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販売会社はやたらに作るな

一倉さん、うちの会社では製造会社と販売会社の両方を運営しているが、いつもどちらかが利益を出して、もう片方が業績不振になる。この状況をなんとかするために、期末が近づくと販売会社への売渡価格をいじって調整しているが、これが最適なのか悩んでいる。M社長の問いは「うまい価格設定法はないか?」というものだが、そんな都合のいい方法が存在するとは思えない。

社長という種族は、販売会社を作るのがことのほか好きらしい。何かにつけて「販売会社を作る」と口にするが、その狙いは一体何なのか。一つは、製造から切り離して販売業務に専念させるため。そしてもう一つは、分離することでそれぞれの経営効率を可視化し、責任の所在を明確にしたいという意図があるようだ。

もう一つ、全く別の目的が隠れている。それは、二つの会社の決算期を意図的にずらし、その間で売買を調整するシーソーゲームを利用した「利益の隠匿」だ。

こうした理由で販売会社を設立している企業をこれまで数多く見てきたが、成功例はほとんどないと言っていい。それどころか、弊害ばかりが目につく。販売会社を分離すれば、事務作業が増え、手続きが煩雑になり、その結果、人員を増やさざるを得なくなる。その影響で、たちまち経費が膨れ上がるのだ。

厄介なのは価格設定だ。この問題は、製造会社と販売会社の間に「忌否宣言権」(他社より高ければ買わない、安ければ売らないという相互拒否権)でも持たせない限り、まともな価格設定は実現しない。そうでなければ、価格は常に一方の都合に引きずられ、不公平で非効率な結果に陥るだけだ。

しかし、そんな拒否権を持たせるわけにはいかない。販売会社は自社の商品を売るために存在するのだからだ。一時的には妥当と思える価格設定も、状況が変われば片方が有利になり、もう片方が不利になる。不利な立場に置かれた会社の利益は当然ながら減少し、バランスが崩れるのは避けられない。

利益の減少が不適切な価格設定によるものであれば、当事者はその状況を納得できず、責任感も希薄になる。結果として、価格に対する批判ばかりが飛び交い、モチベーションは次第に低下していく。不利な価格の中でどれだけ努力を重ねても、報われない状況ではやりがいを感じることなど到底できないからだ。

ある会社では、業績不振を隠すため、販売会社に高価格で製品を売りつけ、その赤字を販売会社に押し付けることで、本体である製造会社の信用を保とうとしていた。しかし、この方法は「角を矯めて牛を殺す」愚策に他ならない。販売会社はやる気を失い、製造会社では実際の危機の深刻さが見えなくなり、逆に安易な安心感に浸るという最悪の循環が生まれていたのだ。

販売会社が高値で商品を買わされれば、当然やる気を失う。一方で、安く仕入れることができた場合は、今度は安値販売に走るリスクが出てくる。安値販売は販売促進に効果的で、売上増加は社長から最も強く求められる目標だ。しかし、これが進むと販売態度は次第に安易になり、安値競争の中で収益性がどんどん低下していく結果となる。

販売会社を分離するもう一つの目的である経営効率の測定も、両社の間で妥当な価格による売買が成立しなければ意味をなさない。しかし、現実にはその妥当な価格設定が不可能なため、結果として個々の会社の経営効率を正確に測定することなどできない。理想だけを掲げても実際には成り立たない仕組みなのだ。

同じ理由で、両社の責任を明確化することも不可能だ。それ以前に、社員や部門に業績責任を押し付ける発想そのものが、社長としての誤った態度だと言わざるを得ない。この点については、「経営計画篇」の部門別目標設定の項目で既に述べた通りだ。責任を分割するのではなく、全体の統一的な成果をどう出すかが本来の課題である。

そして何より、「利益隠し」などは論外だ。税務署はそんな手口を百も承知であり、いざマークされれば厳しい調査を免れることはできない。相手は税務のプロフェッショナルだ。そんな相手に勝とうとするのは無謀であり、勝負の結果は最初から明白だ。無駄なリスクを冒して企業の信用を失うだけである。

問題なのは、「利益を隠そうとする」その態度そのものだ。社長が利益隠しに労力を注ぎ、仮に多少なりともその「成果(?)」が上がったとしても、それが逆に甘い味となり、さらに隠蔽行為にのめり込む危険がある。結果として、事業経営に対する本来あるべき姿勢が歪められ、健全な成長や発展が二の次になってしまう。それこそが、最も深刻な弊害だと言いたいのだ。

以上述べたように、不用意な販売会社の設立は、百害あって一利なしと言っても過言ではない。見栄えの良い販売会社の設立に心を奪われるのではなく、製造と販売は一体であるという本質を理解するべきだ。正しい経営姿勢に基づき、健全で正しい販売を追求することこそが、事業を成功に導く唯一の道である。この基本を見失ってはならない。

M社長のように、製造会社と販売会社を分けることには注意が必要です。以下に、販売会社の設立に伴う一般的な問題点とその考察をまとめます。

1. 事務負担とコスト増加

  • 販売会社を分離すると、両社のやり取りや事務手続きが増え、人員も増加します。これにより経費が上昇し、実際の業務効率が下がることが多いです。製造から販売までを一体化して運営することで、無駄なコストを抑えることができます。

2. 価格設定の難しさ

  • 両社の間で公平な価格設定ができないと、片方が利益を得て、もう片方が損失を被る可能性があります。不公平な価格設定が続けば、やる気を失わせ、双方の業績低下につながります。特に、自社の商品を販売する会社には、他社と同様の価格交渉の自由がないため、不平等が生じやすいです。

3. 経営効率の測定が不可能

  • 分離することで経営効率を測りたいと考えても、価格設定が不安定であれば、個々の経営効率を正確に測ることは難しくなります。また、責任の所在が曖昧になるため、個人や部門ごとの業績評価が難しくなります。販売と製造が一体となることで、全体としての成果が測りやすくなります。

4. 利益かくしのリスク

  • 販売会社を用いた利益かくしは税務署にマークされやすく、リスクが高い行為です。仮に一時的に成功しても、事業経営の姿勢が歪んでしまい、持続的な発展が難しくなります。

5. 製造・販売一体の重要性

  • 最終的には、製造と販売は一体化した方が効率的です。販売会社を立ち上げることよりも、製造から販売までの一貫した姿勢で経営することが、持続的な成長にとって重要です。

結論

販売会社の設立は、単純に経営効率や利益増加をもたらすわけではなく、リスクや複雑さが伴います。製造と販売の一体運営を通じて、無駄のない効率的な経営を目指すことが理想的です。

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