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名にふさわしいふるまいが、秩序と信頼をつくる

主旨の要約

斉の景公が政治について孔子に問うと、孔子は「君主は君主らしく、家臣は家臣らしく、父は父らしく、子は子らしく、その本分を尽くすことが要である」と答えた。これは景公の放蕩ぶりと政の乱れを暗に戒めたものであるが、景公はこれを自己利益の観点でしか理解できなかった。


解説

この章句は、儒家思想の核心である「名分論(めいぶんろん)」を表しています。
「名(な)」と「実(じつ)」を一致させること、すなわち人は自らの立場や役割にふさわしくあれ、という倫理です。

斉の景公は、その政(まつりごと)や生活が乱れており、国を導くに足る君主とは言い難い人物でした。
その彼が孔子に政治を問うと、孔子はこう答えます:

「君主は君主らしく、家臣は家臣らしく、父は父らしく、子は子らしくあれ」

これは表面的には秩序の話に見えますが、実際には「お前は君主としての本分を果たしていない」という痛烈な皮肉が込められています。

ところが景公はその本質を理解せず、「もしそれぞれが本分を果たしていなければ、食料があっても安心して食べられない」と、自分の利得や安全の視点でしか答えません。
つまり、孔子の道徳的秩序を重視する教えを、景公は実利的秩序の不安にすり替えてしまったのです。


引用(ふりがな付き)

斉(せい)の景公(けいこう)、政(まつりごと)を孔子(こうし)に問(と)う。
孔子、対(こた)えて曰(いわ)く、君(きみ)、君たるべく、臣(しん)、臣たるべく、父(ちち)、父たるべく、子(こ)、子たるべし。
公曰(こういわ)く、善(よ)き哉(かな)。信(まこと)に如(し)く、君、君たらず、臣、臣たらず、父、父たらず、子、子たらずんば、粟(ぞく)有(あ)りと雖(いえど)も、吾(われ)得(え)て諸(これ)を食(くら)わんや。


注釈

  • 君君・臣臣・父父・子子…それぞれがその「名(役割)」にふさわしい「実(行動)」を備えること。儒教の名分思想の根幹。
  • 名分(めいぶん)…社会における身分・立場・役割のこと。それに伴う責任と行動が伴って初めて秩序が成立する。
  • 景公(けいこう)…斉の君主。政において道を欠き、奢侈と享楽にふけっていたとされる。
  • 粟(ぞく)…穀物、食糧。景公の答えは、名分を自分の「取り分」への安心と結びつけて理解した点が皮肉である。

1. 原文

齊景公問政於孔子。孔子對曰、君君、臣臣、父父、子子。
公曰、善哉。信如君不君、臣不臣、父不父、子不子、雖有粟、吾得而食諸。


2. 書き下し文

斉の景公(けいこう)、政(まつりごと)を孔子に問う。
孔子、対(こた)えて曰(いわ)く、君(くん)、君たる。臣(しん)、臣たる。父(ふ)、父たる。子(し)、子たる。

景公曰く、善(よ)き哉(かな)。信(まこと)に如(し)くば、君君たらず、臣臣たらず、父父たらず、子子たらざれば、
粟(ぞく)有(あ)りと雖(いえど)も、吾(われ)諸(これ)を得(う)て食(くら)わんや。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「君君、臣臣、父父、子子」
     → 君主は君主としての振る舞いをし、臣下は臣下としての役目を果たし、
      父は父としての務めを尽くし、子は子としての本分を守る──というのが政治の根本である。
  • 「善哉」
     → すばらしい答えだ。
  • 「君君たらず、臣臣たらず、父父たらず、子子たらずば」
     → 君主が君主らしくなく、臣下が臣下の務めを果たさず、
      父が父らしくなく、子が子らしくなければ──
  • 「粟有りと雖も、吾得てこれを食らわんや」
     → たとえ食糧が豊かにあっても、私は安心してそれを口にできるだろうか(できはしない)。

4. 用語解説

  • 斉景公(せいけいこう):斉の国君。孔子に政治を学ぼうとしたが、実行力には乏しかったとされる。
  • 君君・臣臣・父父・子子:各人がその役割・立場に応じた言動をとること。「名(名称)と実(実際の行動)を一致させる」という儒教の基本思想。
  • 粟(ぞく):食糧。主食としての穀物。
  • 善哉(ぜんかな):なんと素晴らしいことか。賞賛の表現。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

斉の景公が孔子に政治の根本を問うた。

孔子はこう答えた:

「君主は君主として、臣下は臣下として、父は父として、子は子として、
それぞれが本分を果たすことが政治の基礎である。」

景公はこの答えに感嘆し、こう言った:

「本当にそうだ。君主が君主らしくなく、臣が臣らしくなく、父が父らしくなく、子が子らしくなければ、
たとえ米があっても、私はそれを安心して食べることなどできない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「名と実の一致(名実相符)」**という儒家思想の核心を示しています。

  • 社会秩序は“役割の自覚と実行”によって成り立つ
     → 名前や肩書だけあっても、それにふさわしい行動が伴わなければ、社会の信頼は崩れる。
  • 政治の本質は“制度や資源”ではなく、“人の責任と行動”にある
     → どれだけ豊かな財政があっても、トップが無責任で下の者が忠誠を欠けば、政治は破綻する。
  • 景公の「食べられない」という表現に見える“倫理的な不安”
     → 社会が名実不一致に陥ると、物理的に豊かでも安心して暮らせなくなる──現代の“信頼喪失社会”と通じる。

7. ビジネスにおける解釈と適用

(1)「役職や肩書にふさわしい行動を」

  • 社長であれば社長らしく、マネージャーであればマネージャーらしく──役割に応じたリーダーシップ・判断・行動が求められる。
     → 「部長だけど部下に責任を押しつける」などは“名ばかり役職”で、組織の秩序を崩壊させる。

(2)「“信頼して働ける職場”こそが真の豊かさ」

  • 制度や給与が整っていても、上司が頼れない、同僚が責任を果たさない、となれば、働く安心は得られない。
     → 名実一致の文化が、“食糧”以上の価値を持つ。

(3)「役割分担と協働の文化づくり」

  • 各自が自分のポジション・ミッションを理解し、それを果たす。
     → チームとしての一体感と信頼が生まれ、混乱が減る。

8. ビジネス用の心得タイトル

「名に恥じぬ行動を──“役割を全うする力”が組織を支える」


この章句は、役割と責任の明確化、そしてその実行の重要性を端的に表したものであり、
現代の企業経営やチームマネジメントにおいても極めて有効な原則です。

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