目次
■引用原文(日本語訳)
一つは利得に達する道であり、他の一つは安らぎにいたる道である。
ブッダの弟子である修行僧はこのことわりを知って、栄誉を喜ぶな。孤独の境地にはげめ。
——『ダンマパダ』第5章 第75偈
■逐語訳
- 一つは利得に達する道であり:名声・富・称賛など、外的報酬や世俗的成功を追い求める生き方。
- 他の一つは安らぎにいたる道である:心の静けさ・自由・解脱といった内的平安へ至る修行の道。
- ブッダの弟子である修行僧はこのことわりを知って:仏弟子たる者は、この二つの道の分岐と意味を正しく理解し、
- 栄誉を喜ぶな。孤独の境地にはげめ:人からの賞賛や地位を喜びとせず、独り静かに修行に打ち込むことを選べ。
■用語解説
- 利得(ラーーバ):物質的利益、名声、地位、評価、報酬など。
- 安らぎ(サンティ/ニッバーナ):煩悩からの解放による心の静けさ、涅槃(ニルヴァーナ)。
- 栄誉(ヤーサ):人からの賞賛・高評価・表彰など。仏教ではしばしば“執着の対象”とされる。
- 孤独の境地(ヴィヴェーカ):世俗から距離を置き、内観・静寂・省察に没頭する精神的状態。
- はげめ(ヴィハラティ):努力する、修練に励む、専念するという意味。
■全体の現代語訳(まとめ)
この世には二つの道がある。
ひとつは、利益や名誉といった世俗的成功を追い求める道。
もうひとつは、内なる安らぎ、真理、解脱へと至る静かな道。
仏陀の弟子である修行者は、この二つの道が交わらないことを理解し、
外的な栄誉を喜びとせず、むしろ一人静かに修行に励むべきである。
■解釈と現代的意義
この偈は、仏教の本質を見事に言い表しています。
**「利得を追うか、安らぎを求めるか」**という選択は、
仏教だけでなく現代人の生き方にも問われる問題です。
賞賛・承認・成果を求める生き方は、一見すると活力と達成感に満ちていますが、
実際には絶えず外部に依存し、比較と競争によって心は乱されていきます。
一方で、内面的な静けさや自足を追求する道は、目立たず、孤独で、しかし深い自由を与えてくれるのです。
この偈は、仏弟子に限らず、「どの道を歩むか」を選ぶすべての人への根源的な問いかけでもあります。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
キャリア選択 | 昇進・報酬・地位を追うか、やりがいや心の平安を選ぶか。目標設定における「軸」を明確にすべき。 |
組織文化 | 成果主義に偏れば、心の安定は損なわれる。静けさと誠実さを大切にする文化は、長期的に持続性をもつ。 |
リーダーシップ | 自分の栄誉を追わず、チームの成長と平和に心を砕くリーダーこそ、本当に尊敬される。 |
働き方 | 表彰や報酬に依存せず、自己充実や成長の内面的価値にフォーカスした働き方が、ストレス耐性と創造性を高める。 |
■心得まとめ
「静けさは、栄誉よりも豊かな報いをもたらす」
名声や報酬に心を奪われれば、決して本当の安らぎには至れない。
仏弟子であろうとビジネスパーソンであろうと、
真に求めるべきものは“心の静けさ”と“内なる誠実さ”である。
選ぶべきは、見られる道ではなく、自らを磨く道である。
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