真に学を好む者――その名は顔回
魯の大夫・季康子(きこうし)が孔子にたずねた。
「あなたの弟子の中で、誰が最も学問を好みましたか?」
孔子は、やや寂しげにこう答えた。
「顔回(がんかい)という者がいて、学を心から愛しておりました。ですが、残念ながら若くして亡くなってしまいました。今はもうこの世におりません」
孔子の数ある弟子の中でも、顔回の学問への姿勢はとりわけ高く評価されていた。
学びを楽しみ、問いを繰り返さずとも師の意を深く汲み取るその姿は、まさに理想の弟子だった。
その顔回が若くしてこの世を去ったことを、孔子は繰り返し惜しんで語る。
「好学(こうがく)」――学を好むことは、儒の理想。しかしその理想を体現した者が、早くに世を去った無念が、言葉の少なさに滲む。
引用(ふりがな付き)
季康子(きこうし)問(と)う、「弟子(でし)、孰(たれ)か学(がく)を好(この)むと為(な)す」
孔子(こうし)対(こた)えて曰(い)わく、
「顔回(がんかい)なる者有(あ)りて、学(まな)びを好(この)む。
不幸(ふこう)、短命(たんめい)にして死(し)せり。今(いま)や則(すなわ)ち亡(な)し」
注釈
- 季康子(きこうし):魯の有力な大夫。政治に関与し、孔子とも接点を持った人物。
- 顔回(がんかい):孔子が最も愛した弟子。徳行・理解力・謙虚さに優れ、「学を好む者」の典型とされた。
- 好学(こうがく):単に学ぶことを行うのではなく、心から楽しみ愛すること。
- 今や則ち亡し:「今はもういない」の意。深い惜別と哀しみがにじむ表現。
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