販売戦略において言及した販売促進や市場戦略のためのコストを指す。販売促進費において最も重要なのは、「費用を可能な限り抑えるべき」という発想を持つべきではないという点だ。軽率にこの費用を削減すると、直ちに売上の減少を招くリスクが生じる。
販売とは、他社との競争そのものである。その競争に必要なコストを削減すれば、たちまち敗北を喫し、市場占有率を失うだけでなく、会社そのものを危機に陥れることになる。したがって、販売促進費は会社の事情が許す範囲内で、場合によっては資金繰りの制約を考慮しつつも、最優先で最大限(実際には必要性から見た最小限)の予算を確保する必要がある。あとは、その費用をいかに効果的に使うかを工夫するだけだ。
最も重要なのは、何よりもセールスマンの増員だ。「生産性」の項で述べたように、セールスマン一人当たりの売上高に対する明確な基準を設定し、その基準に基づいて最優先で人員を確保する必要がある。
次に重要なのは、定期巡回費だ。社長をはじめとする定期巡回は、戦略的勝利を目的とするものである以上、作戦地域において競合他社を上回る訪問回数を、何があっても確保しなければならない。それが困難であれば、作戦地域を縮小してでも巡回回数を優先的に確保することが求められる。
次に挙げるのは配送費と在庫費だ。これについては、すでに「生産性」の項で述べた内容と重なる部分が多い。
交際接待費も、販売促進費の中で重要な位置を占める。接待する相手の会社や役職に応じた明確な基準を設け、それに従って管理することで、無駄を防ぎつつ効果的な活用が可能となる。
特に使い方を誤りやすいのが広告宣伝費だ。この費用は、しばしば無計画に使われる傾向があり、決して大げさではなく「見境なく投入されている」と言っても過言ではない。そして、投入した金額の多さに安心感を覚えてしまうという大きな落とし穴がある。正しい運用については「販売戦略篇」を参考にし、的確な活用を心掛ける必要がある。
一方で、情報収集費の使い方は極端に抑えられがちだ。これも重大な誤りと言える。優れた業績を達成するには情報が不可欠であるにもかかわらず、その重要性が過小評価されているのが現状だ。ただし、外部の市場調査業者を安易に利用するのも注意が必要だ。玉石混淆であるため、信頼できる業者を見極めて選ぶ努力を怠ってはならない。
注意すべき点は、外部の調査機関に依頼しただけで満足してしまうことだ。情報収集は、あくまでも自社の努力を主体とすべきものであり、外部に依存するだけでは十分とは言えない。
市場実験費(詳細は「販売戦略篇」を参照のこと)は、非常に効率の良い投資である。わずかな金額で、極めて信頼性の高い情報を得られるからだ。それにもかかわらず、市場実験が十分に活用されていない現状がある。その理由としては、市場実験があまり行われていない理由の一つは、市場実験の重要性への認識が浅いことだ。もう一つは、「我が社で開発した商品は必ず売れる」といういわゆる天動説的な思い込みに起因している。一刻も早く収益を得たいという気持ちは理解できるが、焦りは失敗を招くということを忘れてはならない。「新商品は必ず市場実験を行う」とあらかじめルールとして定めておくことが何よりも重要だ。
市場実験費に続いて重要なのが「販売初期費用」だ。商品は発売初期において、販売費用が収益を上回るのが通常である。これは避けられない現実であり、この期間を耐え忍ばなければ、成長するはずの商品も十分に育たない。言い換えれば、初期費用は「育児費」とも言える存在だ。将来的に投下した費用を超える収益が見込めるという前提のもと、積極的に投入することが求められる。
以上、販売促進費について概観してきたが、これらの費用はすべて「増分」で捉えるべきであることを強調しておきたい。(「増分」についての詳細は後述する)この視点がなければ、適切な費用配分や効果測定を行うことは難しい。
配送費に関して、運転手の人件費や車両の費用を時間割りや走行距離に基づいて割り当てるような計算を行うべきではない。そのような割掛け方法は、正確な費用配分を妨げ、実際のコスト構造を見誤る原因となる。
在庫費用とは、増加した在庫に伴う追加費用を指す。その主な内容は、金利負担の増加や在庫損耗の増加である。さらに、新たに倉庫を借りる必要が生じた場合には、その賃料も在庫費用に含まれる。
市場実験費においては、これを担当する人の人件費を新たに雇用した場合にのみ費用として計上すべきである。それ以外の既存の人員の人件費を市場実験費として算入するのは適切ではない。
販売促進費は、競争の中で自社の優位性を維持し、売上げを伸ばすために欠かせない重要な経費です。単に費用を減らせば良いという考え方は成り立たず、むしろ企業が可能な限り、適切かつ有効な使い方を工夫して最大限に配分するべき費用です。
販売促進費の主な使い方とポイント
- セールスマンの増員
- セールスマン一人当りの売上基準を明確に設定し、それに基づいて増員の判断を行うことが重要です。現場での営業活動が売上に直結するため、セールスマンへの投資は優先的に配分されるべきです。
- 定期巡回費
- 定期巡回は、特定の市場で競合に勝つための重要な活動です。巡回数が競合を上回るように戦略的に配置し、特定の市場での優位性を確保します。巡回範囲は無理なく巡回数を確保できる範囲に絞ることも必要です。
- 配送費・在庫費
- 配送と在庫管理のための費用も適切に計画する必要があります。配送頻度や在庫量の調整は売上に直接関わるため、必要に応じて増分を考慮した柔軟な調整が求められます。
- 交際接待費
- 接待費用は、対象の会社や役職に応じて基準を設けることで、無駄な支出を防ぎ、戦略的に活用します。特に有力顧客や重要なビジネスパートナーとの関係構築には有効です。
- 広告宣伝費
- 広告宣伝は、注意深く戦略的に配分し、無駄遣いを避けることが肝要です。費用の投入量だけでなく、ターゲットに合った広告手段を選択し、広告効果を測定しながら最適化します。
- 情報収集費
- 優れた販売促進のためには、質の高い市場情報が欠かせません。外部調査機関の利用も検討しつつ、自社のリサーチも強化することで、信頼できる情報を取得します。情報収集を単なる費用ではなく、投資と捉えることがポイントです。
- 市場実験費
- 新商品を導入する際には、少額の市場実験費で効果的に市場反応を確認することができます。市場実験を行わず即座に投入すると、予測外のリスクを招く恐れがあるため、確実な市場検証を行うことが重要です。
- 販売初期費用
- 新商品の立ち上げには、初期投資が必要です。この時期の支出は回収までに時間を要することを理解し、育児費と捉えてじっくりと育てる意識を持つことが大切です。
販売促進費の増分での考え方
販売促進費を評価する際には「増分」で考えるのが適切です。これは、既存のリソースに加えて新たに追加する費用部分に焦点を当てるという考え方で、以下のように具体化できます。
- 配送費は、増加分の走行距離や頻度に伴う燃料費などの増加分のみを考慮します。
- 在庫費は、新たに発生する金利負担や追加倉庫の賃料のみを対象とします。
- 市場実験費についても、既存の人件費を除き、新規にかかる費用のみを測定することで、無駄を抑えます。
販売促進費の賢明な管理によって、企業の競争力と市場占有率を高め、健全な成長を支えることが可能です。
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