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志を立てたら迷わずに進め——見返りを求めた瞬間に、すべては濁る

もし「自分を捨てて、人のために尽くす」と決意したなら、
その瞬間から、損得や打算といった迷いは、捨てておかなければならない。
もし心の中に「それでも本当に良いのだろうか」という疑いを持ち続けるようであれば、
その最初の志は、曇り、恥ずべきものに変わってしまう。

同様に、人に恩を施したのなら、その恩に対して何らかの報いを期待してはならない。
見返りを求めたとたんに、その「施し」は計算に変わり、
もはや純粋な心ではなくなってしまう。

真の自己犠牲とは、打算のない覚悟であり、
真の恩徳とは、見返りを問わぬ純粋な愛情の発露である。


原文とふりがな付き引用

己(おのれ)を舎(す)てては、其(そ)の疑(うたが)いに処(お)ること毋(なか)れ。
其の疑いに処れば、即(すなわ)ち舎つる所の志(こころざし)、多(おお)く愧(は)ず。
人(ひと)に施(ほどこ)しては、其の報(むく)いを責(せ)むること毋れ。
其の報いを責むれば、併(あわ)せて施す所の心(こころ)も、俱(とも)に非(あや)しきなり。


注釈(簡潔に)

  • 己を舎つ(す)てる:自分の利害を投げうち、人のために尽くすこと。
  • 其の疑いに処る:迷いや打算の気持ちを持ち続けること。
  • 愧ず(は)ず:恥じ入る。志が汚れてしまうさま。
  • 施して報いを責む:見返りを求めて施すこと。打算的な親切。
  • 施す所の心も非なり:そもそもの動機までもが不純となること。

パーマリンク案(英語スラッグ)

sacrifice-without-doubt-or-demand
「疑わず、求めずに犠牲を尽くす」という本条の主旨を明確に表したスラッグです。

その他の案:

  • pure-giving-has-no-strings
  • no-doubt-no-demand
  • true-sacrifice-has-no-regret

この章は、行動そのものよりも「動機の純粋さ」がいかに重要であるかを教えています。
どんなに立派な行為であっても、それに迷いや打算があれば、
その価値は大きく損なわれてしまう。

「人のために」という言葉の重みと、それを貫く精神の潔さを、
あらためて問い直す教訓です。

1. 原文

舍己、毋處其疑。處其疑、卽舍之志、多愧矣。施人、毋責其報。責其報、倂施之心、俱非矣。


2. 書き下し文

己を舎(す)てては、其の疑いに処ること毋(なか)れ。
其の疑いに処れば、即ち舎つる所の志、多く愧(は)ず。
人に施しては、其の報(むく)いを責むること毋かれ。
其の報いを責むれば、併(あわ)せて施す所の心も、俱に非(ひ)なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 己を舎てては、其の疑いに処ること毋かれ。
     → 自分を犠牲にして人のために尽くすときに、その行為が正しいかどうか疑念があるなら、その場にとどまってはならない。
  • 其の疑いに処れば、即ち舎つる所の志、多く愧ず。
     → 疑いのあるままに犠牲を受け入れれば、その志は後に悔いを残すことになる。
  • 人に施しては、其の報いを責むること毋かれ。
     → 人に施しをして、そのお返しを求めてはならない。
  • 其の報いを責むれば、併せて施す所の心も、俱に非なり。
     → お返しを期待すれば、その施しの心もまた真の善意ではなくなってしまう。

4. 用語解説

  • 舎(す)つる:手放す、犠牲にする。ここでは「自己犠牲」「奉仕」的な意味合い。
  • 疑いに処る:迷いや疑念がある状態にとどまる。
  • 愧(は)ず:恥じ入る、悔いる。
  • 施す(ほどこす):他者に援助や親切を与える。
  • 報いを責むる:相手に見返りを期待し、求めること。
  • 俱に非なり:両方とも誤っている、どちらも善ではない。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

自分を犠牲にするような行動をとるとき、それが正しいかどうか迷いがあるなら、そのまま実行してはならない。
疑念を抱えたまま行動すれば、結果としてその志は後悔を生むだろう。

また、誰かに施しや善意を示したときには、決して見返りを求めてはならない。
見返りを求めるなら、その行為自体が真の善意から外れてしまうからである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「善意の純粋さ」「行為の自己確認」**という、二つの倫理的軸を示しています。

▪ 前半の意義:「迷いながらの自己犠牲」は美徳ではない

  • 自分を捧げようとする行為は高尚に見えるが、自信を持てないまま流されて行う犠牲は後悔を招く
  • 「本当にそれが正しいことか?」と自問できる冷静さが、真に誇りある行為を生む

▪ 後半の意義:「見返りを求める善意」は偽善に変わる

  • 相手からの返礼や感謝を期待するなら、それはすでに“取引”であり、無償の善ではない
  • 真に価値ある施しは、**「与えて終わり」「反応を問わない」**という境地から生まれる。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

▪ 自己犠牲型の働き方は「納得感」がなければ逆効果

チームや上司のために動くとき、もし心に「本当にこれでいいのか…?」という疑いがあれば、
行動にブレや後悔が生じ、かえって信頼を損ねる可能性もある
→ 「納得して自己を差し出す」覚悟がなければ、その行為は慎重に見直すべき。

▪ 顧客対応・部下育成でも「見返りを求めない支援」が信頼を生む

  • 善意や支援に対して「感謝されない」「評価されない」と不満を持つ人は、周囲からも“損得で動く人”と見られる。
  • 「返ってこなくても構わない」という余裕ある支援姿勢が、結果的にもっと大きな信頼と感謝を引き寄せる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「迷いのある善は傷を残す──“無償と覚悟”が真の信頼を生む」


この章句は、真に誇りを持てる行動とは何か、真に価値ある施しとは何かを教えてくれます。
「迷いのある自己犠牲」や「見返りを求める親切」は、
一見美しくても後に悔いや誤解を生みがちです。

だからこそ、自分の意志を確認し、無私で与える心のあり方を持つことが、信頼される人間やリーダーの条件なのです。


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