた、涅槃(ニッバーナ)の境地。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この世界において、真に自分を導くのは自分自身である。
他人がその主であることなどあり得ない。
だからこそ、賢者は日々、自らの言葉・行動・心をよく整えることによって、
ついにはあらゆる苦しみを超えた境地に至る。」
この章句は、**「自己統御こそが、完全なる自由と安らぎへの道である」**と、力強く結論づけています。
■ 解釈と現代的意義
この句が現代に与える最も大きな教えは、**「苦しみは外的状況によってではなく、内なる整いによって超えられる」**という実践哲学です。
- 他人のせいにしない
- 社会や運命に任せない
- 被害者意識を超えて、自らの心と行いに責任を持つ
これらがそろって初めて、あらゆる苦しみは内側から終わりを迎えるのです。
逃げるのでも、戦うのでもない。
整えることで、苦しみが苦しみでなくなる。
それが仏教の悟りの智慧です。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
ストレスマネジメント | 外部の出来事を完全にコントロールするのではなく、自分の受け取り方・反応・行動を整えることで心の平安を得る。 |
自律型人材育成 | 苦しみや困難の中でも、自らを律し、乗り越えられる人材が強い組織を作る。 |
マネジメント哲学 | トラブルや対人問題に動じず、内的に整った判断と対応ができる管理職が長期的な信頼を得る。 |
長期的な幸福設計 | 収入や地位に左右されるのではなく、内的整合性によって得られる持続的な充足が本当の幸福を生む。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「整えた者は、苦しみを越える」
他人ではない。
環境でもない。
この苦しみの世を越える道は、
自らを整えるという、一歩一歩の実践の先にこそある。
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