自然現象は釣鐘型の正規分布に従う。しかし、社会現象は正規分布ではなく「パレート分布」に従う傾向がある。このパレート分布は、イタリアの社会学者パレートが個人所得の調査を通じて発見したもので、「国民の所得の大部分が少数の人々に集中し、多くの人々はわずかな所得しか得ていない」という偏った現象を示している。
事業経営という社会現象において、この偏りの現象はさまざまな形で現れる。特に、売上における偏りを分析する方法として、「商品別売上高ABC分析」と「得意先別売上高ABC分析」がある。これらの分析は、売上データを商品や顧客の観点から分類し、特定の商品や顧客が全体の売上にどの程度寄与しているかを明らかにするものだ。
「経営戦略篇」では、パレート分布を「95%の原理」という形で説明している。その内容によれば、「全商品のうち半数、または全得意先のうち半数が売上高の95%を占め、残りの半数がわずか5%の売上高しか占めない」という現象を指している。この原理は、経営資源を効果的に配分するための指針としても活用される。
この分析では、各商品の年間売上高や得意先ごとの売上高を多い順に累積し、総売上高の80%に達する範囲を「Aグループ」、95%に達する範囲を「Bグループ」、残りの5%を「Cグループ」として分類する。この手法から「ABC分析」という名称が広く用いられている。〈第54表〉に示されるのが「商品別売上高ABC分析表」の形式であり、この分析は年に一度作成するだけで十分な効果を得られる。
順位とは、年間売上高の額に基づく順位のことを指す。また、商品名は必ず全商品を網羅することが求められる。これには明確な理由がある。よく見られる手法として、少額の売上を「以下何種類」とまとめる場合があるが、これは表の見た目を整えるだけのものでしかない。実際に分析結果を活用するためには、全商品を対象にすることが不可欠である。分析の本質は、格好の良さではなく、実用性にあるのだ。
第一の目的は、売上高が極めて少ない商品がどれほど多いかを一目で把握できるようにすることだ。これにより、社長自身が意思決定を行う際の判断材料となるだけでなく、社員に対して説明を行い、その判断の妥当性を納得させる際にも有効となる。この可視化は、経営資源の配分や戦略的な商品整理を進める上で重要な役割を果たす。
第二の目的は、切り捨てる商品を個別に検討する必要がある点にある。すべての商品をリストアップすることで、どの商品を切り捨てるべきかを具体的に判断できる。さらに、切り捨てる商品を順位番号で明確に指定できるため、意思決定が正確かつ効率的になる。このような明確化は、経営の透明性と実行性を高める上で不可欠なプロセスである。
金額欄は千円単位で記載すれば十分だ。これは経理資料ではなく分析のための資料であり、細かい単位を追求する必要はないからだ。また、売上比率は、この表で算出した総売上を100%とした場合の各商品の売上の割合を示す。こうしたシンプルな形式で情報を整理することで、分析の実用性と可読性が向上する。
「個別」とは、各商品の総売上に対する比率を指し、基本的にはこの比率までを記入すれば十分だ。それ以降の細かい記入は、分析において大きな意味を持たないことが多い。一方、「累計」とは、上位の商品から順に累積した売上が総売上に占める比率を表すものである。これについても、必要な範囲で記入すれば十分であり、すべてを網羅的に記入する必要はない。目的に応じて必要な情報を最適な形で示すことが重要だ。
記入するべきポイントは以下に絞るのが妥当だ。
- ベストテン
- 上位50%の位置
- 上位80%の位置
- 上位95%の位置
- 上位98%の位置
これらの指標を基準に情報を記載すれば、全体の傾向を把握しやすく、分析の実用性も高まる。無駄に詳細を追うのではなく、意思決定に直結する重要なデータに焦点を当てることが重要である。
完成した表を目にしたとき、多くの社長が驚きの声を上げる。「へぇー」という反応は、少数の商品が売上の大半を占めている事実や、少額売上の商品がこれほど多いという現実に対する驚きと認識から生まれるものだ。この反応は、経営者自身が自社の売上構造を客観的に理解し、次の戦略を考えるきっかけとなる。
「95%の原理」を前提としながらも、98%の累計比率を記載する理由は、95%以下の商品を切り捨ての検討対象とする中で、心理的負担を軽減するためだ。下位2%の商品から検討を始めることで、「すべて切り捨ててもわずか2%に過ぎない」という安心感を得られる。このようなアプローチは、合理的な意思決定を促しやすい。
また、格付け欄には、各商品の重要度を基にしたランクを記入する。これにより、売上だけでは見えない商品の戦略的重要性も把握しやすくなり、より実践的な分析が可能となる。
格付けは、「AA」「A」「B」「C」「D」といった形式で行うのが一般的だ。この後は、「得意先別売上高ABC分析」に進む。〈第55表〉がその形式を示している。この分析は基本的に商品別売上高の分析と同じ手法で作成されるが、この表を利用してセールスマンの得意先訪問を具体的に分析することが目的となる。
表の作成に関する留意点については、商品別の分析と同様であるため、ここでは省略する。そして次に注目するのは、セールスマンの得意先訪問回数に関する分析だ。訪問頻度を売上データと結びつけることで、営業効率やリソース配分の最適化を図ることができる。
「売上高ABC分析」は、売上の偏りを見極め、収益性の高い商品や得意先に集中するための分析手法です。この分析は、パレート分布(少数の商品や得意先が売上の大部分を占める偏り)を活用し、効率的な経営判断に役立ちます。以下に商品別と得意先別の売上高ABC分析について説明します。
商品別売上高ABC分析
- 目的: 商品別に売上高の偏りを把握し、収益に大きく貢献する商品と貢献が少ない商品を明確にします。
- 分類方法: 商品別の年間売上高を多い順に並べ、次のように分類します。
- Aグループ: 総売上高の80%までを占める商品群
- Bグループ: 総売上高の80%~95%までの商品群
- Cグループ: 残りの5%の売上を占める商品群
- 表の作成:
- 年間売上高順に全商品のリストを作成し、売上比率を計算します。
- 売上累計比率を計算し、各商品がA・B・Cのどこに属するかを特定します。
- 累計比率は重要なポイントで記入(上位50%、80%、95%、98%の箇所)しておくと分析がしやすくなります。
- 効果:
- 上位の少数商品が売上の多くを占めることを視覚的に把握でき、経営資源をどの商品の販売促進に注力するべきか判断しやすくなります。
- 売上が少ない商品を一目で確認でき、販売中止や入れ替えの対象として検討する材料になります。
得意先別売上高ABC分析
- 目的: 得意先別に売上貢献度を分析し、重点的にフォローすべき得意先を特定します。
- 分類方法: 得意先別に年間売上高を多い順に並べ、商品別と同様にABCに分類します。
- 表の作成:
- 得意先ごとの売上を多い順にリストアップし、売上比率および累計比率を算出します。
- 累計比率を見て、A、B、Cに分類します。
- 追加分析: セールスマンの訪問頻度や対応状況と得意先の売上高を組み合わせて分析することで、リソースの適切な配分や営業効率の向上に役立ちます。
利点と活用方法
- 集中と選択: 少数の主要商品や得意先に重点的にリソースを投じることで、経営効率が向上します。
- 商品や得意先の整理: 売上貢献度の低い商品や取引先を見直し、在庫や経費の削減につながります。
- 販売戦略の最適化: グループごとに適した販売戦略(例えば、Aグループには販売強化、Bグループには成長のための施策、Cグループには撤退検討)を立てる際の重要な基盤となります。
「売上高ABC分析」は、全社的なリソース配分や戦略的な経営判断を行うために非常に有効な分析手法です。年に一度の見直しで、次年度の販売戦略やリソースの割り振りを計画的に進められます。
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