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学を愛した者、早逝にして今はなし

真に学を好む者――その名は顔回

魯の大夫・季康子(きこうし)が孔子にたずねた。
「あなたの弟子の中で、誰が最も学問を好みましたか?」

孔子は、やや寂しげにこう答えた。
「顔回(がんかい)という者がいて、学を心から愛しておりました。ですが、残念ながら若くして亡くなってしまいました。今はもうこの世におりません」

孔子の数ある弟子の中でも、顔回の学問への姿勢はとりわけ高く評価されていた。
学びを楽しみ、問いを繰り返さずとも師の意を深く汲み取るその姿は、まさに理想の弟子だった。

その顔回が若くしてこの世を去ったことを、孔子は繰り返し惜しんで語る。
「好学(こうがく)」――学を好むことは、儒の理想。しかしその理想を体現した者が、早くに世を去った無念が、言葉の少なさに滲む。


引用(ふりがな付き)

季康子(きこうし)問(と)う、「弟子(でし)、孰(たれ)か学(がく)を好(この)むと為(な)す」
孔子(こうし)対(こた)えて曰(い)わく、
「顔回(がんかい)なる者有(あ)りて、学(まな)びを好(この)む。
不幸(ふこう)、短命(たんめい)にして死(し)せり。今(いま)や則(すなわ)ち亡(な)し」


注釈

  • 季康子(きこうし):魯の有力な大夫。政治に関与し、孔子とも接点を持った人物。
  • 顔回(がんかい):孔子が最も愛した弟子。徳行・理解力・謙虚さに優れ、「学を好む者」の典型とされた。
  • 好学(こうがく):単に学ぶことを行うのではなく、心から楽しみ愛すること。
  • 今や則ち亡し:「今はもういない」の意。深い惜別と哀しみがにじむ表現。

1. 原文

季康子問、弟子孰爲好學。孔子對曰、有顏回者、好學。不幸短命死矣。今也則亡。


2. 書き下し文

季康子(きこうし)問(と)う、弟子(ていし)孰(たれ)か学(がく)を好(この)むと為(な)す。孔子(こうし)対(こた)えて曰(いわ)く、顔回(がんかい)なる者有(あ)りて学を好めり。不幸(ふこう)、短命(たんめい)にして死(し)せり。今(いま)や則(すなわ)ち亡(な)し。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「季康子問う、弟子孰か学を好むと為す」
     → 季康子が尋ねた。「弟子の中で、誰が最も学問好きだったと思われますか?」
  • 「孔子対えて曰く、有り、顔回なる者、学を好む」
     → 孔子は答えて言った。「かつて顔回という者がいて、彼は学ぶことを心から好んでいた。」
  • 「不幸、短命にして死せり」
     → 「だが不幸にも、彼は短命で亡くなってしまった。」
  • 「今や則ち亡し」
     → 「いまはもう、そのような人物はいない。」

4. 用語解説

  • 季康子(きこうし):魯(ろ)の国の重臣で、孔子に政治や教育について度々意見を求めた人物。
  • 孰(たれ)か~為す:誰が~と見なされるか、の意。「~する者は誰か」。
  • 好学(こうがく):学ぶことを心から楽しみ、努力を惜しまない態度。
  • 顔回(がんかい):孔子が最も愛し、最も徳と学問に優れていたと語る高弟。貧しくも真摯で、わずか30代で早世したとされる。
  • 亡し(なし):今はもう存在しない、という意。ここでは「顔回のような学を愛する者はいまはもういない」という嘆き。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

魯の国の重臣・季康子が尋ねた。
「孔子先生の弟子たちの中で、最も学問を愛したのは誰ですか?」

孔子はこう答えた。
「かつて顔回という弟子がいて、まことに学問を愛していた。だが不幸にも、若くして亡くなってしまった。今では、そのような者はいなくなってしまった。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「学を愛すること」こそが人間にとって最高の徳であり、それを体現していた顔回の喪失を孔子が深く嘆いている場面です。

孔子は決して「知識量」や「技巧」だけを評価していません。ここで言う「好学」とは、人格を磨くために、謙虚に、誠実に学び続ける姿勢を指しています。

顔回は貧しさの中でも不平を言わず、実直に道を求め続けた弟子でした。そのような真の「学びの人」がいなくなったことに、孔子は深い喪失感を覚えていたのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

❶「“学びを愛する人”こそ、組織の宝」

– 学びとは、単なるスキル取得ではなく、姿勢・人格・信念を含んだもの。顔回のように学びを“生き方”として体現する人は、企業文化の中核となる。

❷「好学の精神は、“結果”より“変化を楽しむ過程”にある」

– 顔回は、報酬や地位を求めず、学ぶこと自体に喜びを見出していた。それは、現代においても自己成長・探究型リーダーに通じる姿勢。

❸「人材育成とは、“学びの姿勢”を継承する営み」

– 孔子が語るように、“本当に学ぶ者”は希少であり、貴重な存在。組織は、顔回のような存在を育て、支え、継承させる文化を築くべき。


8. ビジネス用心得タイトル

「真の学び手を失うな──“好学の精神”が文化を支える」


この章句は、学ぶという行為が人間性の完成に不可欠であること、そしてそれを実践する者の貴重さを、孔子が切実に語ったものです。

「知識があるから優れている」のではなく、「学びを愛するから高貴である」──
そんな価値観が、現代のリーダー育成や企業文化に新たな視点を与えてくれるはずです。

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