――正しさへの執着より、柔軟さと学びの姿勢を尊ぶ
あるとき、隠者の**微生畝(びせいぼ)**が、年下の孔子に対してこんな皮肉を言いました。
「丘(きゅう=孔子)よ、何をそんなにあくせく動きまわっているのだ。
そんなに世に出てうまく取り入ろうとしているのか?」
これに対して孔子は、毅然かつ謙虚にこう答えます。
「いえ、決して世に媚びようとしているのではありません。
ただ、自分だけが正しいと思い込む“頑固者”にはなりたくないのです。」
本質:
この言葉には、孔子の学びに対する真摯な姿勢と、閉ざされた心への批判が込められています。
- 孔子は、あくまで学び、他者と交わり、変化し続ける人間であろうと努めていた。
- それは、世に迎合するためではなく、自らの偏狭さを戒めるためだったのです。
彼が動き回って人と交わったのは、
**「自分の正しさに凝り固まらないため」**であり、
それこそが孔子の知の謙虚さであり、強さでもあります。
原文とふりがな付き引用:
「微生畝(びせいぼ)、孔子(こうし)を謂(い)いて曰(いわ)く、
丘(きゅう=孔子)は何ぞ是(こ)の栖栖(せいせい)たるを為(な)す者か。
無乃(むし)ろ佞(ねい)を為すに非(あら)ずや。
孔子曰く、
敢(あ)えて佞を為すに非ざるなり。
固(こ)きを疾(にく)むなり。」
注釈:
- 微生畝(びせいぼ) … 孔子より年長の隠者。静かに世を離れて生きている人物。
- 栖栖(せいせい)たる … 落ち着きなく忙しそうに動き回る様子。ここでは「孔子は世俗的に見える」と批判的なニュアンス。
- 佞(ねい) … 弁舌巧みで人に取り入ること。お世辞や迎合。
- 固(こ)き … 頑な、偏狭、がんこ。考えの柔軟性を欠くこと。
- 疾む(にくむ) … 嫌う、忌み嫌う。
教訓:
この章句は、**「自分の正しさを疑えないことこそが、もっとも大きな誤りだ」**という孔子の深い内省を伝えています。
- がんこな人間は、学ばなくなる。
- 柔軟で謙虚な人間こそ、真に正しさに近づける。
孔子の姿勢は、他者との対話や交流を通じて、自己を修正し続けることにこそ、「仁」や「知」があるという思想の体現でした。
1. 原文
微生畝謂孔子曰、「丘何爲是栖栖者與、無乃爲佞乎。」
孔子曰、「非敢爲佞也、疾固也。」
2. 書き下し文
微生畝(びせいぼ)、孔子を謂(い)いて曰(いわ)く、
「丘(きゅう/=孔子)は何ぞ是(か)くの如く栖栖(せいせい)たる者を為(な)すや。
無(も)し乃(すなわ)ち佞(ねい)を為すにあらずや。」
孔子曰く、
「敢(あ)えて佞を為すに非(あら)ざるなり。固(こ)きを疾(にく)むなり。」
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「微生畝曰く、丘はなぜそんなに忙しなく動き回るのですか?」
→ 微生畝が孔子に言った。「あなた(丘=孔子)は、どうしてそんなにあちこち走り回っているのか?」
「もしかして、口先だけのうまさ(=佞)で出世しようとしているのでは?」
→ 「それって、口のうまさで他人を操ろうとする“佞”じゃないのか?」
「孔子曰く、いや、私は口先のうまさで取り入ろうとしているのではない」
→ 「私は、決して媚びへつらうようなことはしていない。」
「私は“固(こ)”──頑なさ・偏狭さを憎むのだ」
→ 「私は、むしろ偏屈で頑固に凝り固まることを嫌っているのだ。」
4. 用語解説
- 微生畝(びせいぼ):孔子と同時代の人物。論語では質問者として登場。
- 栖栖(せいせい)たる:せかせかと落ち着きなく動き回る様。あちこち奔走している様子。
- 佞(ねい):口先がうまく、人に媚びて出世しようとすること。孔子はこれを否定的に捉える。
- 固(こ):偏屈さ、頑迷さ。自分の意見に固執して他を受け入れない姿勢。
- 疾む(にくむ):憎む、嫌う。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
微生畝が孔子に言った:
「あなたはあちこち奔走して落ち着きがないが、それは口先で人に取り入ろうとする“佞”ではありませんか?」
これに対して孔子は答えた:
「決して私は、人に媚びようとしているのではない。
私はむしろ、偏屈で凝り固まるような態度を憎んでいるのです。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「行動する知識人の誤解」と「孔子の柔軟性へのこだわり」**を示すものです。
- 「動き回る=軽薄・お調子者」という偏見に対して、孔子は「行動は信念に基づくもの」と反論。
- 佞(=巧言令色)を嫌う孔子が、それでも積極的に各地を訪ね人と語ったのは、
偏屈に閉じこもる姿勢より、対話と学びによる進化を重視したから。 - 「外に出て、他者に学び、広く交わる」ことは、真の柔軟性と知性の表れであり、決して迎合ではない。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「“動いている人”を、軽々しく批判してはならない」
- 多動な人、フットワークの軽い人は、ともすれば「落ち着きがない」と誤解されるが、
実際には学び、関係構築、適応力を持つ人材であることが多い。
✅「誠実に動くことと、迎合は違う」
- 顧客や社内外の関係者に寄り添って動くことは、信頼の形成と責任感の表れ。
- 孔子のように、「媚びて動く」のではなく、「理念を持って動く」ことが重要。
✅「頑固な信念より、柔軟な行動が時代を導く」
- 固(かた)くななこだわりを正義とせず、変化と学びに心を開く姿勢こそが、現代的リーダーシップの本質。
8. ビジネス用の心得タイトル
「動く者は迎合せず──柔らかさは、志の強さから生まれる」
この章句は、静の美徳に傾きすぎた倫理観への対抗でもあります。
孔子は、内に“志”を持ちながらも、外に向かって語り、動き、学ぶことを誇りとしました。
動くことは媚びではなく、誠実と成長の表れである。
それを体現していた孔子の姿勢は、現代の変化の激しい時代にこそ、大いなる示唆を与えてくれます。
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