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善なる政治が続けば、刑罰はいらなくなる

――徳による統治は、時間をかけて社会を変える

孔子は、古くから伝わる言葉を引き合いに出して、深い賛同の意を示した。
「たとえ高度な学問や能力がなくとも、“善人”が百年にわたって政治を行えば、
人を殺さなければならないような大罪――つまり重罪――をこの世からなくすことができる」

これは、政治において最も重要なのは「人の善性」であり、
それが継続すれば社会全体が浄化されていく、という確信に満ちた言葉である。

刑罰で社会を正すのではなく、徳のある人間が根気よく治めることで、
そもそも悪が育たぬ環境をつくる――それが孔子の理想とした政治である。


原文とふりがな付き引用:

「子(し)曰(いわ)く、善人(ぜんにん)、邦(くに)を為(おさ)むること百年(ひゃくねん)ならば、亦(また)以(もっ)て残(ざん)に勝(か)ち、殺(さつ)を去(のぞ)くべし。
誠(まこと)なるかな、是(こ)の言(げん)や。」


注釈:

  • 善人(ぜんにん) … 学問や才知には特に優れていなくとも、本性が善良な人物。
  • 邦を為むる(くにをおさむる) … 国を治める。政治を執ること。
  • 残に勝つ、殺を去る … 残忍さや死刑といった重罰を不要にするという意味。
  • 誠なるかな、是の言や … この言葉は真実そのものだ、と強く肯定する言い回し。

1. 原文

子曰、善人爲邦百年、亦可以勝殘去殺矣。誠哉是言也。


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、善人(ぜんにん)、邦(くに)を為(おさ)むること百年(ひゃくねん)ならば、
亦(また)以(もっ)て残(ざん)に勝(か)ち、殺(さつ)を去(のぞ)くべし。
誠(まこと)なるかな、是(こ)の言(げん)や。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)

  • 「子曰く、善人、邦を為むること百年ならば」
     → 孔子は言った。「もし善なる人物が、国家を100年にわたって治めることができれば」
  • 「亦た以て残に勝ち殺を去るべし」
     → 「人々の残虐な心を克服し、殺し合いをなくすこともできるだろう」
  • 「誠なるかな、是の言や」
     → 「まさに本当のことだ。この言葉は真理である」

4. 用語解説

  • 善人(ぜんにん):徳を備えた人格者。孔子が理想とする仁・礼・義を備えた為政者。
  • 邦を為むる(くにをおさむる):国家を統治・運営すること。為政者としての務めを果たすこと。
  • 残(ざん):残虐・暴力・非道な行い。野蛮な性質。
  • 殺(さつ):殺戮・人命軽視。戦争・粛清など、命を奪う行為。
  • 勝つ・去る(かつ・のぞく):抑え込む・取り除くの意。ここでは「なくす・乗り越える」という肯定的な意味。
  • 誠なるかな:まことにそのとおりだ、という強い肯定。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう言った:

「もし徳のある人物が100年の長きにわたって国家を治めることができれば、
人々の残虐な性を克服し、殺戮という行為をもなくすことができるだろう。
この言葉は、まさに真実である。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「道徳による国家運営(徳治主義)」の理想を語ったものであり、孔子が目指した究極の政治像が表現されています。

  • 孔子は、法や刑罰(法治)ではなく、「善人による教育と感化(徳治)」こそが、社会を根本から変えると信じていました。
  • しかしそれは一朝一夕ではなく、**「100年という長い時間と継続的な努力」**が必要であるという現実的な見方も含んでいます。
  • 「人は本来善であるが、環境や指導によって悪にもなる。だからこそ善人が長く治めれば、暴力や悪徳は自然に減る」とする、教育的・文化的変革論です。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

  • 「人格のあるリーダーが組織を変える」
     能力だけでなく、誠実・公平・仁愛に満ちたリーダーが長くトップに立てば、組織の風土そのものが穏やかで調和的になる。
  • 「改革には時間がかかる──だからこそ方針と人物が重要」
     表面的な制度改革や施策では限界がある。継続的に良質なリーダーが育つ文化づくりこそ、持続可能な改革の鍵。
  • 「倫理的マネジメントが問題行動を抑制する」
     罰則や監視ではなく、尊敬されるリーダーの存在がハラスメントや不正を防ぎ、社員の行動にポジティブな影響を与える。
  • 「理念と人格を重視する経営が、結果的に争いを減らす」
     売上やKPIだけでなく、「何のために事業を行うのか」という理念を共有し、トップが誠実に体現することで、社内外の摩擦も少なくなる。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「善き人が率いる組織は、争いを超える──“人格と継続”が文化をつくる」


この章句は、「時間をかけてでも善を根付かせる」ことの大切さを説いています。
現代の経営や人材育成においても、一時的な成果よりも長期的な人格形成・文化形成の方が本質的価値を持つという教訓として生かせます。

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