戦略地域内の戦略は、戦略地域の選定方針と同じ原理に基づいている。戦略地域をさらに細かく分割し、それぞれの地域の市場状況を調査したうえで、自陣と競合の戦力やシェアを比較する。そして、競争の激しいエリアを避け、攻略しやすい地域から作戦を展開する。
決定した作戦地域内の流通業者を調査し、提携すべき業者を選び出す。すでに進出済みの地域では、再編成が必要となる場合もある。流通業者を選ぶ際には、一地区一社の完全テリトリー制を採用するか、複数社が競合するオープンテリトリー制を採るかという選択が問われる。
完全テリトリー制の実現は、現実的には難しい。商社や問屋の支店、営業所、さらにはサブ店などが入り乱れている状況では、交通整理を行うのは至難の業だ。これを実行に移せるのは、相当な力を持った企業でなければ不可能と言える。
特に中小企業は、大手商社や問屋を特約店に選ぶ傾向が強い。「天動説」に基づいた発想で動くことが多いためだ。しかし、占有率が高まるにつれて、こうした選択がさまざまな問題を引き起こすことになる。
一つの小売店に対し、東京の特約店の営業所、大阪の特約店の支店、さらには地元の問屋が同時に自社商品を売り込もうと動き出し、その結果生じたトラブルや矛盾が最終的に自社に持ち込まれる、という事態が発生する。
中小企業は、このような煩雑で厄介な問題に常に直面しているのが現実だ。しかし、見方を変えれば、こうした問題の調整に苦労する状況そのものが、業績が向上している証でもある。そう考えれば、ある意味では喜ばしいこととも言える。
こうした問題を別にしても、完全テリトリー制には市場戦略を進めるうえで数多くの弱点が存在する。そもそも商社や問屋といった流通業者は、それぞれ市場に対して独自の偏りや特性を持っているため、一律の方式が必ずしも効果的とは限らない。
商社や問屋には得意とする商品や苦手な商品があり、地元市場に弱い一方で地方市場に強いといった特性を持つ業者もいる。また、デパートを主力とする業者やスーパーを主力とする業者など、特定の流通形態に偏った戦略を取る場合も少なくない。完全テリトリー制を採用すると、こうした業者の弱点がそのまま自社の市場戦略の足かせとなり、展開を妨げる要因となるのだ。
したがって、特約店の選定は、自社の市場戦略の目標を達成するために最適なディーラーを選び出すものでなくてはならない。ただ単に付き合いや規模で決めるのではなく、戦略的な視点で「どのディーラーが目標を実現できるのか」という問いに明確に答えられる基準が必要である。
地方に戦略を展開する場合、一般的にはその地域に強い地場の有力問屋を活用するのが効果的だ。一方で、新たな業界への進出を目指すなら、その業界に精通したディーラーを新たに開拓する必要がある。市場や業界ごとの特性に応じた柔軟な戦略が求められる。
さらに、選定したディーラーが自社の求める販売ルート(蛇口)を十分に持っていない場合、自ら新たな販売ルートを開拓し、それをディーラーに付加するような対応も必要になる。こうした取り組みを進める中で、必然的に複数のディーラーが並存するオープン・テリトリー制に移行せざるを得ない状況が生まれる。
また、オープン・テリトリー制は乱戦や不況時にも強いという特長を持つ。流通業者を選定した後は、その業者が持つ販売ルート(蛇口)に対して、具体的な蛇口作戦を展開していく必要がある。こうすることで、販売網を強化し、より効率的な市場戦略の実現を目指すことが可能になる。
蛇口作戦を展開する際には、十分な巡回が可能な地域に限定することが重要だ(詳細は次章で述べる)。その地域で目標とする占有率が確保できる見通しが立つまでは、新たな地域への進出は控えるべきである。また、新たな地域に進出することで、すでに確保した地域での占有率が低下するような事態は絶対に避けなければならない。戦略の拡大は、既存の成果を犠牲にしない範囲で進めるべきだ。
もし、どうしても占有率が上がらない場合には、その地域での拠点を少数だけ残し、いったん撤収する判断が必要となる。拠点を残しておく理由は、完全に撤退してしまうと、将来的に再びその地域で作戦を展開する際、新規参入と同じような困難に直面するからだ。戦略的撤退は、次の展開への足掛かりを確保するための重要な措置となる。
志とは異なり成果が上がらない地域に執着し続けることは、単に資源を無駄遣いするだけでなく、市場戦略全体に遅れを生じさせる危険性がある。この現実をしっかりと理解し、必要な場合には迅速に撤退を判断することが、長期的な戦略の成功には欠かせない。
戦略地域内の戦略方針を決定し流通業者を選定する
戦略地域内での戦略方針を決定し、流通業者を選定するプロセスは、非常に重要です。この段階では、戦略地域をさらに細分化し、適切な業者を選び、効果的にリソースを配分することで、占有率の増加を図ります。具体的には、以下のようなアプローチが求められます。
1. 戦略地域の細分化と市場調査
戦略地域を選定したら、その地域内をさらに細分化し、市場の状況をしっかりと調査します。市場調査の目的は、地域ごとの競争状況や自社の戦力を把握し、どこに戦略を展開するかを決定することです。例えば、どの地域が競争が激しいのか、またどこに自社の優位性を発揮できるのかを見極めることが必要です。
- 激戦地の回避: 激戦地では、多くの競争者がひしめき合っているため、リソースが分散し、成果が上がりにくいです。自社の力が足りない場合、大消費地に進出するのはリスクが高いです。
- やりやすい地域の選定: 激戦地を避け、競争が少ない地域や、市場が未開拓の地域に焦点を当てることで、少ないリソースでも効果を上げやすくなります。
2. 流通業者の選定
戦略地域内での市場調査が終わったら、その地域における流通業者の選定を行います。流通業者の選定は、自社の市場戦略を効果的に実行するための重要なステップです。選定基準としては、以下のポイントを考慮します。
- 一地区一社の完全テリトリー制 vs オープン・テリトリー制
完全テリトリー制は一社に独占的に市場を任せる方法ですが、これには商社や問屋の偏りや問題が絡むことが多く、特に中小企業にとっては課題があります。逆にオープン・テリトリー制は、複数の業者を使って市場を広げる方法です。この方法の方が柔軟性が高く、問題が発生しにくいです。 - ディーラー選定の基準
地域戦略を進める上で、ディーラーがその地域で強い影響力を持っているか、または特定の業界に特化しているかを評価します。自社が進出したい地域に強い地元業者や特定業界に強みを持つ業者を選定することが重要です。 - 自社での蛇口開拓
もし選定した業者が不足している場合や自社が望む流通経路が確保できない場合は、直接的に自社で新たに「蛇口」を開拓することも考えなければなりません。これにより、業者選定の自由度が増し、効率的な流通戦略を構築できます。
3. 蛇口作戦の展開
流通業者を選定した後は、蛇口作戦を展開します。蛇口作戦とは、販売の第一歩として、特定の小売店や地域に対して重点的にアプローチし、占有率を高める戦略です。
- 地域に限定した作戦
蛇口作戦は、一定の地域内で十分な巡回ができる範囲に絞り、目標占有率を確保することに集中します。新たな地域に進出する前に、既存地域の占有率をまず確実に高めることが基本です。 - リソースの投入に慎重を期す
新たな地域に進出する際に、既存の地域占有率を落とすようなことがあってはなりません。リソースを適切に配分し、確実に成果を上げられる地域に注力します。 - 撤退と再進出の戦略
もし占有率が伸び悩む地域があれば、その地域を完全に撤退するのではなく、拠点を少数残して再進出の機会を見計らうことも一つの戦略です。撤退後に再進出する際には、全く新規の地域と同じような困難に直面しないよう、戦力を調整します。
結論
戦略地域内での戦略方針を決定し流通業者を選定する過程は、市場占有率を高め、効率的な販売網を構築するための重要なステップです。激戦地を避け、やりやすい地域にリソースを集中し、適切な業者を選ぶことが成功の鍵です。さらに、蛇口作戦を実行し、ターゲット市場の占有率を高めることで、確実に市場制覇に近づくことができます。
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