富・地位・名誉がどのような過程で得られたものであるかによって、その持続性と本質的な価値は大きく異なる。
それが道徳に基づき、人格や正しい努力によって得られたものであるならば、
それは自然の中に咲く花のように、根付き、自らの力で静かに繁り育つものとなる。
しかし、それが単なる時流や商機、運に恵まれて得られたものであれば、
植木鉢や花壇の花のように、人の手次第でいつ移され、あるいは捨てられてもおかしくない不安定なものとなる。
さらに、それが権力や不正によって無理に得られたものであれば、
それは花瓶に挿された花のように、根がなく、見る間にしおれていく運命にある。
表面の美しさに惑わされず、「どう得たか」を問う。
その根が徳と努力にあるならば、その花は長く咲き続ける。
原文とふりがな付き引用
富貴(ふうき)名誉(めいよ)の、道徳(どうとく)より来(き)たるものは、山林中(さんりんちゅう)の花(はな)の如(ごと)し。自(おの)ずから是(これ)舒徐(じょじょ)にして繁衍(はんえん)す。
功業(こうぎょう)より来(き)たるものは、盆檻(ぼんかん)中の花の如(ごと)し。便(すなわ)ち遷徙(せんし)・廃興(はいこう)有(あ)り。
若(も)し権力(けんりょく)を以(も)って得(え)るものは、瓶鉢(へいはつ)中の花の如(ごと)し。其(そ)の根(ね)植(う)えざれば、其(そ)の萎(しぼ)むこと立(た)ちて待(ま)つべし。
注釈(簡潔に)
- 道徳より来たるもの:人格・徳・努力など、正しい道筋を経て得られた成果。
- 舒徐(じょじょ)にして繁衍(はんえん)す:ゆるやかに、自然に繁るさま。持続的・内発的成長。
- 盆檻(ぼんかん):鉢植えや花壇など、人の手に委ねられた育成環境。
- 遷徙(せんし)・廃興(はいこう):移動や廃棄。不安定で儚い状況。
- 瓶鉢(へいはつ):根のない切り花のような状態。美しいが一時的で命が短い。
- 萎むこと立ちて待つ:すぐに枯れるのは明白であることのたとえ。
1. 原文
富貴名譽、自德來者、如山林中花。自是舒徐繁衍。自功業來者、如盆檻中花。便有徙廢興。若以權力得者、如瓶鉢中花。其根不植、其萎可立而待矣。
2. 書き下し文
富貴名誉の、徳(とく)より来たるものは、山林中の花の如し。自(おのずか)ら是れ舒徐(じょじょ)に繁衍(はんえん)す。
功業より来たるものは、盆檻(ぼんかん)中の花の如し。便(すなわ)ち遷徙(せんし)・廃興(はいこう)有り。
もし権力を以て得るものは、瓶鉢(へいはつ)中の花の如し。其の根を植えざれば、其の萎(しぼ)むこと立ちて待つべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 富貴名譽、自德來者、如山林中花。自是舒徐繁衍。
→ 富や名誉が徳から得られたものであるならば、それは自然の山林に咲く花のように、ゆるやかに、そして自然に広がっていく。 - 自功業來者、如盆檻中花。便有徙廢興。
→ 功績や事業から得たものであるならば、それは盆栽のように人の手で移され、盛衰があるものだ。 - 若以權力得者、如瓶鉢中花。其根不植、其萎可立而待矣。
→ 権力によって得られた富や名誉は、瓶や鉢の中の切り花のようなもの。根がないので、枯れるのは目の前のことである。
4. 用語解説
- 自德來者(とくよりきたるもの):内面的な人格・道徳から自然と得られたもの。
- 舒徐(じょじょ):ゆったりとして穏やかに。
- 繁衍(はんえん):繁殖し、広がっていくこと。
- 功業(こうぎょう):立派な事績・業績・働き。
- 盆檻中花(ぼんかんちゅうのはな):鉢植えの花。人為的で制限のある成長の象徴。
- 遷徙(せんし):移り変わること。
- 廃興(はいこう):盛衰・浮き沈み。
- 瓶鉢中花(へいはつちゅうのはな):花瓶の中の切り花。根がないので長くもたない。
- 其萎可立而待矣(そのしぼむこと、たちどころにまつべし):しおれるのは時間の問題。すぐに起こるとわかっていること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
富や名誉も、徳を基盤として得たものであれば、山野に咲く花のように自然に広がり、長く続いていく。
しかし、事業や功績によって得た名声は、盆栽のように人工的で、状況次第で移されたり廃れたりする。
ましてや、権力を使って得たものは、切り花のように根がなく、すぐにしぼんでしまうのは目に見えている。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「富・名声・成功の“成り立ち”によって、その持続性と真価が決まる」という極めて重要な視点を示しています。
- 徳による富貴は、自然な信頼と尊敬によって支えられているため、長期にわたって揺るぎない。
- 功績による富貴は、一時的な成果に依存するため、外的環境に左右されやすく、不安定である。
- 権力による富貴は、人の心を得ず、基盤もなく、すぐに衰える仮初のものである。
この章句は、「何によって得た成功か」こそが、その本質を決めることを教えてくれます。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 信頼と誠実を基盤にしたブランドは、長寿で強い
道徳的理念や顧客への誠実な対応により築かれた企業価値は、時代が変わっても愛され続ける。まさに「山林の花」のような自然な広がり。
▪ 実績偏重の評価制度は、持続性に欠ける
売上や成果ばかりを追求して得た評価は、一時的な好成績が崩れた瞬間に立場を失う。これは「盆栽の花」のようなもろさである。
▪ 権力的な立場で得た信頼は、簡単に崩れる
上司だから、権限があるから従ってもらえている──そうした「形式的な支配」は、根が張っておらず、立場が変われば一気に信頼を失う。
8. ビジネス用の心得タイトル
「真の成功は“根”に宿る──徳なき富は枯れる」
この章句は、見せかけの成功ではなく、「徳による自然な広がりと継続こそが、本当の価値ある成果である」と教えてくれます。
現代ビジネスにおいても、「道義・誠実・人間力」を基礎にした企業・個人こそが、真に持続可能な成功を築ける存在です。
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