販売戦における「戦い」とランチェスターの法則を比較する際、その違いと共通点を理解することが重要です。特に、販売戦が実際の戦闘と異なる性質を持つ一方で、競争における基本原則としてランチェスターの法則を活用することで、成果をより効果的に導き出すことができます。
販売戦が戦闘と異なる点
- 損失の不明確さ:
- 戦闘では、戦死者や負傷者といった「損害」が明確な数字で示されます。
- 一方、販売戦では「売損い(機会損失)」や「潜在市場の失陥」が目に見えないため、経営者がその深刻さを実感しにくい。
- 成果の錯覚:
- 「売上が増加している」という事実だけを見て、成功と捉えがちです。しかし、占有率が低下していれば、実際には市場シェアを失っている可能性があります。
- 経営者が「売上」を成果として認識しやすいため、競争での損失や敗北を見落としがちです。
- 競争環境の緩やかさ:
- 戦闘では、敗北が生死に直結しますが、販売戦では競争が即座に企業の存続を左右するわけではありません。そのため、失敗が曖昧になり、問題が後回しにされやすい。
販売戦が戦闘と共通する点
- 有限なリソースの配分:
- 戦闘も販売戦も、限られたリソース(兵力や資源)を効果的に活用することが勝敗を分けます。
- リソースを分散させれば効果が薄れ、一点集中させれば成果が高まる「集中効果の法則」が適用されます。
- 勝者と敗者の二極化:
- 戦闘では、勝者がその戦場を支配するように、販売戦でも占有率の高い企業が市場を支配します。
- 占有率の低い企業はリソースの配分を誤ると、さらに弱体化し、競争から脱落するリスクが高まります。
- 競争原理に従う結果:
- 戦闘と同様に、販売戦でも強者がさらに強くなり、弱者がさらに弱くなる傾向があります。この「自然の成り行き」を理解しない限り、競争環境を有利に導くことは難しい。
ランチェスターの法則の適用方法
1. 弱者の戦略:局地戦に集中せよ
- 弱者は市場全体で勝とうとせず、ニッチ市場や特定の顧客層に集中することで競争優位を確立します。
- 強者が手薄な領域を狙い、そこでNo.1のポジションを獲得することを目指すべきです。
- 例: 地域密着型のサービス展開、小規模ながら特定商品に特化した販売戦略。
2. 強者の戦略:広域戦で支配力を強化
- 強者は広域での市場シェアを拡大し、競合他社が入り込む余地をなくします。
- 販売リソースを分散させすぎないようにしつつ、主要地域や主要顧客での優位性をさらに強化します。
- 例: 広告キャンペーンの活用、流通網の最適化。
3. 成果測定に占有率を活用
- 売上だけでなく、占有率を基準に戦略を評価します。
- 占有率の上昇が競争優位性を示し、逆に占有率が低下している場合は競争で劣勢に立たされていることを意味します。
4. 損失を数値化する
- 売損いを「潜在的な占有率」として数値化し、現在の市場シェアとの差分を損失として認識します。
- 例: 市場規模が100億円で自社が10億円の売上を上げている場合、占有率は10%。一方、競合Aが30億円の売上を上げているなら、自社の市場シェアの低さが明確化されます。
販売戦における具体的な戦略実践例
事例1: 地域特化型の戦略
- 地方都市をターゲットにした中小企業が、地域密着型のサービスと高頻度の訪問営業で競合大手を圧倒。
- 占有率を地域で50%以上に引き上げ、競争からの脱落を回避。
事例2: 商品特化型の戦略
- 多品種を扱う総合商社が、自社の得意分野(例: 紳士用スーツ)に特化することで市場競争力を高め、売上と占有率を同時に向上。
結論: ランチェスターの法則の必要性
販売戦では、損害や損失が明確に数値化されないため、多くの経営者は「見えない敗北」に無関心になりがちです。しかし、ランチェスターの法則を基に占有率や競争優位性を分析することで、自社の現状を正確に把握し、戦略を的確に修正することが可能です。
この法則は、単なる理論ではなく、現実の市場競争で生き残り、勝利を収めるための実践的なツールです。たとえ現在の業績が好調であっても、「売損い」という見えない損失を認識し、ランチェスターの法則を活用することで、将来の成長を確かなものとすることができます。
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