📜 引用原文(日本語訳)
「感官には、それぞれの対象についての愛執と憎悪が定まっている。
人はその二つに支配されてはならぬ。
それらは彼の敵であるから。」
(『バガヴァッド・ギーター』第3章 第34節)
🔍 逐語訳
「感覚器官(indriyāṇi)には、それぞれの感覚対象(viṣaya)に対して、
自然に愛着(rāga)と嫌悪(dveṣa)が生じている。
人はこれら二つに支配されてはならない(na vaśam āgacchet)、
なぜならそれらは彼の精神的な敵(hi paripanthinau)であるから。」
🧩 用語解説
- 感官(indriyāṇi):五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)と心を含む知覚装置。
- 対象(viṣaya):感覚器官が捉える対象物(例えば目に映るもの、耳に聞こえる音など)。
- 愛執(rāga):快に対する執着。好意・欲望。
- 憎悪(dveṣa):不快に対する拒絶。嫌悪感・怒り。
- 支配される(vaśa):制御される、振り回される、心を奪われる。
- 敵(paripanthin):内なる成長を妨げる障害、精神の敵。
🗣 全体の現代語訳(まとめ)
人間の五感は、それぞれ特定の対象に自然と引き寄せられたり、反発したりする傾向を持っています。
しかし、それらの「好き/嫌い」という反応に心を支配されてしまっては、
理性や自由意志を失い、自らを害することになる。
このような愛憎の感情は、**自己成長における“最大の敵”**である――とクリシュナは説いています。
💡 解釈と現代的意義
この節は、人間の「欲望と嫌悪」という二大感情が、
どれほど理性や霊的成長を妨げるかを示したものです。
人の選択が「好きだからやる/嫌いだからやらない」という感情ベースになると、
その判断はしばしば偏り、目先の快・不快に振り回されます。
本当に為すべきことを見失い、衝動や感情に翻弄されてしまうのです。
ギーターはここで、「本質と義務を見極める理性」を保つことの重要性を教えています。
🏢 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
理性的な判断の保持 | 好き・嫌いで人事や方針を決めるのではなく、客観性と全体最適に基づいて意思決定することが組織を安定させる。 |
タスクの優先順位づけ | 「これは面倒だから後回し」といった感情判断ではなく、「今やるべきことは何か」に従うべき。 |
アンコンシャス・バイアスの克服 | 自分の“好み”や“苦手”に気づき、それに左右されないことで、偏見のないマネジメントが実現する。 |
感情との距離感 | 営業や交渉においても、感情を制御することでより戦略的かつ持続的な成果が得られる。 |
🧠 心得まとめ
「感情は参考にせよ、主導はさせるな」
愛するものに執着し、
嫌うものを拒絶する――
この二つは心を揺らし、
理性を曇らせ、
本来の判断を狂わせる。
だからこそ、
感覚の声に気づきながらも、それに従わない自由こそが、真の知者の道である。
この節は、次に続く「欲望と怒り」がいかにして理性を覆い尽くすかという流れへの前置きでもあります。
感官の愛憎は、次第に欲望 → 怒り → 無知 → 破滅という連鎖につながる――
その展開は次の節々でさらに深堀されます。
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