「先生、うちの管理職に、私の指示をあれこれ理由をつけてはぐらかし、きちんと実行しようとしない者がいるんですが、どんなふうに叱るのが効果的でしょうか?」とM社長が尋ねてきた。
「これまで、どんな叱り方をしてきたんですか?」と尋ねると、「人前で叱るのはよくないと聞いているので、それは避けてきました。ただ、それだと自分の気持ちがどうにもスッキリしなくて」との答えが返ってきた。一般的な管理者向けの研修では、「部下を人前で叱るのは避けるべき」という教えが広く浸透している。
その例としてよく挙げられるのが、清水次郎長の話だ。「次郎長は子分を決して人前で叱らなかった。そのおかげで、子分たちを見事に統率し、深く慕われた」といったエピソードが語られることが多い。
まさに「クソもミソもいっしょ」とはこのことだ。ヤクザという組織には「鉄の掟」が存在し、その掟を破れば容赦ない制裁が下される。この厳しい制裁こそが、ヤクザの組織を維持する力になっているのだ。
どんな組織であれ、機能を発揮し円滑に運営するためには、「きまり」が存在する。つまり、組織を成り立たせるためには明確な「ルール」が欠かせないということだ。
「憲法」「法律」「条例」などは国家や社会を規律するためのものであり、政党には「党則」、軍隊には「軍律」が存在する。学校では「校則」、会社では「社則」「就業規則」「賃金規定」などが定められている。さらに、さまざまな団体には必ず「会則」があり、ヤクザの世界には「掟」がある。どんな組織であっても、ルールなしには成り立たないのだ。
これらが守られなければ、「罰則」が課される。その罰則がなければ組織の秩序は崩れ去ることは明白だ。したがって、これらの「ルール」は厳守されるべきものであり、組織に属する者はそのルールを遵守する責任と義務を負う。
会社という組織は、「経済活動」という他の組織にはない独自の活動を担っている。自由経済の中でそれを行う以上、「競争原理」という冷徹な仕組みが働き、立ち止まったり怠けたりすれば、あっという間に淘汰される運命にある。
生き残るためには、単なる社則や規定にとどまらず、会社の進むべき方向を示す「方針」、活動の指針となる「計画」、そして状況の変化に柔軟に対応するための機動力と弾力性を備えたさまざまな「施策」や「指令」が次々と打ち出される必要がある。それらが実行に移されないままでは、会社が倒れるのは火を見るよりも明らかだ。
だからこそ、それらは必ず実行に移されなければならない。たとえ責任者が「この施策は誤りだ」と判断したとしても、それを理由に実行を放棄することは決して許されない。
指令が間違っていると実施責任者が判断した場合、意見を申し述べることは差し支えないし、むしろ行うべきだ。しかし、その意見が受け入れられなかった場合でも、指令の実施は避けられない。どうしても実施に納得できないのであれば、その役職を辞するか、会社を去る以外に道はない。
実施責任者が、自ら間違っていると判断した施策や指令であっても、それを実行しなければならない理由は、単なる組織運営上の問題にとどまらない。もう一つ重要な理由が存在する。それは次のような点にある。
仮にその施策が誤っていたとしても、忠実に実行されれば、その結果もまた誤ったものになるのは避けられない。しかし、この過程を通じて「その施策は間違っていた」という事実が明確になる。これによって、誤りを修正するための手が打たれることになるのだ。
施策を忠実に実行しない場合、結果が曖昧になり、施策の誤りを特定できなくなる危険性が生じる。したがって、その施策が正しいか誤っているかにかかわらず、忠実に実行することが何よりも重要だと言える。
社長という立場にある者は、この理を深く理解しているだけでなく、それを重役や社員に対して繰り返し説き聞かせることを常に怠ってはならない。
さらに、重役であろうと社員であろうと、この理を守らない者がいれば、必ず人前で叱る必要がある。それは、社長自身が「一度打ち出した指令は必ず守らせる」という覚悟を周囲に示すためだ。このようにすれば、人々は「社長の指令を実行しなければ叱責を受ける」と自らに言い聞かせるようになる。
指令を守らない不心得者を人目につかない場所に呼び出して叱った場合、本人の面子は保たれるかもしれない。しかし、それは会社全体にとって大きな過ちとなる。組織内での規律や責任感が薄れ、秩序を損なう結果を招きかねないからだ。
その理由は明白だ。その人が社長の指令や規定を守らなかった事実は、既に多くの人々に知られているからだ。それを人目につかないところで叱った場合、周囲の人々はどう感じるだろうか。「社長は、自ら出した指令を守らない者がいても何も言わない」と思われてしまう。これでは、組織全体に対して「示し」がつかず、規律が損なわれることになる。
もしこのような状況が長期間続けば、人々は指令や規則を真剣に守る意識を失い、会社の運営そのものが立ち行かなくなるだろう。その結果、最悪の場合は倒産という結末に至る可能性もある。それを回避できればまだ幸運と言えるが、組織としての存続は危機に瀕することになる。
叱られる人の面子を気にしていたら、組織全体に深刻な影響を及ぼしかねない。だからこそ、「社長の指令を守らなければ人前で叱る」という方針を日頃から明確に伝えておく必要がある。ただし、人前で叱ってはならないのは、「個人的なこと」に関する場合であり、それを混同してはならない。
世間で語られる多くの人間関係論は、この点を全く理解しておらず、「人前で叱るな」という主張を振りかざして、個人の感情や面子を事業経営よりも優先するという、重大な誤りを犯しているのだ。
事業経営を理解していない人間関係論を会社に持ち込むべきではない。真の人間関係とは、正しい経営を貫けば自然に築かれるものであり、その正しい事業経営とは「ワンマン経営」を徹底することに他ならない。
方針・指令・規則違反への対応
- 社長の指令は必ず守らせるべきもの
社長が方針や指令を出す場合、それは会社の運営に必要不可欠なものであり、社員には徹底して実行する義務がある。方針や指令が実施されなければ会社の基盤が揺らぐ可能性があり、事業の成功を阻害することになる。 - 規則違反や指令無視への対処
社長が指令を出した後に、それを実行しない者がいる場合、人前で叱るべきである。これは、個人のメンツよりも、会社全体への影響を重視するからである。人前で叱ることで、他の社員にも「指令を守らなければ叱られる」という共通認識が生まれ、組織全体の規律が保たれる。 - 人前で叱ることで会社の示しをつける
指令を守らない者を非公開で叱ると、「社長は指令を守らない者を黙認している」という誤解が生まれる。このような認識が広まると、他の社員も方針や規則を守らなくなり、会社の統制が失われる可能性がある。 - 正しいタイミングと場面での叱責
人前で叱るべきは、組織や経営に関わる問題に限る。個人的なミスや性格に基づく問題については人前で叱る必要はなく、プライベートな場で行うべきである。これは、個人的なことと会社の運営上の規律を区別し、適切に管理するためである。 - 経営は「ワンマン経営」で貫く
社長の指令を実行するためには、「ワンマン経営」に徹することが求められる。正しい方針を明確にし、全員がそれに従う組織をつくることで、正しい経営を実現し、社員との健全な人間関係も生まれてくる。
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