どの企業でもセールスマンに対して過剰な期待を抱き、過重な責任を課すことが多い。その結果、こうした期待が満たされることはほとんどないのが現実だ。それは当然のことだ。
社長が理想とするセールスマンなんて、社内には存在しない。仮にそんな人物がいるなら、即座に大抜擢して専務にでも据えるべきだ。そうしなければ、遅かれ早かれその人物は会社を辞めて独立し、いずれ自社の競争相手として立ちはだかることになるだろう。
社長は、セールスマンに過剰な期待や重責を押し付けるのをまずやめるべきだ。販売の成果はセールスマン個人の能力や努力だけでなく、何より自らの立てた販売戦略によって決まるものだという認識を持たなければならない。
これは、セールスマンが重要でないという話ではない。むしろ、彼らの能力や努力が販売成果に大きな影響を与えるのは間違いない。ただ言いたいのは、セールスマンの力にだけ頼り、自分自身は販売に対する努力を怠るのは根本的に誤りだということだ。
セールスマンの能力と努力を最大限に引き出し、本当に活かす鍵は社長の販売戦略にある。だからこそ、社長は自分の戦略に従い、一体となって動けるセールスマンを育て上げる必要がある。そのためには、どのような教育を施すべきだろうか。
世の中にはセールスマンを対象とした教育プログラムが数多く存在する。しかし、その大半はセールスマン個人の販売スキルや商談テクニックを磨くことに偏っており、その内容は極めて浅い次元にとどまっている。コミッション制のセールスにはこれで十分かもしれないが、販売戦略を実行し推進していくには、これでは全く物足りない。
最初に教育すべきは、セールスマンの立場と役割についての基本的な認識だ。それは、以下のような点を理解させることを意味している。
「事業の経営とは、企業間競争、すなわち同業他社との『戦い』である。この戦いの勝敗は、商品力と販売力によって決まる。そして、戦いである以上、そこには必ず『戦略』が存在する。その戦略の最終目標は『市場占有率の確保』だ。この目標を達成するために、会社は市場からさまざまな情報を収集・分析し、それをもとに『作戦計画』を立てる必要がある。」
その作戦計画を実際に実行する最前線がセールスマンだ。したがって、セールスマンは作戦計画に基づいて行動しなければならない。それを無視しての抜け駆けや独断的な行動は許されない。当然のことながら、一糸乱れぬ連携が求められる。
もしセールスマンが抜け駆けや独断的な行動をとれば、作戦計画の遂行は崩れ、組織は「烏合の衆」と化してしまう。そうなれば、競争という戦いに敗北するのは避けられない。セールスマンが自らの能力を発揮するにしても、それは常に会社の市場戦略に沿って行われなければならない。組織としての統一性がなければ、個々の努力も無意味に終わる。
市場戦略を遂行する上で、セールスマンに求められる最大の役割は得意先訪問だ。これこそが戦略実行の核心となる。そして、会社が定めた訪問計画を忠実に実行することが、セールスマンに課された最も重要な使命である。計画に沿った行動こそが、組織全体の戦略を成功に導く鍵となる。
「決して電話受注で済ませるような安易な行動をとってはならない。」――この原則を守り、上司の目が届かない場所でも忠実に行動するセールスマンを育てるには、以前述べた「セールスマンの適格者」としての条件を再確認する必要がある。この基本認識を基盤として、セールスマンに求められる心得や行動規範をしっかりと教え込むことが教育の核となる。
「セールスマンとして最も重要なのは、お得意先に可愛がられる存在になることだ」という点を徹底的に理解させる必要がある。そのためには、まずエチケットや服装の重要性を教えた上で、以下の基本的な心得を叩き込まなければならない:
- イデオロギー、宗教、ひいきには一切触れないこと。
個人的な価値観や立場を持ち込むことは禁物。 - 言い訳を絶対にしないこと。
責任を回避しようとする態度は信用を損なう。 - 反論や議論を避けること。
お得意先との関係を壊しかねない行為は厳禁。 - 「教えてあげましょう」という上から目線を取らないこと。
謙虚な姿勢を保つことが信頼を築く基本。 - 相手の手落ちを責めないこと。
ミスを指摘するのではなく、建設的な解決を心がける。 - 相手との約束を必ず守ること。
信頼は小さな約束の積み重ねで築かれる。
これらの心得を身につけることが、セールスマンとして信頼され、支持されるための第一歩となる。
これらの心得に反する行動をとれば、お得意先を怒らせてしまう。それは多くのセールスマンが陥りやすい典型的な誤りでもある。なぜ相手が怒るのかは、自分が同じような態度を取られた場合を想像すれば容易に理解できるはずだ。
しかしながら、このような基本的な心得を徹底的に教え込んでいる企業は意外と少ない。しゃれたセールス・テクニックを教える教育プログラムも重要かもしれないが、こうした基本をおろそかにしてしまっては、いかに優れたセールス・テクニックであっても効果を発揮することはない。基本がしっかりしていて初めて、技術や戦略が生きてくるのである。
私の考えでは、お客様に可愛がられることさえできれば、セールス・テクニックの巧拙などはほとんど問題にならない。人間関係の土台がしっかり築かれていれば、多少の技術的な不足は十分に補えるものだ。それが、セールスの本質である。
営業活動における具体的な心得として、以下の点を徹底する必要がある:
- 商品に関する質問への対応
質問があれば、必ずパンフレット、チラシ、商品説明書などの公式資料を提示し、それに基づいて説明する。もし資料に記載のない内容について尋ねられた場合は、質問の要点を必ずメモし、復唱して確認したうえで、後日正式な回答を約束する。 - 相手の要望やクレームの報告
特にクレームについては、必ず会社に報告し、適切な対応を図る。 - 同業他社の情報収集と報告
同業他社の動向、特に得意先を訪問する競合他社の担当者や訪問頻度などに注意を払い、詳細を報告する。
これらの報告事項については、所定のフォーマットを使用して正確に記録・提出することが求められる。細部にわたる確実な情報共有が、営業活動の質を高める鍵となる。
上記のような最も基本的な事項を徹底的に教育すれば、それ以上の細かな指導はほとんど必要ない。特に、中途半端な商品知識を教えるような教育はむしろ避けるべきだ。その理由は、すでに述べた通りである。基礎がしっかりしていれば、セールスマンは状況に応じて柔軟に対応できるし、不要な知識を詰め込むことはかえって混乱を招きかねない。基本を守りつつ、実践を通じて成長させる方が効果的である。
セールスマン教育の要点をまとめると、最も重要なのは、教育の焦点を自社の販売戦略や市場戦略に合わせることである。この方向性を見失った教育は、セールスマンの行動を戦略から逸脱させ、かえって組織全体にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。この点を十分に認識し、教育方針を一貫させることが求められる。
セールスマン教育で重視すべきは、彼らに販売戦略を意識させ、自社の市場戦略に沿って行動できるようにすることです。以下は効果的なセールスマン教育のポイントです。
1. 現実的な期待を持つ
- 社長はセールスマンに過大な期待をかけることを避け、自らの戦略を通して成果を導くことを意識すべきです。セールスマンの成績は、彼らの個人的な能力よりも、販売戦略の一貫性によって左右されるため、全社的なサポートと指導が欠かせません。
2. 基本認識の教育
- セールスマンには、まず以下の基本的な立場と役割を理解させるべきです:
- 「市場戦略を遂行する一環として顧客を訪問する」
- 「占有率確保を目指し、計画的な訪問を忠実に行う」
- 「電話での対応で済まさず、訪問で関係を築く」
3. 基本的な心得の徹底
- 顧客に可愛がられるための心得として、以下の点を強調します:
- イデオロギーや宗教などデリケートな話題には触れない。
- 言葉遣いや態度を丁寧にし、教える・反論する姿勢を避ける。
- 約束や対応には責任を持ち、確実に守る。
4. 営業活動の心得
- 商品説明や顧客の要望への対応方法も明確に教えます:
- 商品説明はパンフレットやチラシを用い、公式な情報を提供する。
- クレームや要望、同業他社の動向は必ず報告する。
5. 過度な商品知識教育は避ける
- セールスマンが商品知識を使いすぎると、顧客に押しつける形になりやすく、警戒される恐れがあります。商品知識は基本だけを教え、説明は会社の資料や後日対応で補完することを推奨します。
6. 販売戦略・市場戦略への理解を促す
- 教育の目的は、セールスマンに自社の販売戦略と市場戦略の意図を深く理解させ、その通りに行動させることです。セールスマン個々の自由な判断やテクニックの習得に頼る教育ではなく、あくまで戦略的な行動ができるよう指導します。
こうした教育を通して、セールスマンは社内の方針を理解し、市場での計画的な行動を確実に遂行するようになり、成果の安定した向上が見込まれます。
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