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■引用原文(日本語訳)
第十章 暴力(ダンダヴァッガ)第137〜140偈
手むかうことなく罪咎の無い人々に害を加えるならば、
次に挙げる十種の場合のうちのどれかに速かに出会うであろう。
- 激しい痛み、
- 老衰、
- 身体の傷害、
- 重い病い、
- 乱心、
- 国王からの災い、
- 恐ろしい告げ口、
- 親族の滅亡、
- 財産の損失、
- その人の家を火が焼く。
この愚かな者は、身やぶれてのちに、地獄に生れる。
(『ダンマパダ』第137〜140偈)
■逐語訳
- 手むかうことなく罪なき人を害する者:無抵抗で潔白な人々を、一方的に傷つける加害行為をする者。
- 十種の報い:以下に述べられる十の現世的苦しみが、迅速に降りかかる。
- 身やぶれてのちに地獄に生まれる:死後はさらに重い報いとして、悪しき輪廻(地獄)へと堕ちる。
■十種の報いの解説
番号 | 名称 | 意味・背景 |
---|---|---|
① | 激しい痛み | 自身の身体的苦痛・事故・激しい苦悩 |
② | 老衰 | 不自然な早老・機能不全 |
③ | 身体の傷害 | 不慮のケガ、他者による加害、災難 |
④ | 重い病い | 長期化する病、難治性疾患 |
⑤ | 乱心 | 精神錯乱、混乱、心の崩壊 |
⑥ | 国王からの災い | 権力からの処罰・社会的制裁・訴訟 |
⑦ | 恐ろしい告げ口 | 密告・中傷・社会的信用の喪失 |
⑧ | 親族の滅亡 | 家族の不幸・人間関係の破壊 |
⑨ | 財産の損失 | 破産・盗難・金銭トラブルなど損失 |
⑩ | 火災による喪失 | 文字通りの火災、または象徴的崩壊(家庭・事業の焼失) |
■全体の現代語訳(まとめ)
無実で罪のない者を理不尽に害する者は、十種の苦しみのうち少なくとも一つに早晩見舞われる。そして死後には、必ず地獄というさらなる報いが待ち受けている。善悪は見過ごされることなく、必ず結果となって現れるという仏教の因果律がここに表れている。
■解釈と現代的意義
この偈は、因果応報の明確な警鐘です。特に「無実の人」への攻撃は、最大級の悪業として強く戒められています。
現代社会においては、権力や立場を利用してのハラスメント、いじめ、陰湿な排除、冤罪などが該当します。一時の優位性や衝動によって、他者を理不尽に傷つけると、その報いは必ず形を変えて本人に返る――それがこの偈の核心です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
パワハラ・差別の自滅性 | 無実で善良な部下や同僚を排除するようなハラスメント行為は、必ず信頼・人望・業績に影を落とす。 |
不正な責任転嫁・冤罪処分 | 責任をなすりつけたり、虚偽で人を貶めるような行為は、社内外での信用失墜・訴訟・制裁につながる。 |
報いの自覚と防止策 | 日々の行動において「これは誰かを不当に傷つけていないか?」と自問することが、長期的な安全と成功の基盤となる。 |
■心得まとめ
「罪なき者を傷つければ、十の報いと無限の苦が待つ」
ブッダはここで、正しき者への加害は、己の破滅を招くことを確実に示しています。
権威や怒りによって「正しいことをしたつもり」になっても、その実、他者の尊厳や命を踏みにじっていれば、
それは必ず因果の網に絡め取られるのです。
現代においても、理不尽に人を裁く者は、やがて自分自身を燃やす炎を育てている――この真理を忘れてはなりません。
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